「スタンド使いは引かれ合う」ルールの性質と働き
ジョジョの奇妙な冒険第3部から登場する「スタンド」とは、生物に宿る「霊的なエネルギー」を用いた超能力である。そしてスタンドを操る人間(または動物)たちは、「スタンド使い」と呼ばれる。
そして彼らスタンド使い同士の間には、「運命的に引き合う引力が働く」というルールがある。
自身に内在する霊的なエネルギーを物質世界に出現させることができるスタンド使いは、スタンドを使っていない時にも微弱ながら霊的なエネルギーを放出し続けている。スタンド使い間に働く引力は、それがもたらす効果の1つである。
この引力は、ジョジョ4部序盤でスタンド使いの間田敏和が説明したとおり、「運命の赤い糸」のように働く。知ってのとおりこの俗説では、世の中の一部の人間は、大人になってから結婚する相手と生まれた時から「見えない赤い糸」でつながっており、この糸が(物理的な引力ではなく)運命を手繰り寄せるかのような力で二人を巡り会わせるとされる。

スタンド使い同士に働く引力も、基本的には赤い糸と同じ働き方をする。違う点はこの「運命の糸」が、結婚相手という特定の二人ではなく、全てのスタンド使いを無差別に網のように、敵味方関係なく結んでいることである。
そしてこの「運命の引力」の働きは、大きく2つに分けることができる。それは「出会いの引力」と「情報の引力」である。
まず「出会いの引力」は、スタンド使い同士の「物理的な距離が近い」場合に、彼らを関わらせるように働く引力である。これは例えば4部の舞台である杜王町のように、狭い街に数10人のスタンド使いがいる場合が該当する。
この状況下でのスタンド使いは、間田が具体例として挙げたように、「バスの中でたまたま脚を踏んづけた相手」や「たまたま隣に引っ越してきた住人」が、自分と同じスタンド使いだったりする。
このため仮に、杜王町内に正体を隠しているスタンド使いが居たとしても、そのスタンド使いはそう遠くないうちに他のスタンド使いに必ず出会ってしまい、スタンド使いだと気づかれてしまうことになる。この好例が4部中盤で、殺人鬼吉良吉影が殺人の証拠物を重ちーに誤って持ち去られ、後を追いかけて始末せざるを得なくなった一件である。

一方でスタンド使い同士の「物理的な距離が非常に遠い」場合には、「運命の引力」は主に「情報の引力」として働く。これはスタンド使いに他のスタンド使いの情報が伝わりやすくなる、または他のスタンド使いの情報に気づきやすくなるという引力である。この情報には「どんな能力か」「どこにいるか」「どんな行動をした(している)か」など、さまざまなものが含まれる。
この「情報の引力」の例としては、ジョジョ3部のスタンド使いモハメド・アヴドゥルが、世界各地の他のスタンド使いの能力と風評をかなりよく知っていたことが挙げられる。

スタンド編が始まったジョジョ3部の時代には、スタンド使いは地球全土でまだ数10人ほどしかおらず、彼らのほとんどは3部のラスボスであるDIOの組織の部下となるまでは、世界のあちこちで勝手に活動していた。そしてインターネットもない当時の状況では、「超能力者の情報」などという胡乱な話は、限定的にしか広まらない。さらにそれらの情報の中には、自称超能力者のウソなど「偽の超能力者の情報」もあり、割合としてはそちらの方が圧倒的に多いはずである。
にもかかわらずそれら雑多な情報は、スタンド使い間に働く「情報の引力」によって、本物のスタンド使いの情報だけが選り分けられ、海を越え山を越え、アヴドゥルの耳にまで伝わったわけである。
また「情報の引力」は物理的な距離が近い場合にも働く。そしてそれは「出会いの引力」の先触れとなることがある。この例としては、ジョジョ6部中盤で、ラスボスのエンリコ・プッチ神父が、主人公空条徐倫とスピードワゴン財団が協力して行った秘密の作戦に偶然気づいたシーンが挙げられる。
このシーンでは警備室内にいたプッチ神父が、モニターに映っていたSPW財団への通話履歴に偶然気づいたことになっている。しかし実際にはこれは偶然ではなく、「情報の引力」による必然である。

そして彼は通話内容から徐倫が刑務所の中庭に向かったことを知って自身も中庭に赴き、徐倫と遭遇することになる。
さらにもう1つ、「情報の引力」の特筆すべき例としては、ジョジョ5部130話「ほんの少し昔の物語」の過去回想で、ジャン=ピエール・ポルナレフが陥った状況が挙げられる。
この過去回想ではポルナレフが、5部のラスボスであるディアボロのギャング組織「パッショーネ」の縄張り内で、「電話・郵便・交通・マスコミ・警察・政治」にあらゆる連絡や移動の手段を封じられ、空条承太郎やSPW財団に助けを求めることができなかったと語られている。

しかしこの状況は普通に考えればかなり無理がある。確かにパッショーネという組織は、強力な情報収集網と、警察や政治に対する強い影響力を持つのだろう。しかしそれでも組織に気付かれないような移動手段や連絡手段は多々あるはずである。にもかかわらず、例えば封書内に記して送った郵便までもが、組織の監視網に100%引っかかって気付かれるなどということは通常ならありえない。
そしてこの通常ありえないことが起こった原因こそが、スタンド使い間の「情報の引力」である。パッショーネはボスのディアボロを始め多数のスタンド使いを擁する。このためスタンド使いのポルナレフを追うパッショーネには、パッショーネ自体が本来持つ情報収集力に、スタンド使い同士が引かれ合う「情報の引力」の効果が大きく上乗せされることになる。
その結果ポルナレフは、どのような移動手段でパッショーネの縄張りから出ようとしても100%気づかれ、またどのような手段で承太郎や財団への連絡を試みても100%気づかれてしまうという状況に陥ってしまったわけである。