「無謀なツバメ」と「凄み」の話

■「凄み」とはジョジョ6部の主人公である空条徐倫が、6部中盤の94話「天国の時」で見せた特殊技能である。それは宿敵プッチ神父との戦いで、視界を遮られた徐倫がプッチのいる場所を探知する力として発揮されている。

■この「凄み」と表現されている何かは、この言葉が「気迫」を連想させることもあって一見理屈のないものに思える。しかし実際はそうではなく、論理的に理解可能なものである。そしてそれを説明するにはまず、この言葉の数ページ前にプッチが語った「崖に激突して死ぬツバメ」の寓話の意味から語る必要がある。

■空条徐倫は知ってのとおり、ジョジョ1部の主人公ジョナサン・ジョースターから始まる「ジョースターの血」を引く者である。そしてジョースターの血統は歴史の裏側で世界の危機に立ち向かい、強大な敵を「実力」と「強運」で打ち破ってきた。

■この強運は言い換えれば「運頼みの無謀さ」であるが、ジョースターは運命の神に愛されているかのように勝利を繰り返す。これによって彼らの魂は、強運を前提とした無謀さに最適化され、その魂の形質は子にも受け継がれる。そしてそれでもジョースターはまた勝利して、さらに無謀さを深める。こうしてジョースターの「無謀と強運の血」は、世代を重ねるごとに強まっていく。

■ただしこの強運は単独では発揮されず、実力によってある程度以上の勝利の道筋を付けた上で発揮される。「神は自ら助くる者を助く」ということわざがあるが、ジョースターの強運もまた勝利のための然るべき行いを示した時に授けられる。(それは少年向けのバトル漫画の主人公が、完全に運任せで勝つことがほとんど無いのとも似ている) 

■またこの「無謀と強運の血」には弊害もある。それはジョースターの者が全盛期を過ぎて、かつての実力を出せなくなった後に無謀な行動を取ると、強運が発揮されずに命の危険に陥ることである。そして無謀が常態化している彼らはその危険性を自覚できず、いつか短命で死に至る。以上の事柄を比喩的かつネガティブに表現したのがツバメの寓話の意味である。

■空条徐倫は空条承太郎という絶対的な実力と強運を兼ね備えた者の娘であり、さらに歴代のジョジョの中で最も長く血統を引き継いでいる。その数はジョナサンから数えて6代目となる。(ちなみにジョセフの息子である4部の東方仗助は4代目、ジョナサンの肉体の息子である5部のジョルノ・ジョバァーナは2代目となる) 「血統の積み重ね」という視点からは、空条徐倫はジョジョの極致なのである。

■しかし一方で徐倫は実力面ではまだまだ未熟である。これは徐倫がほんの数か月前まで、スタンド能力も持たない普通の娘であったことを考えれば当然である。つまり徐倫はジョジョ歴代で最強の「無謀と強運の血」を持っているが、それに釣り合うだけの実力がないため、その力は彼女自身にも自覚されることなく、氷山の水面下部分のように大部分が隠れている。

■そしてこのことは彼女のスタンド能力にも表れている。空条徐倫は入れ墨やアクセサリーなどを見てわかるとおり、「蝶」を象徴としたキャラクターである。また糸の集まりから成る彼女のスタンド「ストーン・フリー」は、蝶との対比で「繭」の象徴を持つ。しかしこの糸のスタンドがほどけた内部には(目に見える限りは)何もない。

■これらの象徴は徐倫に秘められた血統の力、「蝶の姿」として表れるべき力は心の奥底で眠っており、彼女はその外殻の「繭の姿」としてしか自分の力を引き出せないことを表している。

■そしてこのように未熟なスタンド使いである徐倫にとって、プッチという円熟の域に達したスタンド使いは本来なら分が悪い相手である。そしてそれを理由にプッチも徐倫を侮っていた。しかし徐倫が糸のスタンドを変形させた手錠で自分とプッチを繋ぎ、プッチのスタンド「ホワイトスネイク」の能力、「魂を目に見える形にできる」能力が徐倫に発動されたことで想定外の事態が起こる。

■その事態とは、ホワイトスネイクとストーン・フリーの能力が化学反応を起こし、徐倫に秘められた「無謀と強運の血」が、それに釣り合う実力の助けなく表に現れたことである。その結果、額からずり出たDISCで目隠しをされた徐倫は、直感に身を任せて拳を繰り出し、その拳はプッチに命中した。こうして不意に露わになった徐倫の「強大な血統の力」、それをプッチが評した言葉が「凄み」なのである。

■またプッチは凄み発言の直後に「ホワイトスネイクはこいつとの戦いに向いていない」とも言っているが、それはこの相性の悪さを把握したがゆえのセリフである。

■なお余談になるが、上述した「秘められた恐るべきもの」という意味での「凄み」という言葉は、ジョジョ作中で他にも何度か使われている。例えばジョジョ3部でジョースター一行がDIOのスタンド「ザ・ワールド」の能力を断片的に体感した時の花京院のセリフや、5部でブチャラティが15歳の少年ジョルノから「自分を始末しようとする覚悟」を感じ取った時などである。

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