スタンドのルールに備わる必然性

ジョジョの奇妙な冒険第3部から登場する「スタンド」とは、生物に宿る「霊的なエネルギー」を用いた超能力である。それは人の形をとったり、炎の性質を持ったりして現実世界の物質に作用し、物質を破壊したり燃やしたりできる。

スタンドは物質よりも自由に振る舞うことができ、物質では不可能な現象も起こせる。しかしだからといって何でもできるわけでもない。物質が物理法則に従うように、スタンドにもスタンドが従う法則が「ルール」として存在し、その範囲内のことしか実現できない。

そしてそれらスタンドのルールには、物理法則と同じく論理的な「必然性」が備わっている。

では以下に、作中で言及された「スタンドのルール」と、そのルールがどのような理由によるものかを説明していく。

スタンドはスタンド使いにしか見えない

初出は3部1話「悪霊にとりつかれた男」。空条承太郎から出た「悪霊(スタンド)」の姿が、一般人に見えなかったことで示されている。

まずスタンドを作り出している「霊的なエネルギー」は、物理的な光を反射しない。このためスタンドは可視光線だけを捉える人間の目には見えない(ただし物質と「融合」しているタイプのスタンドは一般人にも物質として見える)。

スタンドを見るにはそれ専用の「霊的な視覚」が必要であり、それを持つのはスタンド使いだけである。このためスタンドはスタンド使いにしか見ることができない。

これはスタンドが霊的に発する「音」も同様で、スタンド自体が出す音はスタンド使いにしか聞こえない。例えば5部104話「ぼくの名はドッピオ その2」では、一般人のふりをしていたドッピオが、戦闘機型スタンド「エアロスミス」のエンジン音に反応したためにスタンド使いだとバレている。

本体が弱ればスタンドも弱まる

初出は3部3話「悪霊 その正体!」。承太郎の呼吸が、モハメド・アヴドゥルのスタンド「マジシャンズレッド」が生み出す炎で妨げられ、承太郎のスタンドが引っ込んでいく際にジョセフが語ったルール。

承太郎の意識が遠のいたため引っ込むスタンド

スタンドは本体の精神力の強さで操られる。このため本体の意識が遠のけばスタンドのパワーも弱まり、意識を失えばスタンドは引っ込む。なお上記の承太郎の例では、後の他のスタンド使いたちに比べて割と簡単にスタンドが引っ込んでしまっていたが、これは承太郎がまだスタンドを扱い慣れていなかったからであろう。

また本体の意識に状態が左右されるのはスタンドの「能力効果」も同様であり、本体が意識を失えば能力は「解除」される。

ただし出現した状態を非常に低コストで維持できるスタンドはその限りではない。例えばジョジョ4部に登場する、他者の罪悪感に錠前をかける「ザ・ロック」はその好例で、本体が眠っていても能力が解除されることはない。

スタンドが傷つくと本体も傷つく

初出は3部6話「裁くのは誰だ!?」。承太郎のスタンドが、花京院典明のスタンド「ハイエロファントグリーン」による散弾のような攻撃で胸を撃たれ、承太郎自身も血を吐いた時に花京院が語ったルール(もっともこれ以前から、スタンドの首を絞めれば本体の首にも絞められた跡が浮き出るなど、本体にダメージが返るであろうことは示唆されていた)。

スタンドの胸を撃たれ血を吐く承太郎
スタンドの首を絞められている跡が浮き出るアヴドゥル

この理由は、スタンドが「パワーを発揮する」ために本体の身体を利用しているからである。

スタンドを作り出す生命エネルギーは、「素」の状態では液体のように無定形で強度を持たない。そして強度の低いスタンドは大したパワーを発揮できない。

そこで多くのスタンドは、「本体の身体と対応」することで、生命エネルギーに強度と姿を与えている。この「つながり」があるために、スタンドが傷つくと本体も同じように傷つくのである。

また本体に身体的欠損があると、人型スタンドもその部分が作られない。5部で本体ポルナレフと同じように手足を失っていた「シルバーチャリオッツ」はこの好例である。

一方で人の形をしているにもかかわらず、本体にダメージを返さないスタンドも存在するが、その理由は「本体身体と対応していない」からである。このタイプは「物質との融合」で強度と姿を得ているスタンドに多い。例えばジョジョ4部に登場する、人間大の人形を他者に化けさせるスタンド「サーフィス」はその好例であり、人形が壊れても本体の間田にダメージはなかった。

スタンドの右手が壊れても影響がない間田

スタンドはスタンドでしか倒せない

初出は3部10話「灰の塔」。スタンド「タワーオブグレー」(の口を借りて本体のグレーフライ)が語ったルール。

銃弾でスタンドは倒せないと語るタワーオブグレー

生命エネルギーが塊となって作られているスタンドは、その強度と本体の意志力によって物質に作用できる。これを単純に考えれば、スタンドが物質に作用するとき物質もスタンドに作用してダメージを与えることもできそうだが、そうはならない。

その理由は、スタンドは物質側の力に負けると物質を「透過」させてしまうからである。これは人型スタンドが銃弾を防ぐ事例でわかりやすく説明できる。

スタンドは銃弾が持つエネルギーに対抗できるだけのパワーを持つ場合は、銃弾をダメージなく弾き返せる。逆にスタンドのパワーが銃弾のエネルギーより弱い場合には、スタンドは銃弾を「すり抜けて」しまう。このため人型スタンドでは、「拳」は銃弾を弾けるが「胴体」ではすり抜けてしまう。

つまりスタンドは物質側にパワー負けしても物質を「透過させる」だけでダメージを負うことはない。このためスタンドはスタンドでしか倒せないのである。

ただし「物質との融合」によって存在を維持しているタイプのスタンドは、物理的な攻撃でもダメージを受ける。ジョジョ5部に登場し、ガソリンの爆発で倒された「ベイビィ・フェイス(子)」はその好例である。

ガソリンの爆発で倒されたベイビィ・フェイス(子)

スタンドは1人1体

初出は3部13話「銀の戦車 その3」。J・P・ポルナレフのスタンド「シルバーチャリオッツ」が7体に分身した(ように見えた)ときに、承太郎(か花京院)が語ったルール。

「スタンドは1人1体のはず」というセリフ

このセリフの真意は、スタープラチナやマジシャンズレッドのようなスタンドを、一人の本体が何体も出すことはできないという意味である。つまりこのルールは正確には、「1人のスタンド使いが出せる等身大の人型スタンドは1体」という解釈になる。

ジョジョ4部以降には、小型スタンドが大量に集まった「群体型スタンド」がたびたび登場するが、これは「等身大の人型スタンドを小分けにしたもの」という扱いになるためルールとは矛盾しない。

ただしこの正確な表現でのルールにも例外はある。例えばジョジョ5部に登場する「ベイビィ・フェイス」は、「親」となる半人型スタンドと人間の女性から、「子」となる人型スタンドを生み出せる。この「子」スタンドは、本体身体と対応しておらず、またエネルギー的にも自立しているため、1人1体の例外として存在できている。

スタンド使いは水中でも会話できる

初出は3部16話「暗青の月 その3」。スタンド「ダークブルームーン」の本体である偽テニール船長と承太郎が海中に落ち、水中戦を始める前に偽船長が語ったルール。

水中で発話する偽テニール船長

まず「人型スタンド」は「霊的な発声」を行うことができ、その声は水中だろうと真空中だろうと伝わる。このため人型スタンドを持つスタンド使い同士は、周囲が物理的にどんな状態であろうとスタンドで会話できる(なお当然ながらこの霊的発声は一般人には聞こえない)。

またこの「霊的な発声」は、スタンド使い自身が自分の「魂」を使って行うこともできる。このため3部68話「女教皇 その3」で語られたとおり、人型スタンドを持たないジョセフ・ジョースターも水中で会話可能である。

水中で発話するジョセフ

そして人型スタンドを持つスタンド使いがどちらを使うかは本人の自由である。

スタンドは本体から離れるほどパワーが弱まる

初出は3部26話「黄の節制 その4」。この回の扉絵に書かれたスタンドのルール一覧の中の1つ。

スタンドのルール一覧

本体から出現するスタンドは、本体から全方向に放射される生命エネルギーを一箇所に集めて作られている。そして全方向に放射される生命エネルギーは、電球の光のように放射源から離れるほどにパワーが弱まる。

このため、本体の直近で生命エネルギーを集中すれば強力なスタンドを作れるが、何10mも離れた場所で生命エネルギーを集中しても弱いスタンドしか作れない。これがこのルールの理由である。

ただこのルールはさまざまな手段で回避可能である。例えば花京院典明の「ハイエロファントグリーン」は、スタンドの触手を「エネルギー伝達ケーブル」として利用することで、遠く離れてもパワーの低下を抑えられる。また4部に登場する音石明のスタンド「レッド・ホット・チリ・ペッパー」は、本体から数km離れた場所でもそこにある「電力」を使ってパワフルに活動できる。

スタンドの能力や性質はタロットカードの暗示で分類される

初出は3部26話「黄の節制 その4」。この回の扉絵に書かれたスタンドのルール一覧の中の1つ。最初に断っておくと、このルールはジョジョ3部限定のものである。

タロットカードはこの世のあらゆる事象を霊的な観点から22のパターンに分類したものである。それは「霊的な元素」と呼べるものである。またジョジョ3部後半で、「タロットカードの起源」として示された「エジプト9栄神」なる概念も、タロットカードに付随する事象を9のパターンに分類したものである。

これを踏まえて、地球における物質的な生命の歴史が、まずは単純なものから始まり、そこからだんだんと複雑なものへと進化してきたように、スタンドも同じく「霊的に単純なもの」から始まる。それこそがジョジョ3部の、タロットカードとエジプト9栄神の暗示を持つスタンドたちなのである。

そしてこれら「霊的な元素のスタンド」を経た後の、ジョジョ4部以降のスタンドたちは、より複雑なものへと進化していく。それゆえに4部以降のスタンドはタロットで単純に分類することはできない(ただし実を言うと、ジョジョ5部のスタンドだけはタロットで分類可能なものに回帰しているのだが、ここでは詳しくは触れない)

スタンドには「出来て当然と思う精神力」が重要

初出は3部144話「DIOの世界 その11」。DIOが自分のスタンド「ザ・ワールド」の性能を実験していたとき、「時が止まった」かのような感覚を覚え、それに対してDIOの参謀エンヤ婆が語ったルール。

エンヤ婆のセリフ

最初に説明したとおり、スタンドは物質よりも自由に振る舞うことができ、物質では不可能な現象を起こせる。ところが「時を止める」ようなあまりにも物理的にありえない能力では、本体の「常識」や「思い込み」が、能力の覚醒や発展を妨げることがある。

エンヤ婆が語ったルールは、その心理的な枷を外す心構えを示すものである。そうしてDIOは「止まった時の中で動くこと」を当たり前と思うことで、能力を完全に目覚めさせ、さらにその持続時間を伸ばしていけたわけである。

能力を完全に目覚めさせたザ・ワールド

以上、現在書けるものをひととおり。作中で示されている他のルールについては後々書き足していく予定。