カーズが見せた慈愛の正体

カーズは、ジョジョの奇妙な冒険第2部「戦闘潮流」に登場する、「柱の男」と呼ばれる4人の闇の眷属のリーダーであり、2部の主人公ジョセフ・ジョースターが倒すべき敵である。その性格は理性的で計算高く、また人を惨殺することに何も感じない冷酷なものである。

カーズ

しかしその一方で作中のカーズは、車に轢き殺されそうになっていた「子犬」を助けたり、自分の落下位置にある「花」を潰さないように全力で回避したりしている。

子犬を助けようとするカーズ
花を潰さないように回避するカーズ

そして普段のカーズの性格に似つかわしくない、一見慈愛的ともとれるこの行動の理由を知るヒントは、ジョジョ7部で明らかにされた「黄金長方形」の概念にある。

黄金長方形とはジョジョの世界において、人間と闇の眷属を除く全ての動植物の姿に隠されている「黄金の比率」である。それは生命が歪みなくスムーズに成長していくための正しいバランスを表し、例えばカタツムリの殻はこの比率に従って成長することで、脱皮することなく殻を大きくしていける。そしてこのような「黄金の比率」とは別の言い方をすれば、滞りなく滑らかに成長していける「生命の正しい道」を表すものでもある。

動植物に宿る黄金長方形

一方で人間という生物は、良くも悪くも「生命の正しい道」から外れられる力を持っている。そしてその力がゆえに人間は、動植物には不可能なレベルでさまざまな可能性を模索して、迷路を先に進むように「未来を切り拓く」ことができる。しかしその力がために人間の肉体と精神には黄金長方形は宿らない。ゆえにジョジョ7部に登場する「黄金長方形の回転技術」の使い手、ジャイロ・ツェペリがその力を使う際には、その都度人間以外の動植物を見て、「黄金の比率」を再確認しなくてはならない。

そしてジョジョ1〜2部に登場する吸血鬼や柱の男など「闇の眷属」の肉体は、人間の肉体よりもさらに著しく「生命の正しい道」から外れている。この性質は彼らに生物の常識と限界を超えた肉体能力を与えるが、同時に彼らの肉体は、本来は生命に恵みを与えるはずの「太陽の光」と対立し、闇が光にかき消されるように、太陽光を弱点とすることになる。

高い知力を持つカーズは、自分の宿命である「太陽の光」の克服を目指し、自分や他の動植物を深く研究してきた。そのさなかに彼は、他の動植物と自分との決定的な差が、「黄金の比率」の有無にこそあると気づく。つまり「黄金の比率」を何らかの手段で自分の肉体に宿すことができれば、太陽の光を克服できるわけである。

そしてその研究過程でカーズはジャイロ・ツェペリのように、動植物に宿る「黄金長方形」(あるいはそれと同等の何か)が見えるようになったと考えられる。

そしてこれこそが、カーズが作中で子犬や花を守った理由である。彼は自分が心から欲する「黄金の比率」を宿す動植物が轢き殺されたり潰れたりしたさまを目にすると、気分を著しく害する。ゆえに彼は自分の目に見える範囲で動植物が壊れそうになると、可能な限りそれを守ろうとするのである。

ところでジャイロ・ツェペリは生命に宿る黄金長方形を「敬意を払うべきもの」であると常に語っていた。一方カーズは、ジョジョ2部の終盤で自身の肉体に黄金の比率を宿し、太陽を克服した「究極生命体」となった直後に、近くにいたリスを戯れに惨殺している。その行動は、カーズにはもとより動植物に対する慈愛の心も、生命に宿る黄金の比率への敬意も無かったことを示している。

究極生命体カーズは人間ジョセフ・ジョースターと最後の決戦を行い、結果敗れて宇宙へと追放される。それはあるいは、生命への慈愛と敬意という「黄金の精神」を持たないまがい物の完全生物に対して、地球と運命が下した審判なのかもしれない。