空条承太郎と帽子の関係

空条承太郎は、ジョジョの奇妙な冒険第3部「スターダストクルセイダース」の主人公であり、4部〜6部にも登場する人物である。そして彼は、「帽子」を常に被っていることで有名である。

空条承太郎

作中での彼は、水中だろうと眠る時だろうと帽子を脱がない。それゆえかこの帽子は3部が始まって間もなく、「髪と一体化」して描かれるようになる。

また彼は6部で記憶を失い、瞑想状態にあった時もずっと帽子を被り、そして頭部に誰かが触れようとすると、本能的にそれを払いのける行動を取っていた。

頭部への接触に反応する承太郎

では承太郎に何か帽子を被り続ける理由があるのかというと、作中では何も示されてはいない。彼の帽子の下にあるのは極めて普通の頭部と頭髪であり、隠すようなものは特にない。また帽子自体に特別なこだわりがあって被っている風でもない。

しかし実のところ承太郎には、本人が意識していない「帽子を被る理由」がある。そしてそれを語るにはまず、彼の精神に備わった超人的性質、「ノイズの高速除去」による「あらゆる物事への高速適応」について説明する必要がある。


この超人的性質を表す好例は、ダービー兄弟との戦いで見ることができる。例えば承太郎はダービー弟とのテレビゲーム対決で、テレビゲーム自体が初めてにも関わらず、ほんの数分の間にその本質を見抜き、最適な操作法を会得している。これはダービー弟の狼狽ぶりから分かるとおり、異常な現象である。

承太郎を評するダービー弟

本来なら人間がテレビゲームの操作法やゲームプログラム特有の論理に「慣れる」には、単にそれらのロジックを理解するだけでなく、これまでの人生で体に染み付いているもののうち「ゲームには不要なノイズ」を除去しなければならない。そしてそれには長い時間がかかるはずなのである(ちなみにノイズの除去が上手くできていないゲーム初心者にありがちな行動としては、コントローラーをむやみに左右に振り回したりなどがある)。

片や承太郎はダービー兄とのポーカー対決では、数秒の間に見たトランプ50余枚の並びを全て記憶するという超人的芸当を見せている。これにも承太郎の精神に備わる「ノイズの高速除去」の性質が大きく関わっている。

記憶したカードの並びを読み上げる承太郎

人間が映像にしろ音声にしろ無作為な並びを記憶しようとする際には、その人間の記憶の中にすでにある「似たような情報」がノイズとなって邪魔をする(これは例えば人間が新しい曲を聴いた時に、よく知っている曲に似たメロディーがあるとそっちに引っ張られてしまう現象と同じである)。

承太郎の精神は「ノイズの高速除去」のおかげでそういったノイズに一切惑わされることがないため、長大な数字とマークの並びを機械的にすんなり覚えることができたのである。

またこの後に承太郎は、ダービー兄が仕掛けた心理的なイカサマを見破ってもいる。これもつまりは、承太郎がポーカーに自分を完全適応させ、心の余力がある状態だからこそ、見破ることができたのである。

このように承太郎は、目の前の状況に対して人間離れした速さで不要な要素を除去して、「自分をその状況に完全に最適化」できる。それが空条承太郎という人間の超人的性質である。そしてダービー兄弟は、ポーカーやテレビゲームなど自分の土俵で戦っているにも関わらず、その優位性を易々と超えてくる承太郎に恐怖を感じたわけである。


しかしこの「完全なる最適化」という性質は、承太郎からあるものを失わせもする。完全に最適化されたものとは言い換えれば「不純物がない」ということである。そして人間にとってその不純物は、「個性」や「人間味」と呼ばれるものである。

承太郎にとって、「完全なる最適化」は息をするように自然な行動であり、彼自身にもコントロールできない。彼は日常生活でも、そして人生でも常に苦労なく完全さを手に入れるが、それと引き換えに個性や人間味を失っている。

そして彼は、自分の精神に個性や人間味が薄いことを無意識に隠したいと思っており、それが「自分の心の在り処である頭部」を帽子で隠すという無意識の行動につながっている。

ところで、上記のことを踏まえて承太郎は、作中で2回ばかり、自分から帽子を脱いでいる。1回目は留置場の牢屋で、自分の心に潜む制御しきれない悪霊を見せた時。2回目は「心を読める」スタンド能力を持つダービー弟との戦いで、その能力を逆手に取った策を仕掛けた時である。

留置場で帽子を脱ぐ承太郎
ダービー弟との戦いで帽子を脱ぐ承太郎

これらはどちらも、承太郎が「自分の心の内を見られてもいい」と強く意識した時であり、それが帽子を脱ぐという無意識の行動につながったのだろう。

また承太郎はこれ以外にも、「ゲブ神」のスタンド使いンドゥールとの戦いで、ンドゥールの最後の攻撃で帽子を吹き飛ばされている。そしてその直後のシーンで承太郎は、ンドゥールがDIOへの狂気的な忠誠心から自決したことに対して、言い知れない疑問をいだき、それを心から率直にンドゥールに問いかけている。

ンドゥールに問いかける承太郎

この率直な問いかけもまた、自分から帽子を脱いだ時と同じ類の「内心の吐露」といえる。その時にたまたま帽子が脱げていたのは、彼の帽子が彼の心を隠すためのものだということをよく象徴している。