※始めに断っておくが、以下の解説は全て支倉未起隆が
「人間」で「スタンド使い」だと仮定した場合のものである。

アース・ウインド・アンド・ファイヤー EARTH WIND AND FIRE

2023/02/09改訂

本体名:支倉未起隆 <ハゼクラ・ミキタカ>

自称宇宙人、自己紹介JC40巻P188

能力:自身の肉体をスニーカーやサイコロなどの道具に変身させる

スタンド形成法射程距離パワー
身体拡張体 人間のまま

当ページの要点

  • 支倉未起隆は「異質すぎる精神性」を持った人間である。
  • 彼が引っ越してきた杜王町という土地には、「知性」という力が大地に長年留まり続けて生じた意識体が存在する。
  • それは未起隆の異質さを「悪しきもの」と認識し、「強い排斥力」を働かせる。
  • 未起隆の変身能力はこの認識を欺く「擬態」のために発現したものである。

知性の大地とその斥力

ジョジョの世界には、世界をあまねく満たし、物質や生物に宿っている霊的な力である「知性」なるものが存在する。この知性はそれが宿った物質・生物の構造などを情報として「記憶」し、またその情報を周囲に信号として「発信」する性質を持っている。

そして知性は、人々が集まり、住まい、社会を形成する土地の「大地」の中に、その土地固有の巨大な意識体を生じさせる。この「知性の大地」は、過去にその土地に生きた者たちの生活習慣・しきたり・精神性といった諸々を記憶しており、その情報を今現在その土地に生きる者たちに発信する。

この影響によりその土地の住人は無意識的に、その土地で受け継がれてきた精神性に従う傾向が強くなる。またその傾向は、大地に生える「木」のように先祖代々その土地に「深く根ざす者」ほど強くなる。

また「知性の大地」は、生物の肉体が体内に入った異物を排除しようとするように、自身にとって「異質な精神性」を持つ者が土地に入り込むと、上述した「大地に根ざす者」の精神などに働きかけて、異質な者をその土地から追い出そうとする「排斥力」を生み出す。この排斥力は相手の「異質さ」が強いほどに大きくなる。

こうしてその土地は緩やかにしかし確実に、この「知性の大地」にして「大地に根ざす者たちの隠れた領主」である存在、「木と土の王」の力に治められていく。

スタンド解説

アース・ウインド・アンド・ファイヤーは、ジョジョの奇妙な冒険第4部「ダイヤモンドは砕けない」の舞台である杜王町に引っ越してきた転校生、支倉未起隆のスタンドである。

支倉未起隆

無国籍的・宇宙人的な顔立ちをした彼は、精神的にもある種人間離れした性格をしている。そして杜王町に宿る意識体である「木と土の王」は、彼の異質さを「悪しきもの」と認識し、彼に「強い排斥力」を働かせる。

そしてその折に「矢」に選ばれてスタンド使いとなった彼は、杜王町からの排斥力に対処する能力を獲得する。その能力とは、ある種の生物が自身の外見を風景に同化させて「擬態」するように、杜王町の大地から引き出した知性情報で自身の体表部分の知性情報を書き換え、「木と土の王の認識を欺く」ことである。

そしてさらにその擬態能力は、自身の肉体を物理的に「変身」させることも可能としている。


本質的に「擬態」である未起隆の変身能力は、生物の擬態がそうであるように外面しか変えられず、「体内」には能力は及ばない。ただその一方で、「大地からの斥力」への反応として生まれたこの能力は、「変身」とは別の能力効果として、斥力を利用して未起隆の肉体を「異空間ヘ退避させる」こともできる。それによって彼は、人間の姿形に囚われない、かなり自在で幅広い変身を行える。

物へと変身する際の未起隆の肉体は、内蔵や筋肉などの体内部分を異空間へ退避させた後に、衣服も含めた自身の体表部分を、布地を裁断するように切れ目を入れて広げ、それをさらに細かく変形させながら組み立てていくことで、目的の物へと変身する。変身中の彼の体表部分はクラゲのように光沢を帯びて滑らかで、厚みや形が変化しながらうねり蠢くそのさまは、まるで未知の宇宙生物のようである。

変身中の未起隆

未起隆は自分の肉体を大きく異空間に退避させることによって、自分よりはるかに「小さい物」や「軽い物」にも変身できる。また「複数の物」にも変身できる。この複数の物への変身は、海中のダイオウイカが海面上に頭部と足を複数本出すように、体の一部を異空間という海面下へ退避させることで行っている。

その一方でこの能力は、「自分より重い物」への変身はできない。また変身に特化したこの能力は、人型スタンドのように人間を超えたパワーをもたらすことはなく、つまり変身した物は「未起隆の筋力」以上のパワーを出すことはできない。またこの能力は自分の肉体を変形させ組み上げる複雑さにも限界があり、例えば機械式時計のような複雑な構造を作り出すのも無理である(ちなみに作中で変身した物の中で一番複雑な物は双眼鏡である)。

「物に擬態」した未起隆の体表は、爪くらいの固さにはできるものの皮膚であることに変わりはなく、触覚や痛覚はそのまま残っている。そして未起隆が焦れば冷や汗を流したりもする。また外部の様子を知ったり呼吸するために、未起隆の目鼻口耳は、変身した物の表面のどこかに擬態させて残してあり、バランス感覚を保つための三半規管も変身した物の内部に残されている。

冷や汗をかくサイコロ(未起隆)
サイコロの穴ポチに擬態した目

また異空間に退避した筋肉や内臓は、現実世界側の体表部分と連続性を持ってつながったままであり、筋肉を動かせばそのパワーはそのまま体表部分に伝わる。これにより未起隆が変身した物は、その外見に可動部分がなくても飛び跳ねたりすることが可能である。


大地に記憶された知性情報を参照する未起隆の変身能力は、変身した物の「形状」から表面の「質感」に至るまでそっくりに擬態することができ、虫眼鏡で見た程度ではその正体を見破ることは難しい。

またこの変身能力は、ある場所でそこに強く記憶された知性情報を参照すれば、作中で行っていたようにアイス屋のある場所で、その店の商品そっくりの冷たいアイスに擬態したりもできる(なお未起隆はこのアイスを「手の一部を変身させた」と言っていたが、これを舐めるとどんな味がして、齧るとどうなってしまうのかは不明である)。

手の一部を変身させたアイスクリーム

またこの他に未起隆は、自分の顔を別人のように変えたりもできる。ただこの「変装」は、変身の精度自体は「物」に変身する時とさして変わらないはずだが、その顔は明らかに人工的かつ不自然になってしまっている。この理由はおそらく「人間の顔そっくりのロボット」を違和感なく作るのが難しいのと同じく、人が人間の顔の違和感には特別敏感で、未起隆の変身能力ではその微妙な細やかさまでは再現できないためであろう。

夏目漱石の顔を真似る未起隆

未起隆が変身した「物の姿」で飛び跳ねたりする動作は、慣れ親しんだ人体での動作とは全く勝手が異なるため、本来は非情に難しいはずである。しかし未起隆はこの点に関しては優れた実力を持ち合わせており、作中ではサイコロの姿のまま自然に動いて出目を操る動作を、短時間でマスターしている。

また未起隆は、他者の肉体動作に(道具になった)自分の動きを合わせるのも異常に上手い。作中で彼はスニーカーに変身してそれを東方仗助に履かせ、一人分の体重と二人分のパワーで、まるでSFに出てくる反重力ブーツのように、仗助の踏み込みに合わせて自分も跳ねて仗助を凄い跳躍力とスピードで走らせたり、スニーカーの底面で壁面を掴んで壁を歩かせたりしている。

スニーカー(未起隆)を履いて壁を歩く仗助

異質は災い悪しきを運ぶ

我々が住むこの世界は、人が未知なる「異質なもの」と関わると、そこには大なり小なり何らかの「災い」が起こるようにできている。例えば人が未開の土地に踏み入れば未知の病原菌に侵されるかもしれず、宇宙や深海に進出すれば予想外のトラブルに見舞われる確率が高いといった具合である。

これらの災いは、「自分から異質な場所へ出向く」のであれば、自己責任である。しかし他所から異質さを宿した者がやって来て災いを起こし、日常を壊すとなれば話は別である。自分の住む土地に風のように流れ着いた赤の他人が、いずれ大火のような災いを呼ぶ恐れがあるなら、土地の住人が異質な者を本能的に忌避し、早々に居なくなって欲しいと願うのは、薄情だが自然な防衛反応である。

支倉未起隆はまさにそのような「災いを呼ぶ」星の下に生まれた者である。理由は分からないが彼の心の奥深くには、普通の人間とは決定的に異なる部分がある。それが理由で彼の感性や思考は普通の人とはかなりズレており、彼が他者と関わるとその者たちの日常の歯車は大なり小なり狂わされてしまう。

その狂いが生み出す不和と軋轢は時間が経つほどに深く大きくなり、いずれ決定的な災いを引き起こして、彼をその土地に居られなくしてしまう。彼をスタンド使いにした吉良吉廣は、「未起隆が東方仗助と岸辺露伴を仲間割れさせた」と評価していたが、それは彼の本質を正しく言い当てている。

また未起隆が「アレルギー」と説明するサイレンの音への恐慌的な反応もあるいは、彼が過去にどこかの土地で起こした災いのトラウマに関係しているのかもしれない。

ちなみに余談になるが、仗助と露伴のチンチロリンでは6のゾロ目を「オーメン」と呼んでいたが、この呼び方は1976年公開のホラー映画「オーメン」に由来している。その内容は体に「666」のアザがある少年の周りでさまざまな災いが起こるというものである。これを踏まえて未起隆は作中で、3つのサイコロに変身してオーメンを出しまくり、紆余曲折の末に露伴の家を半焼させている。

未起隆が自身の「災いを呼ぶ」性質をどこまで自覚しているかはさておき、彼は変えようのない自分の異質さに挫けず、前向きに他者と関わろうとしてきたらしい。彼が会得している肉体動作の器用さや、他者の動作に合わせる異常な上手さは、異質な彼なりに他者に合わせようとしてきた観察と努力の賜物である。

しかし会話などのコミュニケーション技術だけは、どれだけ試行錯誤を重ねても上達しなかった。未起隆の会話の歯車は、自分の感性に従っても、自分の感性の逆をやろうとも、他者の見よう見まねをしても、決して相手と噛み合わない。

それでもなんとか相手の歯車を動かそうとする未起隆の努力は、彼の言動をどんどんエキセントリックにエスカレートさせ、脱線し迷走していく彼のコミュニケーション術は最終的に、自らを「宇宙人」と称して全てを演技で塗り固めるという極北に達する(作中で彼が初めて他者のスタンドを見た時にそれが見えないように振る舞っていたのも、たぶん即興的に相手の裏をかいた演技である)。

そんな性格で杜王町へと引っ越してきた未起隆は、そこで何の因果か「宇宙人」のような変身能力を身につける。そしてその翌日に出会った同年代の二人の少年、東方仗助と虹村億泰に、身につけた能力を活かしつつコミュニケーションを試みる。二人は未起隆の能力に一応の興味は示したものの、未起隆の演技くさい受け答えは二人に不誠実と受け取られ、それ以上の関係には至らなかった。

しかし後の「鉄塔に住む男」との戦いで未起隆は、二人を危険に巻き込まないために自分を犠牲にしようとし、図らずも自らの「誠実な心根」を二人に見せることになる。これ以降の彼らの関係については作中では描かれていないが、多分この「異質な者」は二人に受け入れられ、三人で仲良くやっているものと思われる。

そしてこの二人を始めとしてスタンド使いが多数住まう杜王町という土地も、いつかは未起隆を受け入れ、彼の安住の地になるのかもしれない。

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