それは世界に排除される宿命と、世界を排除する力を持つ者。
それは邪悪に染まる宿命と、世界を邪悪に染める力を持つ者。
キング・クリムゾン KING CRIMSON
本体名:ディアボロ <Diavolo:悪魔>
巨大ギャング組織「パッショーネ」<Passione:情熱>のボス、
二重人格者、エピソードJC61巻P129〜
能力:時間を消し飛ばし、自身への攻撃を無効化し、また未来を予知する
スタンド形成法 | 射程距離 | パワー |
---|---|---|
身体・能力加形体 | 2m | 高 |
当ページの要点
- ジョジョ5部に登場するスタンドのほとんどは、3部のスタンドと同じく「タロット」に対応している。
- ただしそれらタロットは通常の解釈ではなく、より邪悪な解釈を与えられている。
- キング・クリムゾンが対応するタロットは「世界」であり、その暗示は「悪変容」である。
- キング・クリムゾンは自身に宿る「悪魔の力」を解放することで、周囲の世界を無力化する能力を持つ。
邪悪の樹
宇宙・生命・人類・個人など、この世界の中で進化・成長する全てのものが、成長する際に辿る変化の共通性を図像化したものである『生命の樹』。ジョジョ3部のスタンドに深く関係するこの生命の樹には、「邪悪の樹」と呼ばれる上下逆さまに描かれた亜種が存在する。邪悪の樹とは、例えば社会の中で反社会的な組織が成長していくように、成長するものの一部が全体に反した成長を行うさまを表したものである。
「クリフォトの樹」とも呼ばれる邪悪の樹は、「邪な状態」を表す10個の円形「クリファ」と、それを結び「悪しき変化」を表す22本の小径「パス」から成る。そのパスに対応する22枚の「タロットカード」のうち、「邪に総括せしもの」を暗示するクリファと、「邪に遊離せしもの」を暗示するクリファを結ぶ「世界」は、「構成要素の悪変容」を暗示する。
邪悪の樹の最後に位置する「世界」のパスで起こる変化は、カルト宗教が閉鎖環境で独自の教義を生み出すかのような変化である。反社会的組織は「世界」の前段に位置する「星」と「太陽」のパスによって、単純かつエネルギーに満ちた状態となり、「世界」の左右に位置する「月」と「審判」のパスによって、外界から隔離された状態となる。そしてこれら4つのパスに囲まれた「世界」で組織は、「自分」だけに集中し、自分が溜め込んできた邪悪から辿り着ける自然な姿へと様変わりする。この「悪魔の誕生」ともいえる変化こそが、「世界」で起こる「悪変容」である。
我々が生きるこの世界での「成長」とは、新たな可能性を切り拓き、新たな自由を持った存在を生み出すことである。その観点からすれば、邪悪の樹で生まれた悪魔的存在は紛れもなくその一つである。また社会の中で邪悪なものが大きく成長したということは、その邪悪には多くの人を惹きつける何かがあり、そこには人が真っ向から向き合って解決すべき意味や価値が潜んでいる。
しかしもし、その邪悪に向き合うことが社会の「正義」や「善」を大きく揺るがすものであるなら、人はそれに挑んではならない。例えば人の体や心の仕組みを知る目的であろうと、人を廃人にするような実験は許されない。
人の心は人が思う以上に闇に呑まれやすい。ゆえに人が真の闇に相対したときに取るべき選択は、「挑戦」ではなく「封印」である。そしてその心が世界の中で保たれるならば、世界は邪悪に道を踏み外すことなく、正しい道を成長していけるだろう。
スタンド解説
イタリアのネアポリスを本拠地とする巨大ギャング組織「パッショーネ」のボスであるディアボロのスタンド。この世の邪悪を体現するかのようなその顔には、悪魔のような異形の目と食いしばった歯を覗かせる小さな口がある。そしてその額には、この顔をそのまま小さくしたもう一つの顔が付いている。またその全身は真紅の体表を白い網で覆ったようになっており、肩や手の甲など身体各部は装甲で覆われている。
本体のディアボロは、女性しかいない刑務所の囚人が妊娠して産まれた人間である。聖女マリアの処女懐胎とキリストの誕生を連想するこのミステリーは、キリストの場合その父親は「神の聖霊」であるとされる。ディアボロの父に当たるものもまた人ならざる超自然的な存在だが、それは「悪魔」に属する何か、この世の正義に完全に反する存在である。
そしてそれゆえにディアボロは、人の身でありながら悪魔に等しい精神を宿し、それに相応しいスタンド能力を目覚めさせる。その能力とは、癌細胞が肉体の摂理を無視して暴れるように、この世の摂理を無視した「悪魔の力」でもって、世界が与える「運命」から自分だけが逃れられる力である。
キング・クリムゾンの最大能力は自身に宿る「悪魔の力」を爆発的に解放することで発揮され、「周囲の時空間を一時的に消し飛ばす」ことができる。その「空間範囲」と「持続時間」は比例し、最大持続時間である約10秒に対し、消し飛ぶ空間範囲は半径数100mほどである。この領域は運命が支配する世界の中にキング・クリムゾンが作り出した「悪魔の支配領域」であり、以下、この領域を「宮殿」と名付けて呼ぶ。
そして「宮殿」内では、物質も、生物も、その精神も、あらゆるものが破壊される。ただしこの破壊は普通の物理的な破壊とは異なり、「世界の自己修復力」によって復元が可能である。
「壊れた時空間」はキング・クリムゾンが放出した「悪魔の力」が弱まるとともに、「世界の自己修復力」によって完全に復元される。そしてこのとき世界の復元力は、破壊されていた時間内に起こるべき運命が起こった状態で復元を行う。つまり、仮に世界が10秒間破壊されていた場合、そこにあった時計は10秒進んだ状態で復元する。またその10秒内にろうそくの炎が吹き消される運命にあれば、消えた状態で復元する。
また世界が復元された時には、生物は「宮殿」内での出来事や自分の行動を覚えていない。これはつまり生物の記憶は復元されないということである。ジョジョの世界での生物の精神活動は、脳だけでなく霊的な領域も関与して行われているが、キング・クリムゾンはこの領域をも破壊し、そしてこの「個人の霊的領域」は世界の復元力では元に戻せないのである。このためこの能力の範囲内の者は、時空間の「復旧直後」を「破壊直前」の次の瞬間と錯覚し、「時が飛んだ」と感じる。
そして「宮殿」内では唯一キング・クリムゾンとディアボロだけが実体と意識を保って活動できる。
その中でディアボロが見る景色はかなり特異である。そこでは全てのものは破壊されて暗闇へと落ちているが、「世界の破壊時」から「世界の復旧時」までに起こる変化の「動き」だけが、「残像を残していく立体の軌跡」として見える。そしてこれら実体の無い物体の動きはディアボロに対しては無力であり、立体映像のようにぶつかることなくすり抜ける。このため「宮殿」内でのディアボロはいかなる攻撃に対しても完全に「無敵」である。
しかしその逆にディアボロは実体の無い敵の肉体を攻撃することもできない。このためディアボロが敵と戦う際には、「宮殿」内で敵の動きを読みつつその死角へと移動し、時空間が復元して敵が実体を取り戻した次の瞬間に死角から致命的な一撃を食らわせるという戦法をとる。敵は「時が飛んだ」ことを認識するのにどうしても一拍間が空いてしまうため、キング・クリムゾンからの攻撃を防御・回避するのは非常に困難となる。また「悪魔の力」を宿すキング・クリムゾンの体による攻撃は、敵の体を焼きごてを当てるかのように容易く貫き、切り裂く能力効果を持つ。
通常はこの戦法で充分だが、ディアボロはさらに完璧を期す場合には、「宮殿」の解除直前から攻撃動作を始め、敵が実体を取り戻した瞬間に攻撃を食らわせるという戦法もとる。ただしこの場合タイミングを見誤ると非常に危険である。なぜなら、敵が実体を取り戻す前に攻撃が届き、実体の無い敵の肉体をすり抜けて重なり、この瞬間に敵が実体を取り戻すと、重なった自分の攻撃部位が敵の肉体によって吹き飛ばされてしまうからである(つまり時空間の復元時には、元々そこにあった物体の存在が優先される)。
またキング・クリムゾンは他の人間の腕などを「掴んだ」状態で時空間を消し飛ばせば、その人間の実体を保ったまま、「宮殿」内で引っ張り移動させることも可能である(この時その人間は意識を失った状態に陥るらしい)。そしてその人間を壁などに「重ねて」おけば、時空間の復元と同時に実体を取り戻した物体により「貫かせる」ことができる。作中でディアボロがナランチャを鉄格子で刺し貫いたのはこの手法によるものである。
キング・クリムゾンの額にある小さな顔は「エピタフ」<Epitaph:墓碑銘>と呼ばれる。そしてこの顔は「時間のみを消滅させる」ことで、壁に小さな穴を空けて壁の向こうを見るように、時間の向こうの「未来」を見ることができる。
エピタフで見えるのは「10秒〜10数秒先にディアボロ自身とその周囲に起こること」である。それらはディアボロの額の前方に映像・音声として映し出される。そしてここで見える「未来に起こる事象」はディアボロ自身の行動も含めて、「絶対に起こる運命」であり、決して変えることはできない。
ただここで見える運命は「本来の未来」ではなく、「ディアボロがエピタフで未来を知り、それに何らかの反応・対応をした」上でのものに変わっている。これはつまり、エピタフには「運命を自分の有利になるように改変する」効果があるということである。この効果によりディアボロは、敵への攻撃命中率・敵からの攻撃回避率・隠れている敵の発見率などを増すことができる。
またエピタフの予知は本来は誰にも変えられないが、唯一「時空間を消し飛ばす」能力を使えば、ディアボロへの運命を無力化できる。そしてキング・クリムゾンはこれら「運命の予知」と「運命の無力化」によって、理屈上はどんな不意打ちにも攻撃にも倒されることはない。
ギャング組織のボスである本体ディアボロには、「ヴィネガー・ドッピオ」<Doppio:二重>という名前の「もう一つの人格」がある。ドッピオは精神年齢的に「少年」の人格であり、ディアボロが彼の人格で活動する間はその肉体も少年の身長・体格に変わる。その性格は気弱・臆病で、人に触れられることを極端に嫌う。ドッピオは自分を「ボスの腹心の部下」で、「ボスとは違う人間」であると認識しており、「どこかにいる」ボスとの会話には、その辺の適当な物を「電話」だと信じ込んで使う。
ドッピオからディアボロへの人格の移行は、ドッピオの心身がディアボロに近づくことで行われ、肉体はがっしりと逞しく、精神からは臆病さが消えて反骨精神に満ち、この変化がある程度以上進むとディアボロに人格が切り替わる。
なおドッピオにもキング・クリムゾンの能力は使えるが、ドッピオの器にはキング・クリムゾンは強大すぎるため能力は制限される。具体的には彼が使えるのは、ドッピオの額に現れる「エピタフ」による未来予知と、ドッピオの肩口から出現する「キング・クリムゾンの腕」による攻撃だけである。
「悪魔」の名を持つ男
キング・クリムゾンの本体であるディアボロは、前述したように産まれるはずのない状況で産まれた悪魔の子である。その人格は産まれた時点ではおそらく1つであったが、幼少時に魂を2つに分割することになる。
その理由は「世界からの排斥力」である。人体が体内の異物を攻撃・排除しようとするように、ジョジョの世界も内部の異物である「悪魔の魂」を排除しようとする。その手法は、ディアボロに関わる人間の無意識に働きかけ、ディアボロに危害を加えるように仕向けるという手法である。この排斥力は悪魔の魂が成長するに従い強くなり、彼は段々と強い「命の危険」にさらされていく。
これへの反応として悪魔の魂は亀裂が入り、2つに分裂する。これは多重人格のプロセスの1つである、「耐え難い現実を乗り切るために別人格を生み出す」のと同じである。悪魔の魂は正義が支配する世界の中で生き抜くために、「無害な別人格」を生み出し、それを隠れ蓑にしたのである。
こうして生み出されたもう1つの人格は、「日常を生きる人格」として成長していく。つまり5部130話の過去回想で描かれた「どんくさい」ディアボロ少年はこちらの人格である。そして日常を別人格に任せたことで悪魔の魂は、日常に染まらない超越性を保ちながら自らの邪悪を深めていく。
ただしこの対抗策を用いてなお、世界からの排斥力は完全には消えず、ディアボロ少年は理不尽な不幸に遭い続ける。彼が臆病な性格に育ったのはこれが理由である。
そしてこの2つの人格の関係は、19歳のディアボロがスタンド使いになった時にさらなる進展を遂げる。ここにおいて、超越性を保ちながら成長してきた悪魔人格は、自らの魂を悪魔のような姿を持つキング・クリムゾンヘと変貌させ、世界から降りかかる運命を無力化するスタンド能力を獲得する。
そしてディアボロはこの能力を利用して、世界に反転攻勢をかけ始める。世界はディアボロが悪魔人格を出している時には、彼に「強力な人災」を集中させる(そのような人災には裏社会の住人が関わる可能性が高い)。しかしキング・クリムゾンを得たディアボロはそれを難なく乗り越えられる。ディアボロはこうして危険を好機に変え、自らギャング組織を立ち上げ、裏社会でのし上がっていく。
それからさらに10余年が経った2001年の時点では、かつてのディアボロ少年の人格は、現ディアボロとなった悪魔人格に都合のいいように記憶その他を操られて生きるヴィネガー・ドッピオとなり、混濁し壊れかけた記憶で隠れ蓑としての役割を果たし続けている。一方現ディアボロは無敵のキング・クリムゾンと巨大ギャング組織パッショーネによって、世界そのものさえ塗り替え得るほどの強大な邪悪へと成長している。
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