空条承太郎と帽子の関係

■ジョジョ3部の主人公であり、4部以降にも引き続き登場する空条承太郎は、「帽子」を常に被っており、水中だろうと眠る時だろうとそれを外さないことで有名である。それゆえか彼の帽子は3部が始まって間もなく「髪と一体化」して描かれるようになる。また6部で記憶を失い瞑想状態にあった時の彼は、その間もずっと帽子を被り、そして頭部に誰かが触れようとすると本能的にそれを払いのける防御行動を取っていた。

■しかし承太郎の帽子の下にあるのは極めて普通の頭部と頭髪であり、隠すようなものは特にない。また帽子に対する承太郎の態度も、特にこだわりがある風ではない。つまり彼にとって帽子を被り続けるのは「無意識の行動」なのである。

■では彼を無意識にそうさせる理由は何かということになるが、それを語るにはまず彼の精神に備わった1つの超人的性質、「ノイズの高速除去」とでも呼ぶべき性質から説明する必要がある。

■この性質を表す好例はダービー兄弟との戦いで見ることができる。承太郎はダービー弟とのテレビゲーム対決では、テレビゲーム自体が初めてにも関わらず、ほんの数分の間にその本質を見抜き、最適な操作法を会得している。これは異常な現象である。本来なら人間がテレビゲームの操作法やゲームプログラム特有の論理に「慣れる」には、単にそれらを解明するだけでなく、これまでの人生で体に染み付いているもののうち「ゲームには不要なノイズ」を除去しなければならない。そしてそれには長い時間がかかるはずなのである。(ちなみにノイズの除去が上手くできていない初心者はゲームコントローラーをむやみに左右に振り回したりする) 

■また承太郎はダービー兄とのポーカー対決では、数秒の間に見たトランプ50余枚の並びを全て記憶するという超人的芸当を見せている。これにも承太郎の「ノイズの除去」の性質が大きく関わっている。人間が映像にしろ音声にしろ無作為な並びを記憶しようとする際には、その人間の記憶の中にすでにある「似たような情報」がノイズとなって邪魔をする。(これは例えば人間が新しい曲を聴いた時に、よく知っている曲に似たメロディーがあるとそっちに引っ張られてしまう現象と同じである) 承太郎の精神は元よりそういったノイズに一切惑わされることがなく、それゆえに長大な数字とマークの並びを機械的にすんなり覚えることができたのである。

■このように承太郎は、人間離れした速さで不要な要素を切り捨て、目の前の状況に自分を「完全に最適化」できる。それが空条承太郎という人間の最大の強みである。そしてダービー兄弟はポーカーやテレビゲームなど自分の土俵で戦っているにも関わらず、その優位性を易々と超えてくる承太郎に恐怖を感じたのである。

■しかしこの「完全なる最適化」は、承太郎からあるものを失わせる。完全に最適化されたものとは言い換えれば「不純物がない」ということである。そして普通の人間にとってその不純物は、「個性」や「人間味」と呼ばれるものである。

■「完全なる最適化」は承太郎が意識しない自然な精神的性質であり、彼自身にもコントロールできない。彼は日常生活でも、そして人生でも常に苦労なく完全さを手に入れ、それと引き換えに個性や人間味を失っている。そして彼はおそらく、自分にそれらが薄いことを無意識に隠したいと思っており、それが自分の心の在り処である頭部を帽子で隠すという無意識の行動につながっている。

■なお承太郎は作中で2回ばかり、自分から帽子を取っている。1回目は留置場の牢屋で、自分の心に潜む制御しきれない悪霊を見せた時。2回目は「心を読める」スタンド能力を持つダービー弟との戦いで、その能力を逆手に取った策を仕掛けた時である。それらはつまりどちらも、承太郎が「自分の心を見られてもいい」と強く意識した時である。

■また承太郎はこれ以外にも、「ゲブ神」のスタンド使いンドゥールとの戦いで、ンドゥールの最後の攻撃で帽子を吹き飛ばされている。そしてその直後のシーンで承太郎は、ンドゥールがDIOへの狂気的な忠誠心から自決したことに対して、言い知れない疑問をいだき、それを心から率直にンドゥールに問いかけている。つまりこの時に帽子が取れていたのも、この対話を象徴するかのように運命的に起こった出来事なのかもしれない。

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