「超人」への登竜門ヘルクライム・ピラー

「地獄昇柱(ヘルクライム・ピラー)」は、ジョジョの奇妙な冒険第2部「戦闘潮流」に登場する、波紋法の修行に用いられる巨大な石柱である。この柱は、イタリア国ヴェネチア近郊のエア・サプレーナ島という修行場内にある。そしてこの修行場は、2000年前の波紋戦士が、「柱の男」という強大すぎる闇の生物に立ち向かえる人材を育成するために作ったものである。

ジョジョ1部の敵であった「吸血鬼」は、人間が「石仮面」という道具を使って闇の生物へと変化した者である。これに対して「柱の男」は、石仮面で生まれるのは吸血鬼と同じだが、その元となっているのは人の姿に鬼のような角を持つ、人とは異なる生物種である。

この生物種は石仮面を被る前から、「人間を超えたパワー」「長い寿命」「太陽光による消滅」という闇の生物の性質を備えている。そしてこの性質を石仮面でさらに強化した柱の男は、吸血鬼とは次元が異なるパワーと肉体能力を有している。

柱の男は地球の歴史上でほんの4体しか誕生しなかった「闇の生物のエリート」であり、人間に石仮面を被せればいくらでも量産可能な吸血鬼たちから「突出」した存在である。彼らが「柱の男」と呼ばれるのは、石の柱と一体化して眠る彼らを人類が見たからである。だがそれと同時に彼らが「大地に突き立つ柱」のように、「他の闇の生物から突出した存在」であることも象徴している。

このような柱の男に波紋戦士が対抗するには、彼らもまた「人を超えて突出した存在」にならなければならない。そしてそれには通常の波紋修行を超えた、地獄のような荒行が必要となる。その荒行のプロローグとして、エア・サプレーナ島の主にして波紋法の師範であるリサリサが、ジョセフ・ジョースターとシーザー・A・ツェペリに与えた試練が、巨大な柱を登りきってその頂に立つ、ヘルクライム・ピラーである。

ヘルクライム・ピラー

ヘルクライム・ピラーは高さ24m、最大円周7m20cmの円柱であり、大理石で作られたその表面はツルツルに磨き上げられている。またその上部からは常に油が流れ出て、柱全体を濡らしている。そしてこれに挑む修行者は、道具を使わず「くっつく波紋」で柱に貼り付きながら、休みなく頂上まで登りきらねばならない。その所要時間はジョセフとシーザーを参考にすると61時間程度、約2日半である。

そして古代の波紋戦士が作り出したヘルクライム・ピラーは、ただの油が流れる石の柱ではない。中国の故事では、黄河にある「竜門」と呼ばれる急流を登りきった鯉は、竜に変身すると言われる。油の流れと重力に逆らって柱を登りきるヘルクライム・ピラーにも竜門と似た力、修行者の肉体を人から超人へと変える力がある。

ヘルクライム・ピラーはその巨大な威容と、大自然の潮力を利用して流れ続ける油とによって、「循環する霊的な力場」を作り出している。そしてこの流れに逆らって柱を登る修行者の肉体は、霊的な不純物を強力に洗い流され、しかる後に不足物を霊的に補われる。この結果、修行者は霊的に研ぎ澄まされた超人の肉体へと生まれ変わるのである。

また作中でジョセフが体験したとおり、この柱に挑んでいる者は一時的に食事・排泄・睡眠を必要としなくなる。それもまた永久機関のように循環する力場の中で、修行者の肉体が霊的に洗浄・補完されるためである。

ただ前述したとおり、ヘルクライム・ピラーは地獄の荒行の「プロローグ」でしかない。それはスポーツ選手に例えると、その競技に適した肉体づくりがひとまず完了した段階に過ぎない。「地獄へ昇る柱」という名前からもわかるように、エア・サプレーナ島での本当の地獄は、柱を登りきった後にこそ待ち構えている。

ここからのジョセフとシーザーの荒行は、リサリサの召使いにして波紋法の師範代であるロギンズとメッシーナが担当する。そして彼ら師範代は、「呼吸だけを鍛えれば筋肉もパワーも自然に鍛えられる」という理念のもとに、「1秒間に10回呼吸する」「息を10分間吸い続けてから10分間はき続ける」などの課題を与える。これらは一般的な肉体トレーニングの観点からは、常識はずれで不可能なことだが、地獄昇柱で霊的に作り変えられた修行者の肉体にとっては、確かな修行効果を持つ事実である。

ロギンズ(左)とメッシーナ(右)

ジョセフとシーザーは島での荒行を3週間かけてひととおりこなし、最終試練に臨む。そしてシーザーはメッシーナに勝利し、ジョセフはロギンズを瞬殺した闖入者、柱の男の一人エシディシを打ち破る。

エア・サプレーナ島俯瞰図

ただこれをもって、ジョセフとシーザーがほんの3週間でロギンズとメッシーナを超えたと考えるのは早計である。ジョセフとシーザーは超人化した肉体を得て、さらにその力を引き出すための技術もとりあえずは修めた。しかしその「肉体と技術」をこの先何年もずっと保ち続けて、波紋法をより極めていけるかは、また別の問題であり未知数である。ロギンズとメッシーナはおそらく10年は「超人」であり続けている者たちであり、その歳月の分ジョセフたちより波紋法を極めているのである。

そして彼ら師範代よりさらに深く、波紋法を極めているのがリサリサである。知ってのとおり実はジョセフの母親である彼女は、50歳でありながら20代の全盛期と変わらない若い肉体を保っている。それは彼女が数10年に渡り、老化という自然の摂理につけ入る隙を一切与えず、超人的肉体を維持してきたことの証左である。

リサリサ

ちなみに、ロギンズとメッシーナは柱のように高い帽子をかぶり、リサリサは海面の水を固めて柱を作り出したり、首に巻いたマフラーを柱の形に固める「蛇首立帯(スネックマフラー)」という技を持つ。これはこの3人が、「突出した力をその身に定着させた存在」であることをよく象徴している。