「柱の男」が2000年間眠る理由
ジョジョの奇妙な冒険第2部「戦闘潮流」に登場する「4人の柱の男」は、人に似た姿をしているが人類とは異なる種の生物である。彼らはジョジョ1部に登場する吸血鬼と同じく太陽光を弱点とする「闇の生物」だが、その力は吸血鬼を遥かに上回る。
彼らは西暦1939年に目覚めるまで2000年という長い眠りについていた。この眠りの間、彼らの体は石化して微動だにしなくなるが、太陽光で消滅することもなくなる。これは眠りというよりは、冷凍睡眠のような「肉体が停止した状態」といえる。
さらにこの眠りには顕著な特徴が2つある。1つは彼ら4人は同じ時期に眠りにつき、同じ時期に目覚めるということ。つまり彼らは交代で眠ることはできない。もう1つは彼らは中途半端な期間では目覚められないということ。つまり彼らは1000年や1500年で目を覚ますことはできない。これらはいずれも普通の生物の眠りには無い特徴である。
人間など普通の生物が眠る最も単純な理由は、言うまでもなく精神と肉体の疲れを取ることである。脳は覚醒中の活動で溜め込まれた記憶を睡眠中に整理し、肉体は覚醒中の活動で疲労しダメージを受けた細胞を睡眠中に再生する。睡眠はそれらに専念できる状態であり、そして脳や肉体の疲労が深いほど眠りも深く長くなる。
だが睡眠の理由はこれだけではない。生物は脳と肉体をどれだけ安静にしていようと、ある程度の時間が経過すればやはり眠気を覚えるようにできている。その強制力は非常に強く、逆らい続ければ心身が重篤な状態に陥るほどである。これほどの眠気が生物に起こる理由には諸説あるが、仮説の1つとして「脳と肉体を互いのストレスから解放するため」という考えがある。
生物の「脳」という器官は単に現実の出来事に適宜に対応するだけでなく、現実ではないことを夢想する「自由」を持っている。しかし脳が夢想できることに比べて「肉体という器」はひどく不自由である。このため肉体に束縛され続けた脳はストレスを感じ、ストレスは蓄積されていく。ゆえに脳は肉体との接続が著しく弱まる睡眠を求め、眠りの中で想像力を自由に羽ばたかせた夢を見るのである。
一方で肉体の側も脳からストレスを受ける。覚醒時と睡眠時それぞれの「脳」と「体細胞」の関係は、「会社」と「会社員」の関係に例えることができる。勤務時間の会社員が会社のために働くように、覚醒時の体細胞は脳の指令を受け続け、脳のために働かされている。それは自由を奪われた状態であり、ストレスを生み、ストレスは蓄積されていく。
脳が肉体をどれだけ安静にしていようと、それは体細胞からすれば、会社員が社内で休憩している程度の状態に過ぎない。つまりストレスからは完全に解放されず、作業効率は低下し続けてしまう。会社員に会社から解放された「休日」が必要なように、体細胞にも脳との接続が著しく弱まる「睡眠」が必要なのである。
野生の生物にとって睡眠は、自らを無防備にする非常に危険な状態である。しかしそのデメリットは、脳と肉体にストレスが溜まり続けることで起こるデメリットより小さいため、進化の過程で獲得されたのだろう。
柱の男の2000年の眠りは前述したとおり普通の生物の眠りとは異なる。そして彼らは2000年の眠り以外では眠らない。つまり普通の生物が行うタイプの眠りを必要としない。
柱の男にはまず前者の「疲れを取る」眠りは必要ない。彼らの肉体と精神は非常に柔軟かつパワフルであるため、覚醒したままでも十分に肉体の回復と記憶の整理を行えるからである(ただ作中でシーザーと戦った後のワムウのように、ダメージが深い場合には眠らないまでも安静にしようとはする)。
次に彼らには後者の「脳と肉体を互いのストレスから解放する」眠りも必要ない。その理由は彼らの肉体構造にある。彼らの体細胞は1個1個が食物の摂取と消化を行えるなど、高い自由を与えられている。そしてその肉体は関節を無視した自在な変形や、「流法(モード)」と呼ばれる柱の男それぞれの精神に応じた特殊能力を備えるなど、「器」として人間の肉体より遥かに自由である。このため彼らの体細胞と脳は、覚醒中に自然に解消される程度のストレスしか感じないのである。
このように柱の男は「自分の肉体と精神のため」には眠りを必要としない。ではなぜ彼らが2000年も眠るのかというと、その原因は「柱の男が地球の集合無意識に与えるストレス」にある。
ジョジョの世界では地球の全ての生物の魂は、霊的な方向へと深く潜った領域でつながり、「集合無意識」と呼ばれる広大な領域を形成している。この巨大な霊的存在は、明確な人格は持たないが、おぼろげな本能程度の意識は持っている。
集合無意識は生命の歴史の中で、地球上に存在する千差万別な生命種が行う多種多様な「自由」を霊的な信号として感じ続けてきた。しかし柱の男が突発的に出現したことで状況は一変する。
柱の男は活動のために膨大なエネルギーを必要とし、食物連鎖の頂点として他の生命を際限なく食い荒らす。これによって集合無意識が地球上の生命から受ける霊的な信号は、「無数の生命種の多彩な色」から、「柱の男一色」へと塗り替えられていく。この結果「自由の幅を狭められた」集合無意識は強いストレスを感じる。
そして集合無意識はストレスが限界に達すると、強権を発動して柱の男たちの魂に働きかけ、彼らの活動を強制的に停止させようとする。これが原因で柱の男たちは強い眠気とともに意識が遠ざかり、自身を石化させた防御状態で眠りに入らざるを得なくなるのである。
集合無意識によるこの強制停止は、ストレスが限界に達した時点で4人の柱の男に同時に発動される。このため彼ら4人は同じ時期に眠りに入る。また集合無意識は、柱の男たちに荒らされた地球上の生命種の多彩さが十分に回復するまでこの措置を緩めない。その期間がほぼ2000年というわけである。
そして集合無意識のこの措置は、地球における「柱の男」と「人類」2陣営の戦いに、「それぞれの時代」を与えるコントラストを生み出してもいる。つまり柱の男が目覚めている間は、人類は彼らの食料として一方的に搾取される。逆に彼らが眠っている2000年の間は、人類は少しずつ進歩して、それがいずれ目覚める彼らに対抗する術となる。
いずれにせよ柱の男という種は、2000年もの眠りを課せられる宿命から逃れられない。しかし一方で、カーズが「赤石の石仮面」を被って変身した「究極生命体(アルティミット・シイング)」は、作中での見開き図解で「睡眠は必要なし」と明言されている。この真逆な状態への変化の理由は、カーズが集合無意識にストレスを与えない存在に進化したためである。
完全生物となったカーズは、手をリスに変えて切り離したり、両腕を翼に変えて空を飛ぶなど、「あらゆる生物の能力を兼ね備え、しかもその能力を上回る」力を得ている。このようにカーズが全生物の「自由」をその身で代行して活動すれば、集合無意識はストレスを受けないわけである。
また地球上で柱の男の存在にストレスを感じ、戦いを繰り広げてきた人類も、完全生物の前では抵抗の意思を失う。シュトロハイムは地球のマグマのエネルギーでも倒せないカーズの不滅さを「神」と称し、「神には服従するしかない」と語った。またジョセフもカーズが生み出す桁外れの波紋エネルギーを食らって死の運命を受け入れ、シュトロハイムともども諦めの境地に達していた。人類全体もカーズの完全無欠さを体感すれば二人と同じように諦め、カーズに世界を明け渡すのは必定である。
そしてこのように、カーズが地球の全生命を代表してさまざまな可能性を試み、神として思うがままの世界を創造し、それのみが未来を切り開く道となる。それがカーズに支配された地球の行く末だったのである。