広瀬康一とスタンドの関係
広瀬康一は、ジョジョの奇妙な冒険第4部「ダイヤモンドは砕けない」に登場する高校生である。そして彼は、それまでの荒木飛呂彦作品における、「魔少年ビーティー」の麦刈公一、ジョジョ1部のポコ、2部のスモーキー・ブラウン、3部の家出少女に連なる、「一般人ポジション」のキャラクターである。
しかし過去の彼・彼女らが「特殊能力を持たなかった」のに対し、康一は4部の序盤でスタンド能力「エコーズ」に目覚め、特殊能力で戦う側の役割も兼任することになる。それは杜王町という町を舞台に、料理人や小学生までもがスタンド使いとして登場し、日常生活に密着して特殊能力が描かれる、4部ならではの展開といえる。
ただし彼ら町のスタンド使いの大半が、「強烈な個性や技能」の持ち主であるのに対して、康一は平々凡々な庶民でしかない。このため康一のスタンドは彼らのそれに比べて、はるかに弱く、未熟である。その意味で康一はスタンド使いになってなお、相対的には「一般人ポジション」といえる。
その上で康一は、4部作中で幾度か「精神的に成長」し、それに併せてエコーズも成長して強くなり、成熟していく。
では以下で、「一般人」の彼にどのようなスタンドが生まれ、どのように成長していったのかを詳しく見ていく。
エコーズACT0(卵型)
スタンド能力を引き出す道具である「矢」に射られ、スタンドを目覚めさせられずに死にかけていた康一が、東方仗助のスタンド「クレイジー・ダイヤモンド」の負傷を治す能力で救われた結果、発現した能力。そのスタンドはなんの変哲もない「卵型」であり、康一自身が言うとおり何もできない。
このようなスタンドが発現した理由は、康一に「目覚めさせるべき能力」が無かったからである。スタンド能力には、自分の個性を世界や他者に押しつける「エゴ」が重要である。しかし平々凡々な康一にはスタンド能力に変えるほどのエゴがなかった。
このため康一のスタンドは、使い道のないスタンドエネルギーを殻に閉じ込め、安定した状態に保つくらいしかできることがなかったわけである。
しかしその一方で康一には、利己的な「エゴ」とは別の精神的才能、町や他人を危険を冒してでも守ろうとする強い利他的精神、つまり「社会性」が備わっている。そしてこの社会性が、彼のスタンドに少し遅れて「能力」を与えることになる。
エコーズACT1(幼生体型)
ゆすりたかりに特化した小林玉美のスタンド「ザ・ロック」に母親と姉を攻撃された康一が、玉美に対する正義の怒りから目覚めさせた能力。
卵を割って孵化したACT1は、甲殻類の幼生のような姿をしており、空気や物体の微細な振動が生み出す「音」を塊にして捕え、繰り返し響かせる能力を持つ。
ただしACT1のスタンドパワーは、他のスタンドに比べて桁違いに低い。上述したとおりスタンドには「エゴ」が重要であり、それがスタンドに大きなパワーを与える。それがない康一は自分の精神から極めて低いスタンドパワーしか引き出せないのである。
ところで広瀬康一はここまで、卵のように丸く整った髪型をしていたが、ACT1の発現に合わせて髪が逆立ち、その後は少しばかり毛羽立った感じの髪型になる。これは卵からエコーズが誕生したこと、しかしそのパワーがあまり強くないことを良く表している。
エコーズACT2(小動物型)
康一を拉致監禁した山岸由花子にACT1の音の攻撃が通じず、康一が「より強い音」を願うことで、ACT1から成長して発現した能力。
ACT1がいったん蛹になり、脱皮して生まれたACT2は、アライグマなどの小動物に似た姿をしており、これが操る「音」は相手に強い「実感」をも与え、風の音で吹き飛ばしたり熱の音で火傷させたりできる。
ただACT2はACT1から成長してはいるが、スタンドパワーの低さは変わっていない。ACT2はACT1のスタンド体を凝縮・小型化してエネルギー密度を高めることで、強力な音を操れるようになっただけである。またこうして強化されてなお、ACT2が生み出す熱や風のパワーは康一単独で使う場合はかなり弱く、他者の「イメージ力」を利用してパワーを増大させているだけである。
そしてACT1を変則的な手法で強化したACT2は、康一の「一般人としてのスタンド」の成長限界でもある。つまり康一が一般人であり続ける限り、エコーズはこれ以上成長できない。
ところでACT2への成長に前後して康一は、自分の頭に植え込まれた由花子の髪の毛のスタンド「ラブ・デラックス」の呪縛から逃れるために、自分の髪を切って頭頂部が平らな髪型になり、その後もずっとこの髪型でいつづける。植物の成長がガラスケースの天井に阻まれているかのようなこの髪型は、エコーズの成長がいったん「頭打ち」になったことを良く表している。
エコーズACT3(人型)
殺人鬼吉良吉影のスタンド「シアーハートアタック」との戦いのさなか、ACT2から成長して発現した能力。
ACT2から脱皮して生まれたACT3は、ついに本体の康一と同じ身長・体格の人型スタンドとなり、拳で殴った物体を「重く」する能力を持つ。
成長限界に達していたエコーズがさらに成長できた理由は、この戦いの中で描かれている。まず康一はいっしょに戦っていた空条承太郎の忠告に、自己中心的な反感を抱いて勝手に行動し、その結果を大きく後悔することになる。そしてその後康一は、承太郎の忠告をもとに敵スタンドの弱点を見抜き、その上で殺人鬼のスタンドに対して、自己中心的な反感を込めた怒りの炎を燃やす。
この一連の出来事はつまりは、康一の中の「エゴ」と「社会性」を両立させ、昇華させる通過儀礼である。その結果康一は、エコーズをさらに成長させることができたのである。
康一の「エゴの領域」からスタンドパワーを引き出せるようになったことで、エコーズのパワーは劇的に増大する。このためACT1からACT2への成長でいったん小型化したスタンド体は、一転して本体と同じサイズの人型スタンドにまで大きくなる。そしてその能力も、ACT2のような他者の力を利用したものではなく、康一のスタンドパワー単独で生み出す重さをそのまま与えるものへと変わっている。
なおACT3には康一とは別の人格が宿っているが、この人格はおとなしい反面ちょくちょく英語の卑語を口にする。これはおそらく康一が社会性によって無意識に抑圧しているエゴが、回りくどく漏れ出ているものと思われる。
ところでACT3への成長に前後して、康一の頭頂部が平らな髪型は、成長する植物がガラスケースの天井を突き破るかのように逆立って乱れ、その後もずっとこの髪型でいつづける。これはエコーズが成長限界を超えたこと、そしてエコーズのパワーが爆発的に増加したことを良く表している。
2年後のエコーズACT3(人型のまま)
ジョジョ4部から2年後の、5部の序盤に少しだけ登場したACT3は、スタンド像も能力も変化していない。ただ康一の髪型にはわずかに変化があり、後ろ髪が少し長めになっている。
豊かに実った植物の枝が垂れ下がったかのようなこの髪型は、ACT3が2年の間に少しばかり成長したことを表している。その証左として、ジョジョ4部時には「1箇所」しか重くできなかったACT3は、ブラック・サバス戦では20cmほど離れたブラック・サバスの「両手」、つまり「2箇所」を同時に重くすることが可能になっている。