ブローノ・ブチャラティの分水嶺

ブローノ・ブチャラティはジョジョの奇妙な冒険第5部「黄金の風」に登場する20歳の青年である。彼は心優しい性格でありながら、12歳のときに抜き差しならない状況からギャング組織「パッショーネ」の一員となり、裏社会で汚い仕事に手を染めながらも、自分なりの正義を守りながら生きてきた。

ブローノ・ブチャラティ

そんな彼はある日、パッショーネの一員である「涙目のルカ」が変死した事件の犯人を探し出して始末する命令を受ける。そしてその捜索の途中で、5部の主人公ジョルノ・ジョバァーナに接触し、拷問を行う。

その際のブチャラティの性格は冷酷で、ジョルノをいたぶるのを明らかに楽しんでいる風である。これは上述した彼がギャングになったいきさつとも、以降の彼の性格とも、大きくかけ離れ、矛盾している。

ジョルノを拷問するブチャラティ

そして、まるでここだけ別人であるかのようなブチャラティの性格は、実は「演技」である。以下に彼がなぜそうしたかの理由を解説していく。


ジョルノに会う前にブチャラティが得ていた情報は、「ルカが変死した空港にジョルノがいた」「ジョルノという少年は15歳ながらチンピラまがいの悪事を働いている」の2つである。そしてブチャラティは前者に関しては、15歳の少年がルカの変死に関わった可能性はゼロであり、しかし犯人を目撃した可能性はあると考えた。

一方後者の情報は、ブチャラティにとって憂うべきものであった。ブチャラティはギャングの世界に未来ある少年が関わるべきではないと考えている。そしてそのようなケースに自分が関わった際には、真っ当な生き方に戻すのが自分の責務だと考えている。これは後に描かれたナランチャの過去エピソードで、ナランチャがブチャラティの舎弟になりたいと言ったのを拒否した時もそうである。

ナランチャの過去エピソードでのブチャラティ

そこでブチャラティは、ジョルノにルカのことを質問する前に、まずはジョルノがどの程度道を踏み外しているかを判断するため、人当たりのよい一般人を装ってジョルノに近づき、「1000万円拾ったらどうするか」「それを警官に見られたらどうするか」を尋ねる。

真っ当な人間にとっては、小金はまだしも1000万円もの大金は心臓に悪すぎるので普通はネコババしようとは思わない。ましてや警官に見られてなおネコババを試みようとは思わない。しかしジョルノはためらいなく「ネコババする」「警官に半分渡して目をつぶってもらう」と答える。そしてブチャラティは自分が持つ「ウソを見抜く」特技で、それが(いきがって大口を叩いているとかでなく)完全に本気の本音であると判断する。

この返答でブチャラティは、この少年の心がかなりまずいレベルまで悪に染まっていると理解する。そこで次にブチャラティは、ギャングの本性をさらけ出したかのような冷酷な態度に切り替わり、ジョルノに脅しをかけながら「涙目のルカに会ったか」を尋ねる。それでもジョルノは平然と「涙目のルカなんて知らない」とウソをつく。しかしブチャラティは「ルカの目玉」と「スティッキィ・フィンガーズ」のジッパーの能力でジョルノを動揺させてその汗を舐め、ジョルノの返答がウソであると看破する。

そしてここからブチャラティが、ジッパーの能力でジョルノに行った「拷問」は、ジョルノからルカの情報を聞き出すのは当然として、もう1つ目的がある。それはこの少年にギャングの世界の異常さを味わわせて、二度と関わる気を起こさせないことである。

つまりこの時点でのブチャラティは、ジョルノに悟られないように手加減しており、ルカの情報を聞き出した後で、更生してくれることを願いつつ解放するつもりだった。


しかしブチャラティの目論みは、ジョルノが「スタンド使い」であり、ジョルノ自身がルカを変死させたと知ることで崩れ去る。

こうなってしまえばブチャラティはもうジョルノを見逃すことはできない。涙目のルカの横暴な性格を考えれば、この事件がジョルノの言うとおり「事故」だったのは間違いない(それもウソを見抜く特技でわかることである)。しかしどんな事情があろうと、たとえ相手が15歳の少年であろうと、顔にドロをぬられた組織は犯人を許さないことをブチャラティは理解していた。

ブチャラティは仕方なく始めたジョルノとの戦いで、形勢が不利になりいったん逃げようとする(あるいはそれは、この少年を本当に始末するしかないのか考える時間をとるためだったのかもしれない)。しかしジョルノはジョルノで自分の身を守るためにブチャラティを追いかけ、ブチャラティは逃げ切れないことを悟る。

この状況ではもう、ブチャラティは今ここで、自分自身の手を汚してジョルノを始末するしかない。それはブチャラティにとって、ルカが事故で死んだ責任を未来ある少年の命で贖うという組織の論理を、実行によって肯定することに他ならない。


仮にここでブチャラティが勝ち、ジョルノを組織の面子を守るための生贄にしていたなら、ブチャラティがギャングの世界の中で何とか保ち続けてきた「正義の心」は折れてしまっていただろう。

そしてその後の予想としては、「ボスの娘の護衛」をポルポから指示され、チームの何人かを犠牲にしながらもボスの下まで連れていき、そこで任務の目的がボス自身の手で娘を始末するためだったことを知るだろう。

そしてブチャラティは、ボスがボス自身を守るため15歳の少女を始末する行動に、数日前の自分が15歳の少年を始末した行動を重ね、正義の怒りを感じることができず見殺しにしていただろう。

しかし実際には、ブチャラティはジョルノとの戦いの最後に、「正義の心」から生まれた一瞬のためらいでジョルノに敗れ、その後ジョルノに予想外の提案を受ける。それはブチャラティにとって、ギャングの世界で「ゆっくりと死んでいくだけだった」心が生き返る出来事であった。そして彼はジョルノの共犯者として、ボスに反逆する正義の戦いを始めることになる。