マンダム MANDOM

2023/02/09改訂

本体名:リンゴォ・ロードアゲイン

エピソードJC8巻P72〜

能力:時間を6秒戻す

スタンド形成法射程距離パワー
頭部のビジョン 身体・能力作業体 1m弱なし
腕時計 能力顕現物質 -なし

当ページの要点

  • マンダムが戻しているのは「世界全体の時間」ではない。
  • マンダムは周囲数100mの世界に対する「6秒先までの世界」を作り出し、それを消し去ることで時間を戻している。
  • そしてこの能力はリンゴォの美学である「男の世界」、そのさらに根源である「先へと突き進もうとする意思」から生み出されたものである。

先へと突き進む世界(読み飛ばし可)

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ジョジョの世界では6部の終盤に、あるスタンドの強大な力によって、世界の崩壊と再生が引き起こされている。それは人類の未来の可能性をたった一つに収束・固定し、人類に「永遠の幸福」をもたらすためのものであった。しかし結果としてそれは不完全に終わり、世界は収束の力の反作用で逆に、可能性を大きく拡散させてしまい、無数の「並行世界」を生むことになる。

そうして存在する一巡後の世界の西暦1890年、ジョジョ7部の世界には、まず「基本の世界」と呼ばれる「中心」が存在し、その周りに無数の並行世界が分布して、「基本の世界」に強い引力を及ぼしている(なおそれらの並行世界は、必ずしもきちんとした世界として成立しているとは限らず、断片的にしか存在しない世界や、概念的な骨組みしか持たない世界なども混ざっている)。

そしてそれら並行世界からの引力で、未来への軌道を大きく振り回される「基本の世界」、そこで起こる出来事は、まるで漫画の作者がその時々の思い付きで次の展開を決めていくかのような、「不安定な物語」としての性質を帯びることになる。

この世界の中で生まれ成長していく全てのものは、「努力と邁進の時期」から、「安楽と停滞の時期」へと進むようにできている。それは例えば、生物の生存競争の中での進化や、人間の科学技術の発展などに際して起こる。そしてこのことは物語の作者の人生においても同じである。

物語の作者が、充分な質を持った作品を作り出していくためには、当然ながらそれ相応の「努力」が必要である。基礎を学ぶ努力、基礎を応用して技術を上達させていく努力、技術を結集して1つの作品を完成させる努力、次々と作品を完成させていく努力。それらの努力の総計は膨大な量にのぼり、作者はそれを行っていくために、自分に与えられた限りある時間とエネルギーの多くをそれに捧げなければならない。そしてこういった努力によって人は、自身の技能・学力・精神といったものを、普通に人生を送っているだけでは決して到達できない領域へと高めることができる。

人をこのように努力させ邁進させる動機はさまざまである。叶えたい夢のように、目指す目的への努力がどんなに辛くとも必要な場合。その分野での努力自体が当人にとってゲームで遊ぶかのように苦でない場合。戦時中の兵器開発のように、技術の向上を敵対者と競っている場合などである。

しかし、この努力と邁進の時はいつまでもは続かない。その理由もさまざまである。かつてアポロ計画が打ち切られたように、労力に対して得られる成果の量が見合わなくなった場合。仕事に打ち込みすぎた者が体を壊して倒れるように、邁進と引き換えにおざなりにしたものによる自分の消耗が限界に達した場合。心境の変化などで邁進していたものへの興味や意義を失ってしまった場合。これらの理由によって人はいつしか「努力と邁進の時期」を抜け出し、「安楽と停滞の時期」へと移行していく。

安楽と停滞の時期はその言葉どおり、「楽で」「あまり成長しない」状態の時期である。物語の作者もその時期に入ると、邁進の時期に得た高い技術とノウハウでもって、気力も体力も大して使うことなく、長期的に安定して作品を量産できる。それは社会における動乱の時代の後の平和な時代と同じく、それ自体は悪いものではない。

しかしこのような「楽な環境」は、人を「弱体化」させるという側面もある。例えば社会での交通手段の発達が、人間から自分の足で歩く必要性を奪い、運動不足という社会問題を引き起こすように、人の肉体や心は日常的に受ける負荷が低くなると、それに合わせてどんどん弱体化してしまう。そしてそれは同時に人から、新たなことを試みるのに必要な強さや、不測の事態が起きた際にそれに対抗する強さを奪うことにもなる。

またそれに加えて楽な環境は、作者が作り出す物語から「熱さ」を奪うという問題も生む。物語というものはジャンルにもよるが基本的には「人間ドラマ」であり、楽な環境の中で作者の精神状態が落ち着き冷めてしまえば、それは物語にも少なからず反映され、キャラクターの行動やストーリー展開を大人しいものにしてしまう。

そうして作者の技術の向上は皮肉にも、徐々に作者とその物語から強さと熱さを奪っていく。そして安楽に囚われた作者の物語はその果てに、飼い慣らされた獣が飢えない家畜となって野生に戻れる強さも意思も失ってしまうように、完全に歩みを止めてしまうことになる。

そしてこうなってしまった作者が再び強さと熱さを取り戻したいと願うならば、唯一の打開策は覚悟を決めて不確かな「先」を求めて進み出すことしかない。そんな不確かな目標のために、せっかく得た高度な安定を棄て去るのは狂気の沙汰かもしれない。またその不確かな試みはおそらく、かつての邁進の時期より無駄足の繰り返しに満ちた努力を必要とし、あるいは実を結ばないまま終わる可能性もある。

しかし、その挑戦が成功して進むべき道を見出だせたなら、物語は新たな熱を得て新たな燃焼を始め、新たな光を輝かせることができるだろう。そして、歩みを止めかけていた物語はこの挑戦によって、再び力強く歩き出せる「再生した物語」へと、一歩近づくことになる。

スタンド解説

マンダムは、ジョジョの奇妙な冒険第7部「スティール・ボール・ラン」の登場人物、リンゴォ・ロードアゲインのスタンドである。そして彼は、「男の世界」なる価値観の基に、他者と公正な条件で命がけの決闘を行うことが、自分を精神的に成長させてくれると信じる狂気のガンマンである。

リンゴォ・ロードアゲイン

アリゾナ砂漠の「悪魔の手のひら」と呼ばれる特殊な土地でスタンド使いとなった彼は、ジョジョ7部の世界に存在する無数の並行世界のうち、「先へと突き進む世界」の概念と同調した能力を獲得する。その能力は、「基本の世界」から時間的・空間的に地続きな、「6秒分先行した世界」を作り出すことである。


仮に「基本の世界」を、前後左右だけに広がり高さの無い一枚の板と考え、その板が下方の過去から上方の未来へとせり上がっていくのが時間の進行であるとする。このモデルにおいて、マンダムの作り出す「6秒分先行した世界」は、「基本の世界」を表す板の上に、「丘」のように突き出た領域として表される。

その領域の板上での広さ、つまりマンダムの空間的射程範囲は、だいたい半径数100mぐらいと推測される。またその「丘」は、リンゴォの周囲数10mでは「6秒分の高さ」を持つが、そこから外れて周辺部に向かうほどになだらかに低下して斜面を描き、射程距離の限界のところで「基本の世界の今」と同期する。

そしてこの「時間の丘」は、「基本の世界」で進行していく時間にせり上げられながら、その中心域は常に6秒分未来に在り続けることになる。


本体のリンゴォは子供の頃は、精神的にも肉体的にも非常に脆弱であった。リンゴォ少年は強くなろうとする意思や、自分を取り巻く世界が自分に与える危害に抵抗する意思を全く持たず、その極端な気力の無さは肉体にまで影響を与え、彼の皮膚はちょっとしたことでたやすく傷つき、また病原菌の類にもたやすく侵され常に病気がちであった。

リンゴォ少年

しかし、ある事件を境に彼の生き方は180度変わる。それ以降の彼は精神を常に張り詰めた状態に保ち、肉体を常に気力で満たし、まるで修行者のように自分を厳しく律しながら生きることになる。

そしてリンゴォの心身に満ちるこの「張り詰めた気力」こそが、「基本の世界」から未来へと持ち上げられた「時間の丘」を作り出す動力源になっている(まるで重量挙げの選手が気合を入れてバーベルを高く持ち上げるように)。この「時間の丘」の作成は、リンゴォが意識せずとも自動的に発動する能力であり、またリンゴォの意識がある限りは維持し続けられる、常時発動タイプの能力である。

ただ、こうして作られた「先行した世界」は、物理法則などの面で「基本の世界」と特に違うところはなく、つまりそれだけではこの能力は何の意味も持たない。マンダムの能力の真価は、能力をいったん解除して、「6秒分先行した世界」を消してしまうことで、時間を「基本の世界の今」、つまり「6秒前」にまで戻すことにある。


しかしこの能力を使うには一つの問題がある。上述したようにリンゴォは自分の肉体を常に「張り詰めた気力」で満たしており、「先行した世界」はそれに連動して作られている。そして「先行した世界」がリンゴォの心身に直接連動していた場合、リンゴォは能力の解除の際に、いったん自分の心身に満ちる「張り詰めた気力」を解かなくてはならなくなる。それは一時的とはいえ自分を脆弱な状態に戻すことになってしまう。

そこでマンダムでは、リンゴォの肉体の他にもう一つ、「張り詰めた気力」を貯め込む「外部タンク」をスタンド像として用意し、「先行した世界」の作成と解除をそちらに連動させるという手法をとっている。

さらにマンダムでは能力の解除も、リンゴォの頭の中から「気力を解放する」という指令を出して直接行うのではなく、マンダムのもう1つのスタンド像、リンゴォの右手首に付けられた腕時計を操作して行う。このように、能力の解除対象と解除スイッチを共にリンゴォの心身から切り離すことで、この能力はリンゴォ自身の「張り詰めた気力」に全く影響を与えないようにされているわけである。


リンゴォの身代わりに「張り詰めた気力」の放出を行う外部タンクのスタンド像は、人間の肩口から上だけを切り取ったような姿を持ち、目鼻口耳が無い無貌のその頭部は、細い紐を格子状に巻き付けたようになっている(また別の見方ではその姿は、腕時計の時計部分と、ベルトの時計に隣接する部分だけを切り取り、文字盤の上にピンポン玉を付けて、それらを人間の頭部のスケールに合わせて大きくしたようにも見える)。

外部タンクのスタンド像

また肩口の切断面に当たる底面からは、長さ1m未満のチューブが何本も伸び出て、それらはリンゴォの上半身の各所に適当に繋がっている。リンゴォの肉体に常に満ち、溢れ出す「張り詰めた気力」は、このチューブを通じてスタンド像の頭部にも送り込まれ、それに伴い「時間の丘」の高さも増していき、頭部内の圧力がリンゴォの体内と釣り合った6秒分の時点で、「時間の丘」の成長も止まる。

リンゴォの右手首に付けられている腕時計は、外部タンクのスタンド像と連動しており、この腕時計に付いている「竜頭」が、外部タンクに貯められている「張り詰めた気力」を放出する栓の役割を担っている。また腕時計の文字盤には秒針しか付いておらず、文字盤も90度ごとに「15、30、45、60」の秒数を示すだけである。

右手首の腕時計

リンゴォが竜頭を回すと、外部タンクに貯められていた「張り詰めた気力」は一瞬で放出され、それによって維持されていた「時間の丘」も一瞬で崩れ去り、時間は6秒戻る。このとき文字盤の方では秒針が6秒戻り、そして再び「時間の丘」が作り始められ、限界に達するまでの6秒を刻み、以降は「基本の世界の今」に押し上げられて経過していく「先行した世界の今」と共に、時を刻んでいく。


「先行した世界」の中にある、大地・草木・リンゴォの肉体など全ての物質は、「時間の丘」の成長が始まる時に、「基本の世界」からコピーして作られたものである。そして、「時間の丘」の中に外部から何者かが入ってきた場合には、その者の肉体もコピーされ、さらにその者の精神はコピーされた肉体の方へと移動し、「先行した世界」の中を本物の世界の「今」だと誤認したまま行動することになる。

そして「先行した世界」が解除されるとその精神は、「基本の世界の今」にある自分の本来の肉体まで落ちて戻る。これはつまり、時間が6秒戻っても、リンゴォを含めた射程内の人間には「先行した世界」で行動・体験した記憶は残り、一方「先行した世界」の6秒の間に肉体に負った負傷などは元に戻るということである(ちなみに、「時間の丘」の下敷きになっている「基本の世界の今」での出来事は、「先行した世界」で起きた出来事を、6秒後にそのままなぞる形で進行しているため、時間が戻った時のリンゴォその他の者の状態が彼らの記憶と異なったりはしない)。

なお、マンダムの能力は時として、「時間の丘」の中にいるリンゴォ以外の者の「張り詰めた気力」に反応して、6秒よりさらに先の未来を作り出すことがある。ただしその未来は極めて不安定なため、1秒前後進んだところで耐え切れずに崩れて元の「今」(つまり6秒分先行した方の今)へと戻ってしまう。そのためこの1秒前後の未来を体験し、且つマンダムの能力の原理を知らない者にはそれは、自分の心の中での未来のシミュレーションが見せた、生々しい白昼夢としか解釈しようがない(作中でジャイロが体験したのはこれである)。

また、「時間の丘」が解除されて、「基本の世界の今」に落ちた者の精神は時として、勢い余ってそこからさらに1〜2秒ほど過去にまで落ちることもある。この場合その者は、「基本の世界の今」に戻るまでの1〜2秒間は、前回と同じ言動しかとることができない(作中でホット・パンツが体験したのはこれである)。


狂気のガンマンリンゴォはマンダムの能力を、自分が求める「公正な決闘」を他者に強要するために利用している。知らぬ間に「時間の丘」に入ってリンゴォに近付き、そして遠ざかろうとする者は、リンゴォが6秒おきに時間を戻す限りは、決して「時間の丘」の射程範囲から脱出できないという状況に陥る。リンゴォは決闘を望む相手にこれを行い、その状況の原因が自分であること、自分を殺さなければこの場所からは出て行けないことを相手に伝え、強制的に戦闘へと持ち込む。

そしてリンゴォは戦闘状態に入ってからも、その戦闘を「公正な決闘」にするためにマンダムを利用する。まずリンゴォは公正な決闘にならない攻撃を自分が受けた場合、例えば不意打ちされたり多人数に襲われたりした時には、時間を6秒戻してそれに対処し、状況を仕切り直す。

そうして、向かい合って1対1の状況に持ち込んだ決闘では、リンゴォは必ずしもマンダムを使うとは限らない。リンゴォは自分と敵との武器を見てその戦力差を測り、彼我の戦力がだいたい対等か、自分が多少不利なくらいの状況では、決闘でマンダムを使わない(作中ではガウチョおよびジョニィと戦った時の状況がこれに当たる)。

逆に敵の武器が自分の物より数段強力で、マンダムの能力込みで戦った方が対等な決闘になると判断した場合や、あるいは決闘が消化不良な形に終わってしまい、時間を戻して決闘を継続するのが望ましいと判断した場合には、リンゴォはマンダムを使用する(作中ではジャイロと戦った時の状況がこれに当たる)。そしてこの点に関してリンゴォが、自分に甘い判断をすることは決して無い。

もし自分が公正な決闘に負けた時などに、自分の命惜しさにマンダムを使って生き残った場合、リンゴォは自分が幼い頃の、脆弱な精神と肉体に戻ってしまうであろうことを自覚している。そして子供の頃と違い、今度そうなってしまったが最後、二度と今の強い意志を取り戻せないであろうことも自覚している。そうなれば結局彼に待ち受ける未来は、惨めに野垂れ死ぬか、惨めに生き恥を晒し続けるかのどちらかだけである。それは彼にとって絶対に避けるべき未来であり、ゆえにリンゴォは迷うことなく決闘での気高い死を選ぶのである。

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