芸術は、暴露させる。

ヘブンズ・ドアー HEAVEN'S DOOR:天国への扉

2023/02/09改訂

本体名:岸辺露伴 <キシベ・ロハン>

週刊少年ジャンプの連載漫画家、プロフィールJC34巻P169

能力:生物の肉体を「本」に変え、そのページに書かれた記憶を読む

スタンド形成法射程距離パワー
身体・能力作業体 2m

当ページの要点

  • ヘブンズ・ドアーの能力は、露伴の絵を見た相手の心を魅了して「岸辺露伴の作品世界」に引き込むことである。
  • その結果露伴は、相手を自分のキャラクターのように扱う権限を得て、肉体に記録された記憶を設定書のように読んだり、そこに新たな設定を書き足したりできる。
  • また露伴は、彼の作品世界で可能となる肉体能力を自身や他者に与えることもでき、彼が漫画を描く際の人間離れした手の動きはその産物である。

スタンド解説

ヘブンズ・ドアーは、ジョジョの奇妙な冒険第4部「ダイヤモンドは砕けない」に登場する漫画家、岸辺露伴のスタンドである。

岸辺露伴

彼は杜王町に住む週刊少年ジャンプの連載漫画家であり、1999年の2月頃にスタンド能力を引き出す「矢」に射られてスタンド使いとなった。その能力は、「露伴が描いた絵」を見せた者の肉体を「本」に変え、その人生を文章で読むことである。

岸辺露伴の連載作である「ピンクダークの少年」は、ジョジョの世界の中のジャンプ誌上、つまり「ジョジョ」という漫画が存在しないジャンプ誌上で、ジョジョとほぼ同じポジションにある作品である。その内容は「生理的に気持ち悪いシーンもあるサスペンス・ホラー」、劇画調の絵柄でホラー映画のような描写が多々ある内容で、これもジョジョと同じである。

岸辺露伴が漫画を描く上で最も重視している要素は「リアリティ」である。露伴は漫画を面白くする秘訣は、自分が体験した面白いことや感動したことを描くことだと信じており、それこそが読者を自分の作品世界に引き込んで離さない魅力になると信じている。

ただしそのリアリティは、普通の人間が普通に体験する程度のものでは価値がない。ゆえに露伴は普通の人間が思いつきもしない視点で現実の物事を観察・分析・解剖して、作品に使うネタを探し求めている(それは時に人としての倫理を逸脱したりもする)。

蜘蛛を解剖する露伴

そして岸辺露伴がスタンドを引き出す「矢」に射られて身に付けた能力「ヘブンズ・ドアー」は、露伴直筆の絵画を見た人間を魅了し、「岸辺露伴の作品世界に引き込む」ことができる。これによって相手の肉体は現実世界に在ると同時に、「露伴の作品世界」にも置かれることになる。これは露伴の作品世界が高いリアリティを持つからこそ可能なことである。

そして露伴は「露伴の作品世界」に置かれた相手に対して、ある絶対なる権限を得る。それは「相手を自分のキャラクターであるかのように扱う」権限である。そしてこの権限を円滑に行使するために、相手の肉体は「本」へと変化する。

物語の作者は、自分の作品に登場するキャラクターの性格や過去の出来事などを記した「設定書」を(有形とは限らないが)持っている。一方で現実世界の人間の肉体には、露伴が説明したとおり「今まで生きてきた全て」が記憶されている(これはジョジョの世界の万物に宿る「知性」と呼ばれる霊的粒子の働きによるものである)。

これらを併せてヘブンズ・ドアーは、「露伴の作品世界のキャラクター」という性質を与えた相手の肉体を、「設定書」へと変化させるのである。

「本」にされた人間は、顔をはじめ身体各所に切れ目が入り、切れ目が本のページのようにめくれて開く。めくれた箇所はそれぞれ数枚から10数枚程度のページを持つ。そしてそれらのページには、見出し・文章・画像・図解によって、その人間に起こった過去の出来事が余すところなく説明されている。

「本」にされた広瀬康一

ところで一般に漫画のキャラクターの姿は、「顔」に最も情報が集約され、顔で識別される。それと同様に本にされた人間のページに記される情報も、顔部分に最も情報が集約されている。このため露伴は本にした人間を「読む」時には、もっぱら顔のページをめくりながら内容を読み進めていく。

またヘブンズ・ドアーの能力は、相手の記憶を「文章で読む」だけでなく、本のページに露伴が「文章を書き込む」こともできる。その文章は、現実世界側から見れば「無意識領域への命令」であり、露伴の作品世界側から見れば「キャラクター設定の書き足し」である。そしてどちらにせよ、相手は書き込まれた文章の内容には決して逆らえない。

これを利用して露伴は、反撃の恐れがある相手を「本」に変えた際には、「岸辺露伴を攻撃できない」と必ず書き込んでおく。これによって相手は、暴力的な手段での反撃はもとより、誰かに助けを求めるなどの間接的な反撃もできなくなる。露伴はこれを「安全装置(セイフティーロック)」と呼んでいる。

さらに岸辺露伴は、「本」にした相手からページを剥ぎ取り、奪うこともできる(ちなみに剥ぎ取られた相手は1枚だけならとりあえず生命に別状はない)。そして持ち主の心身から切り離されたページは、そのぶん現実世界から「露伴の作品世界」側に近づき、露伴の精神との結びつきが強くなる。

この効果で露伴の精神と奪ったページは強い化学反応を起こし、アイデアを湯水のように湧かせることができる。そして奪ったページが出涸らしになっても、次のページを奪えばまた同じ効果が得られる。

しかし肉体からページを切り取られ、それが「露伴の作品世界」側に移動した相手の方は、肉体の重心バランスが「露伴の作品世界」側に大きく傾き、結果「体重」が激減する(広瀬康一は顔のページを1枚奪われただけで体重が20kgも減っていた)。そして何枚も奪われればさらに体重は減り、おそらくどこかの時点で限界が来て死に至る。


前述したとおりヘブンズ・ドアーが相手を「本」にするには、「露伴直筆の絵画を見せて露伴の作品世界に引き込む」必要がある。ただ最初の時点ではそのパワーはかなり弱かった。

例えば広瀬康一と間田敏和に対しては、この2人が前回までの「ピンクダークの少年」の内容を知っていた上で、今回分の生原稿を数ページ読んでやっと能力が発動していた。しかもこの2人はもともと「ピンクダーク」の大ファンで、露伴が言うところの「波長が合う」相手である。

しかし康一から奪ったページで創作意欲を刺激された露伴は一気に成長する。その結果半日後には、「波長が合わない」虹村億泰に対しても、原稿の1コマを一瞬見せただけで本にできるようになっていた。

それからさらに一月弱経った「岸辺露伴の冒険」の回では、露伴は新たな能力発動方法を編み出していた。それは右手人差し指を素早く動かして空中に線を走らせ、その線で立体的な針金細工のような「絵」を描き、それを相手に見せて本にするという手法である(その絵はスタンド能力を持たない一般人にも見え、つまり一般人にも効く)。

空中に描かれた絵

空中に絵を描くこの手法は、原稿を持っていない外出時にも即座に使える利点があるが、反面その能力効果は完成原稿よりはるかに劣り、「波長が合う」相手にしか通用しない。またこの手法も原稿と同じく、描いた絵が相手からはっきり見える距離でなければ効果を発揮せず、その距離は5m以内といったところである。

ちなみに露伴がこの手法で描くのは、「ピンクダークの少年」に登場するキャラクターの一人、「トップハットと蝶ネクタイの少年」である。ただし空中に素早く描かねばならない都合上、その顔は漫画内よりデフォルメされており、全身を描く時は身長も3頭身ほどに縮められている。

ところで漫画の作品世界が「紙のページという次元の壁の向こう側」にあるように、ヘブンズ・ドアーの作品世界も、その媒体が原稿にせよ、空中に描いたトップハットの少年にせよ、「次元の壁の向こう側」にある。漫画の読者が次元の壁を通して心を動かされるように、ヘブンズ・ドアーの絵を見た人間も次元の壁を通して「本に変えるエネルギー」を受けているのである。

しかし4部後半に行われた露伴と大柳賢の勝負で、この状況に大きな変化が生じる。大柳賢のスタンド「ボーイ・II・マン」は、ジャンケンで勝つたびに相手のスタンドを3分の1ずつ奪う能力を持つ。そして露伴はこの能力で「トップハットの少年」を強制的に引きずり出されて奪われる。その際にトップハットの少年は、現実世界側で姿を維持できるように、他の人型スタンドのように「露伴の身体と対応」する。

引きずり出された「トップハットの少年」

この出来事によってヘブンズ・ドアーは、屏風に描かれた虎が現実世界に飛び出たかのごとく、「露伴の作品世界」から飛び出て、現実世界で活動可能な人型スタンドを得ることになる。

そしてこれ以降のヘブンズ・ドアーは、この人型スタンドで能力を使用することになる。これまでの「空中に描いた絵を相手に見せる」手法は、「人型スタンドを相手に見せる」手法に置き換えられる。相手を本にできる射程距離は、人型スタンドのデザインをはっきり認識できる距離であり、やはり5m以内といったところである。しかし「次元の壁のこちら側」に来たことで、本にするパワーは大きく上がり、「波長」が合わない相手でも強制的に本にしてしまえるようになっている。

また人型スタンドを使えば、露伴に背を向けてヘブンズ・ドアーを目にしていない相手に対しても、背後からその肩などを人型スタンドで掴んで「露伴の作品世界」に引き込み、本にすることが可能である。


なお、ヘブンズ・ドアーの「本に変える」能力は本体の露伴自身には効かず、敵スタンドの能力反射などで露伴にかかってもすぐに解除されてしまう。対象の肉体の記憶を文字として浮かび上がらせるヘブンズ・ドアーの能力には、対象のリアルをありのまま受け取る「客観視」が重要である。しかし露伴が露伴自身にこの能力を使った場合はどうしても「主観」を排除できないため、能力が正しく機能しないようである。

ただヘブンズ・ドアーには実は、「人間を本に変える」他にもう1つ能力があり、そちらは露伴にも効果を発揮する。その能力は露伴に超人的な肉体の動きと技術を与えるものであり、そしてその能力は露伴の作品である「ピンクダークの少年」の内容に大きく関係している。

ピンクダークの少年

岸辺露伴の連載作である「ピンクダークの少年」は、前述したとおり「ジョジョ」と同じサスペンス・ホラーである。またジョジョ作中で二度ばかり見ることができるピンクダークの原稿、「広瀬康一と間田敏和が露伴邸で見た4色生原稿」と、「広瀬康一の前で描いた原稿」から、ピンクダークもジョジョと同じく「能力者」が活躍する漫画と推測できる。

「ピンクダークの少年」の4色生原稿

この2つの原稿にはどちらも、「奇抜な格好とメイクをした人間」が描かれている(ジョジョに登場する人間も大概奇抜な姿ではあるが、ピンクダークはそれをも超えている)。そしてこれらピンクダークのキャラクターが、「ただ奇抜な格好とメイクをしているだけ」で、「普通の人間でもできることしかしない」というのは考えづらい。

名が体を表すように、彼らの奇抜な姿は普通の人間にはない彼らの性質、つまり彼らが何らかの「超常的な力」を持っていることを表している。そしておそらくピンクダークでは、ジョジョ以外の多くの能力漫画のように、能力者が自らの肉体で能力を使用する。

つまりピンクダークはジョジョに似た漫画だが、スタンドと本体の役割がひとまとめにされている。ゆえにピンクダークのキャラクターは両者を一体化したような奇抜なデザインになっているわけである。

そしてこの違いによって、ジョジョとピンクダークでは「能力者の肉体能力」に大きな開きが生じる。ジョジョではスタンドがどれほどのパワーやスピードを持とうが、その本体は常人の肉体能力しかない(例えば東方仗助は露伴が登場する1つ前の「透明の赤ちゃん」の話で、札幌行きのバスを走って追いかけて疲労困憊していた)。

これに対して能力者が自らの肉体で能力を使うピンクダークの世界では、例えば怪力の能力者や超スピードの能力者、異常に器用な能力者といった、常人を超えた肉体能力の人間が存在できるのである。

スタンド解説(2)

前述したとおりヘブンズ・ドアーの能力は、現実世界の人間に「岸辺露伴の作品世界」の性質を与えることである。そしてその能力は他者に対しては、「他者からリアリティのある情報を得たい」という露伴の願望を反映して、他者を自分の作品世界のキャラクターのように扱い、その記憶を読める「本」に変える。

その一方でヘブンズ・ドアーは、本体の露伴には別の性質、「ピンクダーク世界の能力者が持つ肉体能力」を与えることができる。そして露伴はこれを漫画の原稿作成に利用している。

例えば露伴が作中で見せた、「振ったペン先からインクを飛ばしてスミベタを塗る」「20本近い筆を持った片手を一振りして集中線を引く」という芸当は、現実的にはどれだけ漫画技術を極めようと不可能なことである。

インクを飛ばしてのスミベタ作業

また露伴の「手の動き」は、スピードだけなら東方仗助のスタンド「クレイジー・ダイヤモンド」のパンチより数段速い。これも生身の人間の限界をはるかに超えている。

これらの人間離れした、まるで漫画に出てきそうな動きと技術は、まさに露伴が描いている漫画の世界から持ってきたものなのである。

ただしこれらの肉体能力は、「他者を本に変える」能力と同じく、露伴との「相性」が合わなければ効果を発揮しない。このため露伴に効くのは上に挙げた、「原稿作成に用いる手の動き」に関係したものだけである。それ以外の例えば、怪力や速く走るといった肉体能力は露伴と相性が合わず、効果を発揮しない。

そしてさらにこの「ピンクダーク世界の肉体能力」は、ヘブンズ・ドアーが人型スタンドを得てパワーアップしてからは、露伴以外の人間にも与えることが可能になっている。

この場合相手への肉体能力の付与は、「本に変える」能力といっしょに使用される。具体的には、相手の体表の一部を本のページとして開き、そこに「与えたい肉体能力」あるいは「与えた肉体能力で行うこと」を書き込む、という手法をとる。

そして当然この場合でも、与える肉体能力は相手と「相性」が合わないと効果を発揮しない。

他者への肉体能力の付与は、4部作中ではハイウェイ・スター戦で東方仗助に対して使用されている。その際の文面は「時速70キロで自分の体は背後にふっ飛ぶ!」である。つまりこの文面はただの命令ではなく、それを可能とする肉体能力の付与とともに書き込まれている。

そしてその肉体能力は、パワー型スタンド「クレイジー・ダイヤモンド」を持つ仗助にほんの一瞬だが効果を発揮し、仗助はクレイジー・Dのパワーが自分の肉体に還元されたかのようなパワーを得て、時速70キロで背後にふっ飛ぶという、常人には不可能な命令を実行できたわけである。

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