「星」を愛した「星」エリザベス・ジョースター
エリザベス・ジョースター(作中では「リサリサ」と呼ばれている)は、ジョジョの奇妙な冒険第2部「戦闘潮流」の主人公ジョセフ・ジョースターの母親である。
そして彼女は、ジョジョ1部のラストでジョナサン・ジョースターと吸血鬼ディオが戦い沈没した客船から、ジョナサンの妻エリナ・ジョースターに助けられた赤子である(なお彼女の「エリザベス」という名が、乗客名簿等からわかった彼女の本名なのか、後でエリナたちが付けた名かは不明である)。
そして赤子の彼女は、チベットの波紋使いストレイツォに18歳まで育てられ、その後エリナとジョナサンの息子ジョージ・ジョースターと恋に落ちて結婚し、ジョセフを産むことになる。
しかし彼女はジョセフを産んで間もない頃に、夫のジョージをゾンビに殺され、人間になりすましていたそのゾンビを誅滅したために国際指名手配される。そうして彼女はジョセフから離れざるを得なくなり、リサリサと名を変えてイタリアのヴェネチアにある波紋法の修行場に身を隠す。
そして10数年後にリサリサは、この修行場エア・サプレーナ島にやってきた18歳のジョセフに、母親であることを隠して再会し、彼に波紋法を教えることになる。
リサリサの波紋法の実力は、波紋戦士たちの中でも群を抜いている。彼女が生み出す波紋のパワーは、エア・サプレーナ島で死の荒行を終えたジョセフやシーザー・ツェペリの軽く3倍を超えている。かつてジョジョ1部では、ジョナサン・ジョースターの波紋の才能が「万人に一人の適性」と語られていたが、リサリサの波紋の才能はおそらく、人類全体に数えるほどしかいないレベルである。
そしてこれほどの才能を持った彼女が、1部最終決戦の船に「偶然」乗り合わせた確率は天文学的に低い。ジョジョ1部でジョナサンの友人スピードワゴンは、「人の出会いは運命で決められているのかもしれない」と語った。赤子のエリザベスがあの時あの場所にいて、ジョースターの血統と出会ったのは間違いなく「必然」の運命である。そしてこの運命は、彼女がジョースターの血統と同じ「輝く魂」を持つがゆえに起こったことである。
類まれなる肉体と精神のパワーを持つ「ジョースターの血統」の魂は、物質世界と隣り合う「霊的世界」において、「星」のように強い輝きを放っている。その輝きは霊的世界の深淵に住まう「運命を操るもの」、「神」と呼ばれる存在の目を強く惹きつけ、神は彼らジョースターを物語の主人公のように操り導く。
一方で、異常な波紋の才能を持って生まれたリサリサの魂も、ジョースターに劣らない輝きを放っている。それゆえに神は、運命を操りこの2つの「星」を引き合わせたのである。
ただし両者の魂の輝きには大きな違いがある。ジョースターの魂の輝きは、主に「肉体の物理的な力」と強く結びついている。そしてジョースターの波紋の力は、パワフルな肉体からの波及効果で副次的に生み出されている。一方リサリサの魂の輝きは、「肉体の霊的な領域」に強く結びついている。このため彼女は、肉体が生み出す霊的な力である波紋のパワーでは、ジョースターを圧倒的に上回る。
この輝きの違いを「本物の恒星」に例えるなら、ジョースターは太陽のように可視光線を中心とした強い光を放つ星であり、一方のリサリサは紫外線領域に集中して異常に強い光を放つ星といえる(これはジョースターの波紋が「サンライトイエロー」の光を放つこととも符合している)。
ちなみに余談になるが、ジョジョの作者の荒木飛呂彦氏が、2部終了から20数年後の2012年に描いた「ジョジョ日本八景」という絵画では、リサリサの首に「星型のアザ」が描かれている。このアザは知ってのとおり、本来は「ジョースターの血を引く者」にだけあり、リサリサにはあるはずがない。にもかかわらず彼女にそれが描かれたのは、彼女もまたジョースターと同じ「輝く星の魂を持つ者」だからであろう。
ジョースターの肉体が鍛え抜かれたアスリートのようなものであるのに対して、波紋法の申し子であるリサリサの肉体は「仙人」や「天女」と呼ばれるたぐいのものに近い。50歳でありながら20代後半の若々しさを保つ彼女の加齢速度の遅さや、彼女の体術に垣間見える異常な体の柔らかさはその証といえる(そしてこのような彼女の肉体形質は、力の陰陽は逆であるが「柱の男」に似通っている)。
また彼女は戦いでは、首に巻いた「マフラー」を波紋を流す武器として好んで使う。これは彼女が生み出す激流のような波紋パワーが、彼女自身の手足よりも自在に動く布の中のほうが本領を発揮できるからである。そして彼女のマフラーは時に天女の羽衣のように流麗に、時に蛇の鎌首のように力強く舞い動く。
またリサリサは肉体のみならず、「心」も生まれながら仙人のように超然としており、普通の人間に比べて非常に冷静で物事に動じない。だがそんな彼女でも、心を感情や激情に大きく揺り動かされることはある。そして彼女は自分の心を熱くする「人の世のドラマ」に強く惹かれた。彼女は俗人離れした心がゆえに人の世を愛し、物語の主人公のようにドラマチックに生きるジョージ・ジョースターを愛した。その愛の結晶としてジョセフ・ジョースターは産まれたのである。
ちなみにリサリサはジョジョ2部の最後に語られた後日談によると、1948年にハリウッド映画の脚本家と再婚している。そこにどのような出会いやいきさつがあったのかはわからない。ただそれは、天女のような力を持って生まれ、人の世で過酷な運命に翻弄され、大切な人を幾度も失った彼女が、それでもなお人が生み出すドラマに惹かれたがゆえの帰結なのかもしれない。
ところで前述したとおり、リサリサの息子であるジョセフの波紋パワーは、リサリサの3分の1未満であり、シーザーと同程度である。これを単純に考えると、リサリサの波紋パワーは息子のジョセフには全く遺伝していないということになる。しかし実は、「リサリサの異常な霊的才能」は、形を変えてジョセフに受け継がれている。
ジョセフは父親ジョージ・ジョースターと母親エリザベスから、「2種類の輝く魂」を受け継いだ人間である。そしてエリザベスが持つ「人の限界に達した霊的才能」に、ジョージの「万人に一人の霊的才能」が重なったために、ジョセフの霊的才能には、限界を超えて建て増しされた塔が崩れるような変化が起こったと考えられる。
この結果、ジョセフの「波紋の才能」はジョージと同程度にとどまるが、彼はそれと同時に「もう一つの霊的才能」を獲得する。その才能とは、崩れ落ちた塔が裾野の広い残骸の山を作るように、「自分の周囲の空間に霊的な力場を作り出す」ことである。
この霊的な力場は、それ単独では波紋パワーのような目に見える力を発揮することはない。代わりにこの力場は、ジョセフが意図を持って周囲のものに働きかけるとき、それがジョセフの思惑どおりに働くよう霊的に手助けする。そしてジョセフが深く考えた策を実行したときほど、その効果も増大する。ジョセフは戦いにおいて「知略」を何より重視するが、それは彼が生まれ持った霊的才能とともに育つ中で、自然に身についたスタイルなのだろう。
このようにリサリサの霊的才能は姿を変えて、息子のジョセフに加護を与えているのである。