暗き「影」に宿るもの

光によって生じ、地面に自分と同じ形を作るなどする「影」は、外界を認識し始めた幼児や、あるいは哲学者などにとって、非常に興味深く感じられる対象である。とはいえ影は結局はただの物理現象でしかなく、人が影に対して抱く想いの全ては、当人の心や認識の問題でしかない。

しかし「霊的なエネルギー」が存在する「ジョジョの奇妙な冒険」の世界では、生物が作り出す「影」には特別な力が宿っている。ジョジョの世界の生物はスタンド能力の有無にかかわらず、その肉体から常に微弱な「霊的なエネルギー」を放射している。それは太陽や照明などの物理的な「光」に簡単に打ち消されるほど弱いものだが、「影」の中ではわずかながら力を残せる。

こうして影の中で物質表面に貼り付いた霊的なエネルギーは、そこに「影の主」に対する「微弱な写し身」のようなものを作り出す。

影という写し身は普通の生物にとっては、単にそのような霊的現象というだけで、それ以上の意味は持たない。しかしジョジョの世界の一部の者は、この写し身を感知したり、干渉できる力を持つことがある。

霊的な写し身である「影」は「影の主」とつながっており、しかしそれは影の主の制御外にある。この意味で影は「影に干渉できる者」にとって、影の主という堅固な要塞に侵入できる誰も知らない抜け道のようなものとして機能する。そしてそれゆえに「影に干渉できる者」は、他者の影を他者への「侵入経路」と認識し、また自分の影を自分の「急所」と認識する。

では以下に、「影という霊的領域」を感知・干渉できる者を列挙していく。

柱の男ワムウ

ジョジョ2部に登場する「柱の男」と呼ばれる闇の生物の一人であるワムウは、「自分の影」を誰かに踏まれるとそこに向けて反射攻撃を繰り出してしまう癖がある。つまりワムウは自分の影への他者の接触を感知できる力を持っている。

影を踏まれたワムウ

無論影を踏まれたところでワムウ自身には何の危険もなく、その点ではこの行動に意味はない。しかしワムウがそのような本能を持つことには意味がある。

ワムウにこの力がある理由は、カーズが語ったとおりワムウが持つ「闘争の士気」によるものである。周囲の空気を自在に操る「風の流法(モード)」を持つワムウは、自分の周囲に闘気に類する濃い霊的エネルギーをまとっている。それが彼の影にも「濃い霊的エネルギー」を与え、「自分の影」を「自分の急所」として敏感に感知してしまい、そこに他者が接触すると本能的な防衛反応を起こしてしまうのである。

また余談になるが、ワムウは後のシーザー・ツェペリとの戦いで、シーザーの影を物理的に利用してシーザーに逆転勝利している。つまりここでのワムウは相手の影を「相手の急所」として利用したわけである。

シーザーの影に入ったワムウ

セト神

ジョジョ3部に登場するスタンド。本体アレッシーの影と一体化したスタンドである。そしてこのスタンドは、自分と他者の影とが重なった時に、そこから相手に侵入して「相手が人生の成長で得たもの」をごっそり奪い、相手を子供以下にまで若返らせる能力を持っている。

セト神

ブラック・サバス

ジョジョ5部に登場するスタンド。建物や生物が作る「影の中」だけを移動できる人型スタンドである。そしてこのスタンドは他者の影に触れることで、影の主から「魂」を引きずり出せる能力を持っている。

ブラック・サバス

チャリオッツ・レクイエム

ジョジョ5部に登場する、「レクイエム」と呼ばれるスタンドを超えた力の1つ。

チャリオッツ・レクイエムは物理的な影ではなく、特殊な光で作り出される「心の影」を利用する。この能力はまず、個々の生物の精神の背後に「光球」を作り出して精神を照らし、影を作り出す。そして個々の生物が作り出す無数の「精神の影」は、一箇所に集積・重合して、人の姿を持った立体化した影を作り出す。これがチャリオッツ・レクイエムの体となっている。

チャリオッツ・レクイエム

取り立て人マリリン・マンソン

ジョジョ6部に登場するスタンド。本体のミラションと金銭絡みの賭けを始めた相手の影に取り憑き、そこから相手の精神を監視する能力を持つ。そして相手が負けを認めるか、自分の心に恥じるイカサマをしたりすると、相手の影から姿を現して、相手の財貨を取り立て始める。

マリリン・マンソン

カリフォルニア・キング・ベッド

ジョジョ8部に登場するスタンド。本体の東方大弥に相手が何がしかの罪悪感を抱くと、その相手がその時に思い浮かべていた記憶を奪える能力を持つ。しかしそうして奪った記憶は、大弥が「相手の影を踏んでしまう」と相手に戻ってしまう性質を持つ。

カリフォルニア・キング・ベッド

つまりこの能力では大弥の影は彼女の「霊的な急所」として、彼女に不利に働く。このため大弥の影が相手の影と重なると、奪った記憶は2つの影の間につながった経路を通って、本来それが在るべき相手側へと戻ってしまうわけである。