「アバッキオの茶」とジョルノの覚悟
ジョジョ5部においてジョルノ・ジョバァーナが初めてブチャラティチームの面々に会った時、その中の一人であるレオーネ・アバッキオが紅茶と見せかけて自分の小便をジョルノに差し出し、しかしジョルノはスタンド能力でそれを切り抜けたシーンは有名である。
この時のジョルノは自分の「歯」の一本を、「固体」から「水分がほとんどないクラゲ」へと生物化し、それを使って吸水性ポリマーのように尿を吸い取らせている。そしてあとでクラゲを歯に戻せば、尿は固さを取り戻していく歯に押し出されて排出されるわけである。
ただ排出後に歯の中に尿が全く残らないかというと、多分わずかには残る。また一連の手順の際に、唇などに尿が全く触れないかというと多分それも難しい。ただしそれらはジョルノの性格からすれば特に問題になることではない。以下でその理由を説明していく。
ジョルノというキャラクターは、「戦いにおいて自信と冷静さを崩さない」という点において、ジョジョ3部の主人公である空条承太郎に似ている。しかしこの二人がそのように振る舞う理由は全く異なっている。
承太郎は強者か弱者かで言えば疑いなく「強者」の側の人間である。そして彼が戦いにおいて自信を崩さないのは、「どんな困難も自分の力量なら乗り越えられる」と確信しているからである。
一方でジョルノは「弱者」の側の人間である。そしてそんな彼が戦いにおいて自信を崩さないのは、「自分の力量」ではなく「希望と未来」を信じているからである。海流に乗った船が力強く進むように、ジョルノは自分の行いが正しいものであれば、この世の「運命」は自分を守り、後押しし、勝利に導いてくれると確信しているのである。
ただし弱者であるジョルノは、自分の勝利が無傷でもたらされるものだとは考えていない。承太郎は外敵などの脅威を強大な力で撥ね退けて勝利するが、対してジョルノは脅威をいったん自分の懐に誘い込む。「ソフト・マシーン」戦でも「マン・イン・ザ・ミラー」戦でも、ジョルノはあえて敵の能力を自分の身に受け、そこから死中に活を見出している。
この一見無茶な戦法は、弱者であるジョルノが人生を戦う中で、より高い確率で勝利するために自然に身につけた戦法である(それは自然界において、弱い生物ほど外敵からの被害を前提として、それに対する立て直しの手段を備えているのと似ている)。またそれはジョルノが「希望と未来」を信じ、自分が生き残ると確信しているからこそ実行に移せる戦法でもある。
ちなみにジョルノは「自分の耳を耳の穴の中に押し込んでしまえる」という特技を持っているが、この肉体的性質は「内へと誘い込む」ことで勝利を目指す彼の精神性に良く符合している。またジョルノのスタンド「ゴールド・エクスペリエンス」は体表に小さな穴が大量に空いたデザインをしているが、これも同様に「内へと誘い込む」精神性の反映であろう。
「このジョルノ・ジョバァーナには夢がある」というセリフから分かるとおり、ジョルノは弱者である自分の身の丈を越えた高い目標を持ち、その実現へと邁進している。そして彼はその道において自分が傷つき、あるいは汚れることへの覚悟を決めている。これはアバッキオが出した茶に対する対応でも同じである。この局面でジョルノが求める勝利は、この嫌がらせに屈従も降参もせず、ブチャラティチームの面々に自分の知力と力量を印象づけることである。そしてそのためには自分の口が多少汚れることなど、ジョルノには何の問題でもないのである。