ティナー・サックス TENOR SAX
本体名:ケニーG
DIOの側近
能力:迷宮など幻覚の風景を作り出す
スタンド形成法 | 射程距離 | パワー |
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不明 | − | − |
セフィラ解説
宇宙・人類・個人といった存在における、その生涯や一時的に行う計画などを、成長する一つの「生命」、範囲を持った一つの「世界」と捉え、これら「生命世界」が進化や目的を、全く実現できていない「無」から、完全に実現された「有」へと至る際に辿る状態の、普遍的な共通性を図像化したものである『生命の樹』。「セフィロトの樹」とも呼ばれるそれは、「状態」を表す10個の球体「セフィラ」と、それを結び「変化」を表す22本の小径「パス」から成る。そしてこの「生命の樹」には、10個のセフィラとは別にもう1つ、特殊なセフィラが存在する。通常「生命の樹」が描かれる階層より下層にあり、どのパスともセフィラとも結ばれていないそのセフィラは、「ダアト」(Daath:知識)と呼ばれ、「閉塞せしもの」を暗示する。
生命世界が分野内の情報を取り入れ、それらを解析して成長を得るためには、分野内の全情報のうち、ある程度以上の量を収集しなければ、順調な解析は行えない。なぜなら分野内の情報はそれぞれが大なり小なり関連しあっており、情報が不充分な状態でそれを解析しようとしても、数分の1しかピースの無いジグソーパズルを組み立てるような状態にしかならないからである。そして生命世界がそのような状態になってしまう原因としては、外的・内的な理由により、分野内における活動範囲に限界が生じることが挙げられる。檻に入れられた動物にとって檻の中から見えるものが世界の全てであるように、体の弱い者が外出できる範囲が限られるように、集中力の無い者が一つの学習にのめり込めないように、活動範囲の限界は充分な情報の収集を不可能とする。「ダアト」は上記の理由により、それ以上成長できない「閉塞」状態になった生命世界が陥るセフィラである。そして同じく上記の理由から、「ダアト」は便宜上、「受容せしもの」を暗示する「ゲブ」のセフィラと、「収集せしもの」を暗示する「バステト」のセフィラを結ぶ直線上の中間(の下層)に置かれる。
また「ダアト」は見方によっては、「アトゥム」及び「オシリス」のセフィラとも関連している。「オシリス」のセフィラへと至った生命世界は、自らを360度取り囲む数多の分野の中から、次に進入する分野を選択する。この数多の分野を一つの巨大な分野と捉えた場合、次なる分野への「進入」ができない状態と仮定した「オシリス」、そしてその前段階として、現在いる分野からの「解放」ができない状態と仮定した「アトゥム」は、条件付きではあるが「ダアト」と同じ状態、分野内でそれ以上の情報を収集できない状態となるわけである。
「ダアト」のセフィラはいわば、茶碗の中のように周辺部ほど傾斜がきつくなり、ゴムの綱につながれた犬のようにそこから離れようとするほど抵抗が大きくなる、蟻地獄のようなセフィラである。そしてそこへと陥った生命世界は、3種類の活動しか行うことができなくなる。1つめはその生命世界がすでに獲得している成果を延々繰り返すこと、2つめは不充分に収集された情報を延々こねくること、3つめはこの蟻地獄からの脱出に延々取り組むことである。このうち3つめと2つめの活動は生命世界に、変化に至るほどではない小さな動き、活動を中断すれば元の状態へと戻ってしまう動きである「振動」を起こす。この振動は場合によっては、サイコロを入れた茶碗に小さな振動をずっと与えていると偶然が重なって茶碗からこぼれ落ちることもあるように、生命世界を偶然「ダアト」から脱出させることもある。しかし大抵の場合そのような偶然はまず起こらず、生命世界は出口のない迷宮を彷徨うように、「ダアト」の中で延々無駄な振動を続けることになる。
外部からエネルギーや情報を供給されない空間、物理学的に言うところの「閉鎖系」の空間は、時が経つにつれ熱湯が冷め砂山が崩れるように均一化を進め、いつか必ず完全なる均一化の終焉である「熱的死」を迎える。それと同様に、「ダアト」に陥った生命世界の振動も、時が経つにつれて必然的・運命的に弱まっていく。そしてそれは概念上においては生命世界を、順調なる変化の場である「生命の樹」の通常階層から、蟻地獄の中をずり落ちていく蟻のように、下層へと沈ませていく。そして完全に振動が停止した時、その生命世界は半永久的に脱出不可能な生命世界の墓場、「アビス」(深淵)と呼ばれる領域へと落ちることになる。
スタンド解説
戸や窓が閉め切られた館など、閉鎖された空間の内部に、実際には存在しない風景を「幻覚世界」として作り出せるスタンド能力。その幻覚は、楽器を演奏してさまざまな音色や曲調を周囲に響かせるように、本体ケニーGのスタンドエネルギーを光や音などの「振動」に変えて放出し、それによって周囲の空間内にさまざまな風景やそれに付随する音などとして作り出されている(なおそのスタンドエネルギーの振動が、ケニーGの肉体から直接発せられるのか、ケニーGから出現する何らかのスタンド像を介して発せられるのかは不明である)。「ティナー・サックス」の幻覚は、閉鎖空間内に重ねて描かれるように形作られ、つまりはその空間内に元からある物質やそれから発せられる音などを、視覚的・聴覚的に消し去ったりはできない。このため普通に考えれば、閉鎖空間の広さ以上に広大な空間の幻覚を侵入者に見せることは不可能なはずだが、「ティナー・サックス」は後述するいくつかの手法により、この問題をクリアしている。
「ティナー・サックス」が作り出す幻覚は、単なる幻ではなく、スタンドエネルギーによってある程度の力を与えられた「力ある幻覚」である。このためその幻覚は、単なる映像と音声のみならず、流れる風や漂う匂い、そしてちょっとしたサイズ程度なら固体までも、確かな実在を感じさせるものとして作り出せる。そしてさらに、その幻覚のエネルギーは、「何か」の幻覚を作り出すだけでなく、「見えない幻覚のエネルギー」が閉鎖空間内を満たすことで、いくつかの特殊な効果をも発揮する。以上のことを踏まえた上で、「ティナー・サックス」の作り出す幻覚世界は、幻覚のエネルギーの使い方によって、「ミラーハウス型」と「プラネタリウム型」とに分けられる。
「ミラーハウス型」の幻覚世界は、閉鎖空間内での幻覚の乱反射を利用したタイプの幻覚世界で、主に体育館以上の広い空間で使用される。閉鎖空間内の壁に当たってランダムに反射を繰り返す幻覚は、ミラーハウスで鏡の向こうにも空間が続いていると感じられるように、実際の空間以上に広大かつランダムな風景を描き出せる。作中で「ティナー・サックス」はこの幻覚世界を使ってDIOの館内部に、通路と階段がランダムに組み合わさってどこまでも広がる、迷宮の風景を作り出していた。なおこのタイプの幻覚世界では侵入者は、空間内を乱反射している幻覚のうち、自分に強く届いてくる幻覚を基に周囲の風景を認識する。このため侵入者が移動していくと届いてくる幻覚もランダムに入れ替わり、(実際のミラーハウスでもそうであるように)周囲の幻覚の物体が妙な方向に移動したり突然消えたり現れたりといった現象が起こってしまう(つまり侵入者がこの空間を幻覚と知らずに入ったとしても、すぐにミラーハウスのようなものだと看破できてしまう)。ただこの現象はその性質上、侵入者のすぐ近くにある幻覚では起こりにくく、遠景の幻覚になるほど起こりやすいため、侵入者に数メートル先にある物も信用できないとまで感じさせることはない。
またこれに加えてミラーハウス型の幻覚世界では、壁面に近くなるほど幻覚のエネルギーが溜まって密度が高まり、その見えない幻覚のエネルギーは、壁面に近づこうとする物体に抵抗をかける。これによりミラーハウス型の幻覚世界は概念上、トランポリンの上に重い物を乗せたような模式図で描かれる重力場のごとく、周辺部ほど傾斜がきつい茶碗の中のような状態となる。このため侵入者が閉鎖空間の壁面、反射により見えなくなっている壁面に気付かず近づいていったとしても、土手などの傾斜面を歩いていると自然と下に下りていってしまうように、その歩みは自然に曲げられ壁面から遠ざけられてしまう(これには上述した風景のランダム変化で、方向感覚が定まらないことも寄与する)。そしてこの効果によりこの幻覚世界内では、数10メートル四方以上の広さの空間があれば、侵入者がひたすらまっすぐ歩き続けているつもりでも、実際には同じ場所の中をぐるぐる歩き回らせるということも可能となる。
「プラネタリウム型」の幻覚世界は、幻覚のエネルギーを一箇所に集中させて作られる高密度の幻覚世界で、主に10メートル四方程度の室内で使用される。その形状は茶碗を逆さに伏せたような半球のドーム型であり、作り出せる最大直径は10数メートルほどと思われる。そしてその内部には夜の星空を描き出すプラネタリウムのように、幻覚の風景が描かれている。ただしその風景には本物のプラネタリウムとは違う、特殊な効果が働いている。このタイプの幻覚世界の中では、ドームの壁面に近いほど幻覚のエネルギー密度が高められ、その見えない幻覚のエネルギーは、その中を進む光や音を「遠近感的に引き伸ばし」、「本来より遠くに感じさせる」という効果を発揮する(この効果は幻覚で作られた風景や音にもかかる)。このためこの幻覚世界では、壁面近くの幻覚を、周辺部が圧縮されて描かれた世界地図のように作り出すことで、内部に居る者からはそれは遠近感的に引き伸ばされ、はるか遠くまで続く風景として自然な距離感で見えることになる。また、比較的狭いこの幻覚世界では、幻覚のエネルギーをふんだんに使えるため、ミラーハウス型より凝った風景を作り出すこともできる。作中で「ティナー・サックス」はこの幻覚世界を使って、突き抜けるほど高い青空に雲が流れ、水平線までを見渡せる広大な海に浮かぶ、数メートル四方の広さの無人島の風景を作り出し、海上を吹き抜ける風・潮の匂い・砂を踏む感覚から、波打ち際を歩く蟹までも幻覚として作り出していた。
なお、狭い上に距離感も正確に描かれているプラネタリウム型の幻覚世界では、ミラーハウス型のように脱出しようとする侵入者を自然にぐるぐる歩き回らせることは不可能である。このためこの幻覚世界は作中でのゲーム対決のように、主に何かを行うためのイベント会場のようなものとして使用され、また侵入者をドームの壁に近づかせないため、壁の近くを例えば底の見えない断崖の風景にするなどしておく必要がある。
以上のように「ティナー・サックス」はさまざまな幻覚の効果を用いて、侵入者を幻覚世界内で彷徨わせ、自然な幻覚を感じさせ続けるようにしている。しかしあくまで幻覚であるその効力はそれほど強くはないため、侵入者が全速力で走ったり、二人以上の者が互いの距離を確認しながら何10メートルも離れたり、周囲の物体の徹底的な破壊を始めたりすれば、幻覚を破綻させられてしまう。このためこの幻覚能力は、侵入者たちの警戒感を煽り不用意な行動を慎ませるよう工夫して使うことが重要となる。
あと、これはどういう理由か不明だが、「アトゥム神」のスタンド使いテレンス・T・ダービーは、「ティナー・サックス」が作り出した幻覚世界の中で、そこから脱出しようとする運動エネルギーや、別の幻覚世界へと移動する能力効果を、発生させることができるようである。作中でダービーはその力を自覚的に利用し、床に溜まった幻覚のエネルギーとの斥力で数センチばかり宙に浮かんだり、その状態で館の奥から開いた館の戸口に向かって高速で滑るように移動してきたり、迷宮の幻覚世界から無人島の幻覚世界へとつながるトンネル状の「穴」を作り出し、承太郎たちをそこに引きずり込み連れ去ったりしている(もっともこれらはただ単に、「ティナー・サックス」のさらなる能力であるというだけの可能性もある)。