川尻早人でのバイツァ・ダスト作動記録

■ジョジョの奇妙な冒険第4部の終盤、153話〜161話まで続く「アナザーワン バイツァ・ダスト」は、数多あるジョジョの能力描写の中でもかなり難解な部類に属している。

■バイツァ・ダストはまず能力の原理が非常に複雑である。さらに作中での描写もいろいろ省略されているため、事態の全容を非常に把握しづらい。

■そこで本記事では、個別スタンド解説の補完として、作中の各シーンの描写の意味を詳しく解説していくことにする。

繰り返される朝の前夜(アナザーワン バイツァ・ダスト その1)

川尻早人を殺害してしまい、絶望していた時に「矢」に再び射抜かれて第3の能力に目覚めた吉良吉影。彼がまず自覚したのは、杜王町の大地に由来するらしき強大な力と、自らのスタンド「キラークイーン」とが強く結び付いたという感覚である。

だがいくら強大な力を得ようと、目の前の絶望的な状況を打開できなければ意味がない。そしておそらく吉良は絶望しながらも、この強大な力が自分を救うと信じて、問題の根源である早人の死体に爆弾を仕掛け、第3の爆弾を点火する。そしてその結果「時間爆破」が起こって時は1時間戻り、早人は生き返る。ジョジョの世界では死亡から時間が経ち「魂」が離れてしまった人間は、本来どんなスタンド能力でも蘇生できない。しかし時間そのものを巻き戻すバイツァ・ダストにはそれが可能なのである。

そしてバイツァ・ダストによる時間爆破では、状況次第で「吉良吉影」および「爆弾を仕掛けた対象者」だけは消し去られた1時間分の記憶を保持できる。吉良自身が作動させたこの最初の時間爆破では、吉良だけが記憶を保持して戻ることになる。

仮にこの時間爆破で川尻早人が、「父親が別人の殺人鬼であること」を知る前にまで記憶が戻っていれば、ここでバイツァ・ダストの作動はいったん終わっていた。しかし早人がそれを知ったのはもっと前だったため、キラークイーンは早人に取り憑き、早人から第三者に情報が漏れた時に相手を爆殺する「地雷」として活動を開始する。

そしてそれは吉良吉影にとって幸運であった。吉良吉廣が息子の吉影に伝えたように、この時点で岸辺露伴たちは、川尻早人の奇妙な行動から「川尻浩作が吉良吉影かもしれない」とわずかだが疑念を抱いていたからである。

露伴たちにとっては、確証がない状態で川尻浩作に警戒しながら近づくよりは、まず早人から確証を得られるか確かめたほうが安全策である。それは吉良側からも容易に推測できることであり、「地雷」となった早人は露伴たちを一網打尽にできる恰好の罠というわけである。

また露伴たちにとっては、自宅で川尻浩作と一緒にいるであろう早人を訪問するのは下策であるため、このままシーンは早人が登校する翌日の朝へと移行する。

繰り返される朝の1(+2)回目(アナザーワン バイツァ・ダスト その2〜3)

作中で描かれた「最初の朝」では、登校途中の早人に露伴が単独で接触し、スタンド「ヘブンズ・ドアー」で「本」に変えて記憶を読み、そこになぜかこれから降る雨のことなどが書かれていることを知って困惑しつつも読み進め、吉良吉影の情報を知った8時30分時点でバイツァ・ダストが作動する。そして露伴が爆殺されると同時に時間爆破も起こる。

早人の記憶に未来のことが書かれていた理由は、「作中での最初の朝」が実際は「時間爆破で繰り返されている数回目の朝」だったからである。つまりそれ以前の朝は読者には見せられていない。

これは読者視点でストーリーの意味が分かりにくくなっている一因である。しかしストーリー構成の視点から見れば、「1回目の朝」から律儀に同じ朝を何度も描くのは、同じ描写が何度も繰り返されて非常に煩雑である。実際「作中の最初の朝」と「それ以降の朝」とでは描写がかなり被っている。これに加えてさらに同じ描写を繰り返すのは、ジャンプ誌上でも単行本でも好ましくない。

このためジョジョでは「難解になる」リスクを取ってでも「同じ描写を繰り返さないための省略」を選んだわけである。またこの省略によって読者は、「なぜか未来を知っている早人」を露伴と同じ立場で目にすることになり、「演出上のインパクト」も得られる。

なお作中での早人の描写からわかるとおり、ここまでの早人は「前回の朝」を覚えていない。この理由は1時間戻った7時30分時点の早人が「睡眠中」だったからである。睡眠中に「強烈な内容の夢」を見ても、目が覚めると忘れてしまっていることが多々あるように、精神だけを睡眠中の肉体に戻された早人もまた、前回の朝を夢のように忘れてしまっている。(ただその記憶は意識外で肉体に転写されてはおり、露伴が読んだのはそれである) 

そしてこの「作中の最初の朝」から1時間戻った「次の朝」では、早人は前回の朝のことを「おかしな夢」としてはっきり記憶しており、ここから自分の状況を自覚した早人とバイツァ・ダストとの戦いが始まることになる。

ちなみに当サイトの解釈では、「作中の最初の朝」は少なくとも「3回目の朝」となる。この理由は作中で起こっていた「天気予報にない雨」と「落雷」が、バイツァ・ダストの影響であり、かつ同じ時間を繰り返して初めて起こる現象だからである。その現象が「前回の朝」を記憶している今回の早人の本に書かれていたということは、前回の朝もまた繰り返された朝となるわけである。

そしてこう考えた場合、この2回後の朝で吉良が早人の策略に対して言った、「4回は往復しないと思いつけない考え(つまり5回目の朝)」という予想ともぴったり数が合う。また本にされた早人に書かれていた「警告」という文言も、露伴が2度爆殺されるのを体験した結果、無意識下で刻まれたものであろう。

繰り返される朝の4回目(アナザーワン バイツァ・ダスト その4〜6)

この朝では早人が露伴を爆死させないため、露伴に気付かれないよう距離を取っていたが、バイツァ・ダストの「運命を再演する能力」により、前回の朝と全く同じ7時30分に露伴が爆殺される。これで吉良が言っていたとおり「早人と露伴が接触した事実」も消されることになる。

さらにその数分後に早人は空条承太郎、東方仗助、虹村億泰、広瀬康一の4人に一度に出会ってしまい、8時36分に全員を爆破して、時間は7時36分に戻る。

繰り返される朝の5回目(アナザーワン バイツァ・ダスト その7〜)

この朝では早人が、露伴が爆殺される8時30分より早くバイツァ・ダストを解除させるため、吉良の殺害を試みるも失敗し、窮地に陥ってしまう。

ここで1つ思いつくのは、早人が吉良の殺害に失敗するたびに、大声で吉良の正体を叫ぶなどして時間を戻し、再挑戦するというアイデアである。しかしこのアイデアには大きな問題がある。まず1つは、早人に他者の爆殺を伴う非道な手段を使えないことがある。しかしさらに重大な問題がある。

もしこの手段によって吉良の近く、吉良の認識下で時間爆破が起こった場合、吉良はまず間違いなく自分の記憶を保持して1時間前に戻れる。(前夜の時間爆破の時と同じく) そしてさらには、早人の記憶を保持させないことすらできる可能性もある。そうなってしまった場合、次の朝での早人の状況は確実に非常に悪化する。早人がこの手段を使えなかったのは早人自身にとっても幸運だったのである。

そして窮地に陥っていた早人は、自宅を出る前に講じておいた「賭け」に勝ったことで形勢を逆転し、吉良に自らバイツァ・ダストを解除させることに成功する。

ちなみにバイツァ・ダスト解除直後に露伴の首筋に雨粒が落ちていたが、これは単なる偶然でも、単なる読者向けの演出でもない。それはバイツァ・ダストの解除で急速に弱まっていく「爆破の運命」が、形を変えて実現された残滓である。つまりこれは能力の解除がまさにギリギリであったことを示している。

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