ジョセフ・ジョースターと飛行機の関係

ジョジョの奇妙な冒険第3部「スターダストクルセイダース」に登場するジョセフ・ジョースターは、第2部「戦闘潮流」では主人公だった人物である。そして3部でのジョセフは主人公の空条承太郎に、「いっしょに飛行機に乗ると墜落する」人物として扱われている。

その発端は3部序盤に、ジョースター一行が日本からエジプトに向かおうと乗ったジャンボジェット機が、敵スタンド使いに襲われて航行不能となり、ジョセフが不時着させたとき、「自分は飛行機で墜落するのは人生で3度目」と承太郎たちに漏らしたことにある。

ジャンボジェット墜落時のジョセフのセリフ

その後ジョースター一行はほぼ陸路と海路でエジプトに向かうが、途中一度だけ砂漠をショートカットするためセスナ機を利用した。その時も予定を聞かされた時点で承太郎は懸念を示し、そして実際セスナ機は(敵スタンド使いの攻撃の影響で)墜落してしまった。

セスナ機に乗る計画を聞かされた時の承太郎
セスナ機墜落

ちなみにジョセフの言うこれまでの生涯での2度の墜落は、まず彼が13歳のとき、スピードワゴンの自家用機がハイジャックされて紆余曲折の末墜落したのが1度目。次は18歳のとき、2部の最終決戦で究極生命体になった柱の男カーズからドイツ軍の軍用機で逃げ、飛んで追ってきたカーズの攻撃で落とされたのが2度目である。

自家用機墜落
軍用機墜落

しかし実際には、「ジョセフが乗った飛行機は危ない」かのような言説は事実無根である。

例えばジョセフは3部開始時に孫の承太郎に会うため、ニューヨークのケネディ空港から成田空港まで飛行機で移動し、問題なく成田に到着している。

またジョセフは2部から3部の間の50年、アメリカのニューヨークを拠点にジョースター不動産会社を経営し、会社の仕事や、日本に嫁いだ娘のホリィに会うなどの用事で、数え切れないほど飛行機で移動してきたはずである。そして2度目の墜落が2部終盤、3度目の墜落が3部序盤ということは、50年間ジョセフの乗った飛行機は一度も墜落していないわけである。

さらにDIOを倒した後の3部ラストでは、空港でジョセフと承太郎がポルナレフと別れ、直後2人は快復したホリィが待つ日本へ飛行機で帰ったわけだが、まさかその飛行機が墜落したなどということもないだろう。

つまりジョセフの乗った飛行機が高確率で墜落するという事実はない。彼の飛行機での墜落の原因は、1度目のハイジャック犯を除けば全て柱の男や敵スタンド使いとの戦いの余波によるものである。

そもそもジョースター一行は飛行機に限らず、陸路を車で移動する際にも、DIOが差し向けるスタンド使いに襲われて高確率で車を壊している。ましてや飛行機のような空を飛ぶ機械内で戦えば、それが壊れて墜落するのは至極当然である。

以上を踏まえると3部作中での2度の飛行機墜落は、ハイプリエステス戦で潜水艦が破壊され沈没したときにポルナレフが言った、「俺たちが乗る乗り物は必ず大破する」というセリフが正しい実態である。

潜水艦沈没時のポルナレフのセリフ

このように「ジョセフが乗った飛行機は危ない」というのは、ジョセフがうっかりつぶやいた過去の話を針小棒大に盛った濡れ衣である。そして承太郎も内心ではそれをわかった上で、雑談でのたわいのない冗談としてそう言っているに過ぎない。


ただ現実的な理由としては上記のとおりだが、それとは別にジョジョという作品を寓意的な視点から見た場合、「ジョセフ」と「飛行機」を結びつけたこの冗談には必然性がある。

それはジョースターという「星」の名とアザを持つ一族と、星が本来在るべき場所である「空」に関係する話である。


ジョースターの血統は「スター」という単語を含むその名のとおり、「星のように輝く魂」を持つ一族である。そしてこの星の魂は、ジョジョ1〜2部の間は「地上」で成長してきた。ジョナサンは地上で人の世の正義と倫理を深く学び、ジョセフは地上の道具や場の状況を駆使して戦うすべを学んだ。

これに対して空条承太郎の魂は生まれながらにして、より超俗的で概念的な「空」の領域にある。承太郎が持つ霊的才能、ダービー弟戦で見せたテレビゲームを短時間でマスターしたりできる才能や、DIOに引けを取らない貫禄はその賜物である(これはジョースターの血に「空」の単語を含む「空条」の血が入った結果なのだが、ここでは詳しくは触れない)。

このようにジョースターの血統は承太郎の代で「空」に至ったわけだが、実は「空に至る機会」はジョセフにもあった。

ジョセフの母親であるリサリサ(エリザベス)は、ここでは詳しく解説しないが、ジョースターとはまた別種の「星のように輝く魂」を持っている。そしてジョセフは両親の魂の力の相乗効果で、ジョースターの魂の力にリサリサの魂の力を上乗せした存在として生まれた。しかし塔の上に別の塔を建てて空高くに至ろうとするかのようなそれは破綻し、ジョセフの魂は承太郎のように「空」の領域に届くことはなかった。

ただその代わりにジョセフの魂は、崩壊した塔が地上に広く散らばるかのように、地上の万物に霊的な作用を及ぼし、それらを活用する霊的才能を得ることになる。

つまりジョースターの血統においてジョセフは、「空に至ろうとして失敗したジョースター」なのである。そしてジョセフの魂は「空」よりも「地上」を指向している。それを踏まえれば、ジョセフが乗った飛行機が地に引き寄せられるかのように墜落するのは、彼に似つかわしい事象といえるわけである(そしてそれを皮肉るのが「空に至ったジョースター」である承太郎というのもまた似つかわしい)。

無論ここまで語ってきた「空」は概念的なものであり、物理的なものではない。そして「ジョセフが乗った飛行機は墜落する」という話は前述したとおり事実ではなく、ジョースター一行内での雑談中に偶然生まれたネタの1つに過ぎない。しかし寓意的な意味では、そのネタが選び出されたのは必然なのである。