ナランチャ・ギルガとスタンドの関係
ナランチャ・ギルガは、ジョジョの奇妙な冒険第5部「黄金の風」に登場する、17歳のスタンド使いである。
ジョジョ5部は、主人公のジョルノ・ジョバァーナが、ギャング組織に入団してのし上がり、組織のボスを倒す物語である。そしてジョルノが組織の中で最初に配属されたのは、ブローノ・ブチャラティをリーダーとする5人のチームであり、ナランチャはその1人である。
ブチャラティチームはナランチャを含め全員がスタンド使いで、組織入団の数ヶ月前に自分のスタンド能力に気づいたジョルノからすれば、全員が「ギャング」としても「スタンド使い」としても「先輩」ということになる。
しかし実のところナランチャは、スタンド使いとしてはジョルノよりはるかに「未熟」である。ナランチャは自分のスタンドであるラジコン戦闘機型の「エアロスミス」を、普段は意識的に操れる。しかし反面エアロスミスは、ナランチャが怒り狂うと勝手に出現して勝手に機銃を撃ちまくったりもする。
またホルマジオ戦でナランチャは、ホルマジオを見失い、戦いの音で野次馬が集まってきた時、エアロスミスをいったん引っ込めているが、これもナランチャがエアロスミスを制御できていない自覚があるからである。
エアロスミスには「生物の呼吸」を探知できる能力があるが、仮にナランチャがホルマジオを見失って「焦った」心理状態のままエアロスミスを出し続けていると、探知した野次馬の呼吸を勝手に撃ってしまう恐れがあった。なのでナランチャはエアロスミスを引っ込めざるを得なかったのである。
ところでナランチャはエアロスミスを引っ込める時に、両腕を滑走路のように開いたポーズを取り、そこにエアロスミスを着陸させるという手順を踏む。これもナランチャのスタンド使いとしての未熟さに由来する。
エアロスミスというスタンドは、スタンドエネルギーを機体内で激しく燃焼させて駆動している。そしてナランチャが、物質世界に出現しているエアロスミスを自分の精神世界に引き戻すには、スタンドの活動をクールダウンさせる必要がある。しかし戦いの途中にしろ、戦いが終わった直後にしろ、ナランチャの心の昂ぶりが落ち着かないうちはエアロスミスのエンジンの燃焼も激しいままなので、上手く引っ込められない。
ナランチャがエアロスミスを引っ込める手順は、この問題を解決するためにある。人間にとって、自分の背中からうなじ、後頭部にかけての背面は、最も意識が及びにくい部位である。そしてそれが理由でスタンド使いは、自分の意思で操作するスタンドが自分の背面間近にある時、スタンドの力が弱まる。
これを利用してナランチャは、まずは機体を腕にランディングさせて、飛んでいる水鳥が水面に滑り降りて羽ばたきを止めるように、スタンドの活動を弱める。そしてそのまま機体を体の背面へと送り込み、さらにスタンドの力を弱める。この二段構えでエアロスミスの機体は十分にクールダウンされ、背面から体内に引っ込むわけである。
また前述したようにナランチャには、エアロスミスを「怒りに任せて軽はずみに出してしまう」という未熟さもある。そしてナランチャはある方法でこれに対策している。それは「ナイフを持ち歩く」ことである。
作中で誰かに何かをされて怒った時のナランチャは、まずはナイフを取り出して相手を威嚇する。そしてそれでも対処不可能な状況になって始めてエアロスミスを出す。つまりナランチャにとってナイフを持つことは、怒った時に最初からエアロスミスを出してしまうのを防ぐ「安全装置」の役割を果たしている。
もちろんナイフはナイフで危険には違いない。しかし怒りに任せて出したエアロスミスが勝手に相手を蜂の巣にしてしまうのに比べれば、自分の手に握ったナイフのほうが自制心が働くぶん、はるかに安全なのである。
ちなみにこれら、「スタンドを引っ込める方法」と「スタンドを軽はずみに出さない方法」は、ナランチャ自身が考えたというよりは、ブチャラティかフーゴあたりが発案した可能性のほうが高いと思われる。
そしてこのようにナランチャがスタンド使いとして未熟なのは、彼がブチャラティチームの他の面々と違い、本来はスタンド使いの器ではない「一般人」だからである。その意味で彼は、ジョジョ4部で図らずもスタンド使いになった広瀬康一に似ている。
ただしナランチャの未熟さは、5部中盤でトリッシュを守るため、ボスを裏切りブチャラティについていく覚悟を決めてからは、どんどん薄まっていく。広瀬康一と同じくナランチャも、作中で精神的に成長していったのである。