抑圧は、爆発する。

キラークイーン KILLER QUEEN

2023/02/09改訂

本体名:吉良吉影 <キラ・ヨシカゲ>

殺人鬼、普段はサラリーマンとして生活、プロフィールJC44巻P87

能力:物体に「爆弾」の性質を与え、爆発させる

スタンド形成法射程距離パワー
身体・能力加形体 2m

当ページの要点

  • 吉良吉影は高い「創造性」の才能を持って生まれたが、それを抑圧して生きてきた。
  • キラークイーンが持つ爆弾の能力は、この抑圧されたエネルギーの暴走的発露である。
  • 吉良吉影が住む杜王町という土地には、「知性」という力が大地に長年留まり続けて生じた意識体が存在する。
  • それは吉良吉影という存在を気に入り、彼を災難から運命操作により守護する。

知性の大地

ジョジョの世界には、世界をあまねく満たし、物質や生物に宿っている霊的な力である「知性」なるものが存在する。知性はそれが宿った物質・生物の構造などを情報として「記憶」し、またその情報を周囲に信号として「発信」する性質を持っている。

そして知性は、人々が集まり、住まい、社会を形成する土地の「大地」の中に、その土地固有の巨大な意識体を生じさせる。この「知性の大地」は、過去にその土地に生きた者たちの生活習慣・しきたり・精神性といった諸々を記憶しており、その情報を今現在その土地に生きる者たちに発信する。

この影響によりその土地の住人は無意識的に、その土地で受け継がれてきた精神性に従う傾向が強くなる。またその傾向は、大地に生える「木」のように先祖代々その土地に「深く根ざす者」ほど強くなる。

こうしてその土地は緩やかにしかし確実に、この「知性の大地」にして「大地に根ざす者たちの隠れた領主」である存在、「木と土の王」の力に治められていく。

スタンド解説

キラークイーンは、ジョジョの奇妙な冒険第4部「ダイヤモンドは砕けない」に登場する殺人鬼、吉良吉影のスタンドである。その姿は人型で、指先で触れた物体に「爆弾」の性質を与え、爆発させる能力を持つ。

吉良吉影とキラークイーン

キラークイーンの、猫か怨霊を思わせる白く無表情な顔には、悪魔のような眼光の目と唇の薄い口だけがある。またその両耳は猫のように上方にせり上がって固い角のようになっている。その全身も顔と同じく白く簡素だが、前腕・腰回り・足元は黒い手袋やベルトに覆われており、またその肩や手の甲など身体各部には、金属の円板にドクロと短剣を浮き彫りにしたような独特なシンボルが飾られている。


デヴィッド・ボウイに似た顔と、コンサートピアニストのような指を持つ吉良吉影は、類まれなる「創造性の才能」を持って生まれた人間である。しかし彼は、幼少の頃から己の創造性の発露を「抑圧」しながら生きてきた(ちなみに作者のインタビュー記事によると彼は、幼少時に母親からの虐待を受けていたらしい)。

そしてそのことは彼の人格を歪ませ、目立たずに植物のように生きることを理想と考える一方で、創造性を実行する象徴である「手」への妄執に囚われ、ついには美しい女性を殺してはその手を切り取り、それと共に日常生活を過ごすことを密かな楽しみとする「殺人鬼」へと成長する。

また彼の両手は、行き場を失った創造性が精神的なエネルギーとなって溜まり続けることで、「爪」が数年周期で異常な速さで伸びるという肉体的現象を引き起こしている。その伸びの速さは即ち、彼の手に蓄積された「抑圧されたエネルギーの量」を示すものであり、「殺人衝動の強さ」を示すものでもある。

異常な速さで伸びる爪

そしてこの「創造性の抑圧」は、彼が「矢」によって得たスタンドの性質にも大きな影響を与える。キラークイーンの両手には本体と同じく、行き場を失った「創造のエネルギー」が、スタンド的な力を得て超高密度に溜まっている。発露の機会を与えられず、未練を残したまま濁り腐った、その「怨霊のようなエネルギー」は、内部に膨大なエネルギーを蓄えつつも、原油のように安定した状態を保っている。

そしてこのエネルギーは、キラークイーンの指先で触れた物体に流れ込み、「点火」されることで蓄えられたエネルギーを解放する。これがキラークイーンの爆破能力の原理である。

なおキラークイーンによって爆弾化された物体が爆発するには、「空気」が反応物として不可欠である。より正確にはそれは、「空気という物質の中に宿る知性」である。ジョジョの世界では万物に「知性」と呼ばれる力が宿り、宿った物体の情報を記憶などしている。そして空気に宿る知性は、この記憶面において最もまっさらに近く、最も自由である。

キラークイーンの「怨霊のエネルギー」はこのような空気に宿る知性との混合・反応により解放され、爆発を起こすのである(それはさながら、あり余るエネルギーを芸術などの実のある形に昇華できない者が、白いキャンバスに対して起こす癇癪のようでもある)。


キラークイーンの体内を離れて他の物体へと移った「怨霊のエネルギー」は、おそらくは本来ならすぐ(空気と反応して)爆発する性質を持つ。しかし爆弾化した物体が即爆発してしまっては、吉良吉影も巻き込まれてしまうため、そのエネルギーはキラークイーンによって制御され、「点火条件」を満たさないと爆発しないようにされている。

その点火条件は、スタンドの手による点火動作、右手か左手を親指だけ離して握り、親指で人差し指の横腹を押す動作である。この動作はおそらく、心理的にスイッチを入れるためのものでしかなく、スタンド体の構造による必然性があるわけではない。ただ爆弾の誤点火という危険を避けるため、この動作は相当強力に条件付けられている。

このため例えば、吉良吉影がいざという時とっさに頭の中からの指令だけで爆弾を爆発させようとしても、それは不可能である(またこの強力な条件付けの結果か、このスタンドの親指と人差し指には時折、ボタンか電極のようなものが現れたりもする)。

人差し指側面のボタン

またキラークイーンは上記の手動点火に加えて、「爆弾化した物体に他の物体が接触すること」を点火条件として与えることもできる。このタイプは爆弾のそばに吉良吉影がいようと何かが触れると爆発してしまうため、状況を考えて慎重に使う必要があるが、使い方次第では非常に役立つ。


キラークイーンの怨霊のエネルギーが起こす爆発は、普通の爆発とは異なり、「より高い生命エネルギーがある方向に襲いかかる」という性質を持っている。その優先順位は大ざっぱに、「健常な状態の生物」が最も優先され、次いで「大きく負傷した生物」「死体」と続き、最後に「命を持たない物質」が来る。またこれに加えて「爆弾からの距離の近さ」も優先順位に影響を与える。

これらの性質により、キラークイーンの爆破パターンにはかなりのバリエーションがある。例えば爆弾化されたのがただの物質で、それに触れている生物がいる状態で点火されると、爆破エネルギーは触れている生物だけを集中的に襲い、爆弾化されていた物質にも周囲にも被害は一切ない。一方似た状況で、ただしそばにいる生物が爆弾に触れていない場合、爆発は爆弾の周囲全方位に爆風を飛ばすように起こる(怨霊のエネルギーは接触していないと「そばに生物がいる」ことはわかっても、方向まではわからないらしい)。

また生物を直接爆弾化して、その周囲に他の生物がいない状況で点火すれば、爆発は内方向にのみ起こってその生物を消し去り、周囲への被害はない。上記以外にも、状況次第で爆発のパターンは多岐に渡るが、吉良吉影は経験則と高い知能でそれらをしっかり予測し、使いこなしている。


キラークイーンの爆弾の威力は、物体に流し込まれる「怨霊のエネルギー」の量で決まり、しかし制御しきれない量を流し込むとその場で爆発してしまう。そして一瞬触れるだけでも制御の上限を流し込むには十分である。つまり結果として一瞬触れるだけの爆弾が、最大威力の爆弾となる(ちなみにエネルギー量を加減すれば通常より小威力の爆弾も作れる)。

爆弾の生物に対する威力は、爆弾に生物が触れていれば集中的な破壊で跡形もなく消し去ってしまえるほどに強力である。一方周囲への爆発であれば、1m以内なら肉体に風穴をいくつも空けるなどの大ダメージを与えられ、3m以内なら爆風がまばらに飛んで、それに当たった肉体を切り裂けるといったところである。

キラークイーンの爆発のエネルギーは、「大小無数の短剣で対象を切り裂く」かのようなエネルギーであり、対象が生物であれば、爆発のエネルギーはその内部で方向転換しながら対象を執拗に切り裂き続け、肉片はもとより血液の一滴までも破壊し尽くしてから消え去る(この際、生物の衣服所持品は生物の一部と見なされ、同様に破壊し尽くされる)。反面、命を持たない物質に対しては、爆発のエネルギーは極めて淡白に働き、それを一度切り裂いただけで消え去ってしまう。このためキラークイーンの爆弾は生物相手のほうが威力が大きい。

またこの性質は、爆発の際の「音量」にも影響を与える。生物が対象の場合にはその爆発は、鋭利に骨肉を切り裂き、切り裂かれた断片同士がぶつかるより速く粉々にし尽くすため、爆破音はかなり抑えられ、ちょっとした喧騒の中でならその音に気付く者はまずいない。反面、物質が対象の場合には、切り裂くエネルギーは鈍めで断片同士もぶつかるため、かなりの爆破音が発生してしまう。

学校廊下で爆破された重ちー

キラークイーンが爆弾化できるのは1度に1つの物体のみで、別の物体を爆弾にしたければ今ある爆弾を爆発させるか解除するかしなくてはならない(これは上述したエネルギー制御の上限が理由であろう)。ただキラークイーンの場合、解除といっても物体から怨霊のエネルギーを消すことはできず、風船をゆっくりしぼませるように爆発分のエネルギーを少量ずつ解放することしかできない。

ちなみにこれを応用すれば、爆弾化した物体を爆風を出さずに蒸発させて消したり、爆弾化した物体の一部からエネルギーを噴出させてその物体を移動させ、しかるのちに爆発させたりもできる。

蒸発で消される女性の手
エネルギーの噴出で方向を変える空気弾

ところで、キラークイーンの両手に高密度に浸透している「怨霊のエネルギー」は、可動の少ない「手の甲」の部分で、樹液が固まるように固形化して凝縮し、この部位を樫の木のように硬くしている。ただこれは右手と左手でかなりの差が生じている。吉良吉影の創造性のエネルギーは、抑圧されて溜まる一方であるものの、日常生活のほんのわずかな創意工夫で消費もされており、それは主に吉良吉影の利き手である右手で起こる。つまりキラークイーンの手は左手の方がはるかに硬い。

さらにその結果、超硬度に固まった左手の甲の塊、それを作る「怨霊のエネルギー」は、その内に凶暴な意識を目覚めさせ、スタンドの左手を離れて自動的に人間を襲う力を得ている。この塊は吉良吉影によって「シアーハートアタック」と名付けられ、「キラークイーン第2の爆弾」として利用されている。

シアーハートアタック

「王」と「女王」

ジョジョ第4部の舞台「杜王町」は、日本の東北地方、M県S市にある、山と海に挟まれた人口6万人弱の町である。少なくとも縄文時代の昔から多くの人が住み続けてきたこの土地には、かなり早い時代から大地に宿る意識体、「木と土の王」が生じ、意思なき力でこの土地を影から治めてきた。

その力は他の土地のそれと比べても強大で、ちょっとした「運命の操作」を行えるほどであり、この土地の精神性に高い親和性を持つ者には偶然の幸運を、反社会的な者には偶然の不幸を与えたりしてきた。

そんな杜王町の「木と土の王」にとって、近代に始まった日本の西洋化、そして1980年代に始まったこの町の急速な発展は、その長い生の中でも有数の異常事態であった。大規模な宅地開発は土地の景観を大きく変え、そこに生きる住人の生活習慣・しきたり・精神性をも大きく変えてしまう。そしてこの急激な変化についていけずに「古き在り方」に縛られ続ける「木と土の王」はいつしか、地上の社会と住人に敵対的な怨念を抱く「祟り神」の一面を持ち始める。しかし「木と土の王」が祟りとして起こす現象や事件は、町の急速な変化の中ではあまりにも瑣末で、誰にも気づかれることはなかった。

だがこの抵抗のさなか、「木と土の王」は一人の人間の存在に気付く。この土地の古い武家の血を引き、高い創造性を持ちながらもそれを押し殺し、大地の表層に蠢く変わり果てた社会の住人たち(特に次世代を産み育てることになる若い女性)を殺して回るその人間は、「木と土の王」にとって非常に好ましく感じられた。

こうしてその人間、吉良吉影は、祟りの代行者として杜王町に宿る「木と土の王」に愛され、それの持つ運命操作の力による守護を、誰よりも強く受けるようになる。吉良吉影が15年に渡り、一切の証拠を残さず殺人を続けてこられたのは、彼自身の知能の高さだけでなく、運命を操作して彼に都合の良い偶然を引き起こす「木と土の王」の助力も大きいと考えられる。そして「木と土の王」の後ろ盾の元、この殺人鬼は「病」のように杜王町を影から蝕んでいく。

しかし1999年になってこの状況に少し変化が生まれる。その発端は虹村形兆という男がこの土地でスタンド使いを増やし始めたことである。そうして生まれたスタンド使いのある者は、杜王町の一角にある特殊な場所、吉良吉影による最初の殺人被害者の幽霊が住まう小道に迷い込み、「町に巣食う正体不明の殺人鬼」の存在を知る。またある者はスタンド使い同士に働く「運命的に引き合う」力によって、「木と土の王」の運命操作力を越えて吉良吉影が殺人鬼である証拠を目撃してしまい、殺される。

この2つの出来事をきっかけに杜王町のスタンド使いは一致団結し、正体不明の殺人鬼の凶行を止めるべく行動し、ついには「木と土の王」の度重なる加護の全てを打ち破って、吉良吉影を逃げ場のない破滅へと追い込む。そしてその直後、運命的な偶然に守られてきたはずの吉良吉影は、「救急車に轢かれる」という事故で死亡する。

それが「木と土の王」の加護をすり抜けた偶発的事故なのか、「木と土の王」が彼を見捨てた結果なのか、それともこれも吉良吉影を利するために「木と土の王」の思惑のもとに引き起こされたことなのか、それはわからない。ただいずれにせよ吉良吉影の死により、杜王町に巣食う2つの怪物の歪んだ愛憎劇は、ひとまず終わリを迎えることになる。

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