「3対2」が無いスタンドバトルの世界
ジョジョの奇妙な冒険第3部から登場する「スタンド」なる力は知ってのとおり、「物理法則を超えた超能力」である。そしてジョジョの世界ではスタンドが物質世界内で使用されると、世界のその場所が「物理のルール外の力」によって「乱されて」しまうという性質を持つ。
スタンドによる「世界を乱す力」は、通常は世界の許容範囲内に収まっている。しかし多数のスタンド使いが1つの場所で戦い、互いの能力を絡み合わせると、そこでの「乱す力」は大きく増幅され、世界の許容量を超えてしまう恐れがある。
このため世界は、スタンド使いたちの戦いが世界の許容量を超えることがないように、「運命」を操って彼らの出会いを調整している。それは「スタンド使いが運命的に引かれ合う力」とは逆の、斥力に似た力である。
そしてこの「運命の強制力」の結果、ジョジョの世界で起こるスタンドバトルの「敵味方の人数」には制限が生じる。具体的には以下のとおりである。
- 「1人」のスタンド使いには、特に制限なく多数のスタンド使いで攻撃を仕掛けられる。
- 「2人」のスタンド使いには、2人までのスタンド使いでしか攻撃を仕掛けられない。
- 「3人」以上のスタンド使いには、1人のスタンド使いでしか攻撃を仕掛けられない。
つまりジョジョでの「多対多」のスタンドバトルは、「2能力対2能力」が限界であり、「3能力対2能力」以上の戦いは決して起こらない。
またジョジョでは主人公とその仲間は「3人以上」で固まって行動することが多く、そして彼らの「結束力」は敵よりも強い。このため敵のボスなどが主人公たちに多数のスタンド使いを差し向けても、それらの敵は「1人ずつ」しか攻撃を仕掛けられない。
これは上述したように世界からの運命の力によるものであり、敵も主人公たちも運命によってそうされていることを自覚できない。そしてこの法則はスタンドバトルが始まった3部開始時から現在に至るまで、ほぼ例外なく貫かれている。
では以下に、この法則上特筆すべき戦いを挙げていく。
タワーオブグレー
ジョジョ3部でDIOのいるエジプトへと旅立ったジョースター一行が最初に遭遇した敵スタンド。この時のジョースター一行は「4人」であり、つまり敵は「1人」でしか襲いかかれない。
またここでのタワーオブグレーの本体は、ジョースター一行が乗った飛行機を自分もろとも墜落させようとしていた。つまり落ちるとわかっている飛行機に他の刺客が一緒に乗るわけはなく、この敵が1人で襲ってきたことにはきちんと理由がある。
そしてこの後に登場する敵スタンド使いも、運命の強制力によって何らかの理由を与えられ、「1人ずつ」ジョースター一行を襲う。ただしその理由が作中で示されることはほとんどない。
エンペラーとハングドマン
ジョースター一行が初めて「2人」の敵に襲われるバトル。この戦いではまずポルナレフがジョースター一行から離脱して「1人」で行動し、そこをホル・ホースとJ・ガイルが「2人」で襲撃、そこにアヴドゥルが駆けつけ「2対2」になるが、アヴドゥルはすぐに負傷で倒れ、そこに今度は花京院が駆けつけ再度「2対2」という展開になっている。
クヌム神とトト神
オインゴ・ボインゴ兄弟の「2人」によるジョースター一行への攻撃。この攻撃は頭数だけ見れば「3対2(イギーも入れれば4対2)」になる。
しかしジョースター一行は自分たちが攻撃されていることにすら気づかず、そのためスタンドも一切使っていない。前述したように運命の強制力は、「世界を乱す力」が許容量を超えてしまうのを防ぐためのものであり、この兄弟が仕掛けた攻撃ではそうなる可能性が無いとみなされたのであろう。
これは後にホル・ホースがボインゴと組み、「2人」で「4人」のジョースター一行を攻撃した時も同じである。この時のジョースター一行はいろいろな状況が絡んで、ポルナレフ以外スタンドを使わないまま戦いが終わっている。
ザ・グレイトフル・デッドとビーチ・ボーイ
ジョジョ5部において、スタンド使い「6人」で行動するブチャラティチームが、初めて「2人」の敵に襲われるバトル。これ以降ブチャラティチームは、後のグリーン・デイとオアシスでも2人コンビの敵に襲われるが、その原因は彼らが手に入れた「スタンド使いの亀」である。
この亀は甲羅の中に部屋を作り出す能力を持ち、ブチャラティたちはその中に隠れるのだが、亀の中は外の世界とは「別の場所」として扱われる。このため敵スタンド使いは2人以上でブチャラティチームを襲うことが可能となる。対してブチャラティチーム側は運命の強制力により、敵の数に対応した人数しか「亀の外」に出て戦うことができない(この戦いでは暗殺チームのプロシュートとペッシに対して、ブチャラティ側はミスタとブチャラティが外に出ている)。
つまりブチャラティチームは亀を手に入れることで、トリッシュを含めて7人でぞろぞろ移動して目立つリスクから解放されたが、代わりに2人以上の敵に襲われるリスクを負うことになったわけである。
クラッシュとトーキング・ヘッド
パッショーネのボス親衛隊の「2人」スクアーロとティッツァーノが、「5人」のブチャラティチームを襲うバトル。この戦いは当ページで説明している法則において、ジョジョ全編を通して非常に稀な事態が起こっている。
この時のブチャラティチームは、5人全員が亀の外に出て食事を取っており、つまりこの状況では敵の2人は1人ずつしか襲いかかれないはずである。しかし2人は2人のままブチャラティチームを襲い、逆にブチャラティチームの側をナランチャ、ジョルノとそれ以外の3人に分断し、2対2の戦いに持ち込んでいる。
そしてそれを成したのはおそらく、スクアーロとティッツァーノの、ブチャラティチームに勝るほどの「結束力」である。
トゥーム・オブ・ザ・ブーム ワン・ツー・スリー
ジョジョ7部SBRレースの2ndステージ中に行われた、ブンブーン一家とジャイロたちのバトル。この戦いは単純な頭数では、ブンブーン一家3人のうちの「2人」と、マウンテン・ティム、ジャイロ、そして戦いのさなかにスタンド能力を獲得したジョニィとの、「2対3」である(ジャイロの「鉄球の技術」はスタンドと同じく超能力とみなされる)。
しかしブンブーン一家のスタンドは磁力を操る「同一の能力」であり、それは世界からは「1能力」としか認識されない。世界が警戒している「世界を乱す力」は、異なる能力の絡み合いで大きく増幅される。その視点からはこの戦いは、「1能力対3能力」でしかないのである。
これは6thステージ中にジャイロとジョニィの2人を襲ってきた「11人」で1能力のスタンド、「TATOO YOU!(タトゥーユー)」との戦いでも同じである。
アーバン・ゲリラとドレミファソラティ・ド
ジョジョ8部で東方定助、豆銑礼、広瀬康穂のスタンド使い「3人」が、スタンド「ブレイン・ストーム」を持つ岩人間アーバン・ゲリラと岩動物ドレミファソラティ・ドの「2体」に襲われたバトル。岩動物が持つ「地中を掘り進む特殊能力」は、スタンドと同じく超能力とみなされる。
つまりこの戦いは「3対2」であるが、それが成立した理由は「戦いの場」の特殊性にある。定助たち3人は山の斜面に設置されたスキー用のリフトに乗り、「上空4〜5m」の高さを移動する。一方でアーバン・ゲリラは有袋類ドレミファソラティ・ドの体内に隠れて「地中」を移動する。
この状況では互いに相手方に近づくことは容易ではなく、スタンドを使った攻撃の手段も限られ、そのパワーも100%にならない(特にドレミファソラティ・ドの能力は地中限定である)。このように「行き来が難しい距離」が維持されることで、ここでは3対2のバトルが実現されているわけである。
そしてここからこのバトルは、康穂や定助が地面に降りたり、アーバン・ゲリラがリフトの支柱を登るなどして、「1対2」「2対2」「1対1」と目まぐるしく戦況を変えながら進んでいくことになる。