「水を熱湯にするスタンド能力」の正体
当ページの要点
- ホワイトスネイクのスタンドDISCは差し込む相手によって能力が変わることがある。
- つまり「水を熱湯にするスタンド能力」として登場したDISCも、このDISC本来の能力とは限らない。
- そしてこのDISCはおそらくグッチョに使われていた「サバイバー」のDISCである。
- 本来のサバイバーは人の心を沸騰させ怒りを爆発させるが、フー・ファイターズに差し込まれたサバイバーは体内の水を沸騰させる。
「水を熱湯にするスタンド能力」は、ジョジョの奇妙な冒険第6部「ストーンオーシャン」で、プッチ神父がフー・ファイターズを倒すために使った「スタンドDISC」の能力である。
プッチ神父のスタンド「ホワイトスネイク」は、スタンド使いが持つスタンド能力と記憶をそれぞれ「DISC」の形にして抜き出す能力を持つ。そして「スタンドDISC」を別の人間に差し込むことで、その人間にスタンド能力を与えることもできる。
もう一方のフー・ファイターズは、プッチ神父がスタンドDISCを湿地帯の泥に与えることで誕生した、人ならざる生命体である。実体化したプランクトン型スタンドが無数に集まり、人の形を成しているこの生命体は、人間に遜色ない高い知能を持つ。またこの生命体は「水」をエネルギー源にして活動する。
ホワイトスネイクの配下だったフー・ファイターズは、6部の主人公空条徐倫との戦いのあとに、ホワイトスネイクを裏切り徐倫の味方となる。その後フー・ファイターズは、エートロという女囚の死体に宿ってF・Fと名乗り、徐倫とともに数ヶ月過ごしたあと、6部の中盤に懲罰房棟でホワイトスネイクと再会し、戦いとなる。
そして戦いの末、F・Fは前述した「水を熱湯にするスタンド能力」のDISCを差し込まれた結果、体内の水と外部から自分に触れる水のすべてを沸騰させられ、プランクトン型スタンドが全滅して敗北する。
ただしこの「水を熱湯にするスタンド能力」は、このDISCの本来の能力とは限らない。これには6部の主舞台であるグリーン・ドルフィン島という土地が持つ、霊的な特異性が関係する。
グリーン・ドルフィン・ストリート刑務所は、外界から隔離された環境のなか、強い魂のパワーを持つ罪人たちが集う場所であり、また地球上で最も引力が弱く宇宙に近いケープ・カナベラルの一帯に位置する場所でもある。このためこの島は、神秘と力を宿し「宇宙の縮図」としての力場を発生させている。
そしてこの力場の中では、「DISCに封じられた能力」と「それを差し込まれた者の精神的資質」との相性で、発揮される能力が変わることがある。
プッチ神父は直感なのか経験なのか、どのDISCをどの者に与えれば、グリーン・ドルフィンの力場の中で「宇宙の縮図」の力場に適合した能力が生まれるのか把握している。そしてこの結果生まれたスタンド使いは「宇宙的な能力」、例えば無重力と真空の空間を作ったり、大気圏の上層から隕石を呼び寄せたりする能力を獲得する。
つまりフー・ファイターズに差し込まれて「水を熱湯にするスタンド能力」を発揮したDISCも、能力が変化している可能性がある。
そして実を言うと、6部に登場するスタンドの中には、「水を熱湯にするスタンド」と同一のDISCのものと思われるスタンドが存在する。それは「サバイバー」である。
サバイバーは、懲罰房棟の徐倫を始末するためにプッチ神父が送り込んだ刺客の一人、グッチョに与えられていたDISCのスタンド能力である。
前述したとおり、グリーン・ドルフィン島内でのDISCのスタンド能力は、「宇宙の縮図」に適合した「宇宙的な能力」に変化する。そしてグッチョのサバイバーが持つ宇宙的な能力は、宇宙の始まりに起こった大爆発である「ビッグバンの縮図」として、周囲の人間の怒りの感情を爆発させることである。
一方フー・ファイターズが持つ宇宙的な能力は、ジョジョの世界に存在する「知性の海」という領域に深く関係している。
ジョジョの世界において「知性の海」は、人間の肉体に対する頭脳のように、物理的な宇宙に対する頭脳として働く。そしてこの力によって、ジョジョの宇宙での生命の誕生と進化は促されてきた。フー・ファイターズはこの「知性の海の縮図」として、水に深く依存する高知能の生命体という能力を持つのである。
そしてこの「知性の海」はビッグバン時点では、物理的な宇宙と同じく灼熱の沸騰状態にあったと考えられる。これは人間において肉体が昂ぶれば精神も昂ぶるのと同じことである。
そしてフー・ファイターズの精神は、「水という物質」と深く結びついている。このためフー・ファイターズにサバイバーのスタンドDISCを差し込むと、「知性の海の縮図」と「ビッグバンの縮図」の能力が複合した結果、フー・ファイターズに触れた水をすべて沸騰させる能力になってしまうわけである。
ところでフー・ファイターズは初登場時、徐倫たちに自分の「知性」を説明する際に、フレッド・ホイルという天文物理学者の説を引き合いに出している。ホイルの説は、この宇宙で生命が偶然に発生する確率はあまりにも低く、「生命のもと」となる何かがあらかじめ存在したと考えざるをえないというものである。そしてジョジョの世界でこの「生命のもと」を与えたものこそが、前述した「知性の海」である。
またフレッド・ホイルは、宇宙には始まりも終わりも無いとする「定常宇宙論」者でもあり、ビッグバン理論を否定していた。
以上を踏まえると、フレッド・ホイルの説を自分の知性の論拠としていたフー・ファイターズが、ビッグバンを反映したスタンド能力で原始宇宙のような沸騰状態にされて敗北したのは、実に皮肉な偶然といえるだろう。