「ラストバトル」がもたらす能力

ジョジョの奇妙な冒険第3部「スターダストクルセイダース」のラストバトルであるDIOとの戦いは、DIOとジョースター一行がエジプトの町中を自在に飛び回りながら戦っていることで有名である。

この移動法は戦いのスケールが増した印象を読者に与える、ラストバトルにふさわしいものである。しかし一方でこれまでの戦いでは全く使われていないため、唐突かつ矛盾しているようにも感じられる。そして結論を言えばこの移動法は、「ラストバトル」という特別な環境によってもたらされたものである。

例えばサッカー選手は優勝がかかった試合では、普段以上に調子が上がり、体が軽やかになり、奇跡的なプレーを見せることがある。会場の熱気とそれが喚起する心の高揚、そして泣いても笑ってもこれで終わりだという感情が、普段の本気を超えた「集中力」を選手にもたらし、未知なる力を引き出す。そして当人はその感覚に身を任せ、確信を持って未知なる力を操りこなすのである(このような状態は心理学では「フロー」「ゾーン」などと呼ばれる)。

スタンド使いもまた、これまでの旅路が終着するラストバトルという大舞台では、これと同じ力を引き出せ、その力を確信を持って使用する。むしろ霊的な力であるスタンドは、物理に縛られていないぶんさらに自由に大きな影響を受ける。

この効果によりジョースター一行はDIOとの戦いで、これまでの旅路で見せた「本気」をさらに超えた、スタンドが一段進化したかのような力を得て、それを移動などに使えるわけである。

ではここからは、ジョースター一行の各人がラストバトルでどのような力を発揮しているかを解説していく。

ジョセフ・ジョースター/ハーミットパープル

ジョセフはイバラのスタンドの強度がこれまでより高まり、また肉体の力もこの戦いで全てを使い切るかのごとく活性化している。そして彼は10m以上伸ばしたイバラを建物のてっぺん辺りに巻き付け、そこを支点にターザンのように振り子移動したり、またはイバラを縮めて体を引き上げたりしている。

花京院典明/ハイエロファントグリーン

花京院はまずジョセフと同じように触手のスタンドの強度が高まり、ジョセフと同じ移動法が可能になっている。

また花京院がこの戦いで見せた「ハイエロファントの結界」も、触手の強度増加によるラストバトル限定の技である。エメラルドスプラッシュは本来、人型ハイエロファントの強度で体内の体液に高圧力を与え、手の平から勢いよく噴出させる技である。つまり本来なら細く弱い触手では同様の圧力は得られない。

しかしラストバトルでの集中力が、触手にも人型並の強度を与え、その結果細く張り巡らせた触手からもエメラルドスプラッシュを撃ち出せるようになったわけである。

ジャン・ピエール・ポルナレフ/シルバーチャリオッツ

ポルナレフは他の一行とは異なり、ラストバトルの1つ前に行われたヴァニラ・アイスとの戦いで覚醒状態になっている。

この戦いでのポルナレフは、アヴドゥルがあっさり殺されたことへの激情と恐怖で「集中力」が極限を超え、その影響でシルバーチャリオッツの凝縮力が強まり、本来2mの射程距離が10mほどにまで伸びている。また剣針の切れ味も通常時より増しているようである。

空条承太郎/スタープラチナ

承太郎はまずジョセフや花京院と同じく空中移動ができるようになっている。ただロープを使わないそれは彼らより特異で、まるで重力から解放されたかのようである。

具体的には承太郎は、スタープラチナの脚でジャンプして10m以上飛び上がり、空中で数秒間滞空した後に落下し、落下途中にスタープラチナで建物を殴って水平方向に方向転換し、そこから再び地面を蹴って斜め上に飛び上がり、滑らかに飛行するように移動できている。

また承太郎はDIOとの一騎打ちの最後の最後で、「DIOが止めた時の中」で2〜3秒動いたあとに、さらに自分から「もう一段」時を止めて2〜3秒動くという芸当を行っている。本来なら「止まった時の中」で一度限界まで動けば、一呼吸以上の間を置かなければ再度「止まった時の中」で動くことはできない。つまり本来なら承太郎のような芸当は「無理」である。

しかしそれは「無理」を超えて現実に起こった。これは承太郎のラストバトルでの「集中力」と、極限を超えた「怒り」が重なって生まれた、ある種の奇跡のような現象である。


なお4部以降のラストバトルでも、3部と同じ「ラストバトル限定」と思われる能力は見られる。例えば4部で東方仗助が使った「血の誘導弾」などはそれである。

ただし4部以降のそれらは3部に比べると、パワーアップの規模が控えめになっている。この理由はジョジョの世界の時代が進み、スタンド能力が「複雑化」して「単純な自由さ」が失われたことにある。

例えばスポーツの世界では「歴史に残る奇跡的なプレー」は、その競技が未成熟で大らかな時代には生まれやすく、細かいルールに縛られた後の時代には減ってしまう傾向がある。それは細かいルールが選手の心理に負荷をかけたり、奇跡的なプレーを不成立にしたりしてしまうからである。

スタンドの世界もこれと似た理屈が働き、本体の心理に起因するスタンドのパワーアップは、4部以降の時代では抑制されてしまう。またこれに関連して作者の荒木氏は、3部までのジョジョを「神話」、4部以降を「日常」「現実」であると語っている。