汐華初流乃がジョルノ・ジョバァーナを名乗る事情

当ページの要点

  • 汐華初流乃がイタリア国内でジョルノ・ジョバァーナを名乗るのはイタリア語の発音に合わせた結果である。
  • ただそれとは別に「作者はなぜイタリアが舞台のジョジョ5部で主人公の母親をイタリア人にしなかったのか」という疑問もある。
  • その理由は「5部主人公の性格が日本人的であるため」という理由と、「5部主人公の名前を空条承太郎や東方仗助よりも変則的にジョジョと読ませるため」という理由の2つが考えられる。

汐華初流乃(シオバナ・ハルノ)は、ジョジョの奇妙な冒険第5部「黄金の風」の主人公ジョルノ・ジョバァーナの本名である。

ジョルノ・ジョバァーナ(汐華初流乃)

彼の父親はジョジョ1部の主人公ジョナサン・ジョースターの肉体を奪った吸血鬼DIO、母親は日本人女性である。そして「汐華」は母親の姓であり、「初流乃」は彼に付けられた名前である。しかし彼はイタリアを舞台とした5部作中では、ジョルノ・ジョバァーナと名乗り、周りからもそう呼ばれている。

これはイタリアでジョルノと出会った広瀬康一が空条承太郎に報告したとおり、イタリア語と日本語の発音の違いが理由である。

汐華初流乃について報告する康一

国によって名前の発音が変わってしまうことは、例えば日本に引っ越した外国人の名前に起こる。世界各国の言語には、日本語に存在しない発音を含むものが多々ある。そしてそれを含む外国人の名前は、日本語の発音の中でそれに最も近いものを代用して発音せざるをえない。また日本語で発音できても日本人的に不自然な発音である場合には、自然な発音に置き換えられることもある。

そして上記と同じことは、イタリアに引っ越した日本人の名前にも起こる。

以上を踏まえて、「シオバナ」はイタリア人がイタリア語の発音で自然に発声すると「ジョバァーナ」になる(少なくともジョジョの世界のイタリアではそうである)。汐華初流乃はそれに合わせて、イタリアで自分の姓を名乗るときには「ジョバァーナ」と言っているわけである。


次に名前が「初流乃」から「ジョルノ」に変わっている理由だが、そのヒントはジャンプコミックスでジョジョ5部が始まる47巻で、作者の荒木飛呂彦氏が語ったコメントにある。

それによると、イタリア語では「H」は発音しないため、「Hirohiko(ヒロヒコ)」は「イロイコ」になってしまうらしい(また「J」も発音しないため、ジョジョ5部では「JOJO」は「GIOGIO」と表記される)。そしてこれに倣うと「Haruno(ハルノ)」もまた「H」を含むため、「アルノ」になってしまう。

汐華初流乃にとって「アルノ」と呼ばれるのが違和感のあることかそうでもないのか、またネイティブのイタリア人にとって「アルノ」が違和感のある名前かそうでもないのかは不明である。ただいずれにせよ汐華初流乃はこの状況に対して、「初流乃」をもじった通り名を使うことにした。

それが「初(ハ)」を「ショ」に読み替え、さらにそれを「ジョ」に置き換えた「ジョルノ」である(ここで「シ」が「ジ」になるのはシオバナ→ジョバァーナのときと同じである)。

つまり「ジョルノ」は愛称あるいは通り名のたぐいというわけである(ジョジョ7部の主人公が本名は「ジョナサン」だが大陸横断レース参加時に「ジョニィ」で通していたように)

ちなみに汐華初流乃を調査していたスピードワゴン財団は、彼が在籍する中学の学生寮まで把握していたが、ジョルノ・ジョバァーナと名乗っていることまでは把握していなかった。つまり中学の生徒名簿などでは、彼の名前は「Haruno Shiobana」の表記で登録されていることになる。


汐華初流乃が作中でジョルノ・ジョバァーナを名乗る理由は以上で辻褄が合う。しかしそれとは別に、「ジョルノが日本人の名を持つこと」を作品外の視点から見た場合、また新たな疑問が生まれる。

それは何かというと、仮にジョジョ5部の主人公の設定を、ジョバァーナの姓を持つイタリア人女性とDIOの間に産まれ、ジョルノと名付けられた子供ということにすれば、上述したややこしい理屈は全く必要なくなるという疑問である。

つまりジョジョの作者の荒木飛呂彦氏には、「ジョルノ・ジョバァーナには汐華初流乃という日本人名がある」という設定にする事情があったわけである。そしてこの事情は2つほど推測できる。


1つは荒木氏から見て、ジョルノというキャラクターが「日本人的」だからであろう。これは例えば、カラーイラストでのジョルノが「桜の花」とともに桜色の学生服で描かれたりすることや、日本で「太陽の虫」とされるてんとう虫を模した飾りが学生服やスタンドデザインにあしらわれていることもからもわかる。

桜の花とともに描かれたジョルノ

またジョルノと数日活動をともにしたパンナコッタ・フーゴは、ジョルノを「弱さともとれる控えめな態度があるが実はそうではない」と評していたが、この性格設定も荒木氏的には日本人的なものなのかもしれない。

このためDIOの息子である5部主人公は、日本人女性との間に産まれたと設定するのが妥当である。しかしイタリアを舞台とするジョジョ5部で、彼だけが汐華初流乃という日本人名のままでは他のキャラクターたちから浮いてしまう。これを解決し、彼を5部のキャラクターたちに溶け込ませるために、本名をもじったイタリア人のような名前として、ジョルノ・ジョバァーナを名乗らせることになったわけである。


もう1つの事情は、ジョジョ3部以降の「主人公をジョジョと読ませる名前の変遷」の流れを考えた場合、5部主人公の名前を直接ジョルノ・ジョバァーナにするのは都合が悪いからである。

「初代ジョジョ」であるジョナサン・ジョースターは、まっすぐな性格の正義漢である。しかし部が進むほどに「新たなジョジョ」となる主人公は、性格も正義も変則的なものになっていき、初代ジョジョの在りようから遠ざかっていく。

そしてそれを表すかのように3部以降の主人公は、その名前を「ジョジョ」と読ませる方法も変則的になっていく。即ち、3部の空条承太郎(クウジョウ・ジョウタロウ)は「条」「承」と続くのでジョジョ、4部の東方仗助(ヒガシカタ・ジョウスケ)は「助(スケ)」を「ジョ」と読んで「仗助(ジョウジョ)」からジョジョ、という具合である。

「条」「承」でジョジョ
「仗助(ジョウジョ)」でジョジョ

これを踏まえると、ジョースターの血統ではあるがDIOの息子でもあり、ギャング・スターという暗黒なことに憧れる5部の主人公は、仗助よりさらに変則的にジョジョと読ませる名前にすべきとなる。しかしジョルノ・ジョバァーナという名前ではそれを果たせず、4部までの名付け方との統一感がなくなってしまう。

それを解決するために、5部の主人公に汐華初流乃という日本人名を与え、「初(ハ)」を「ショ」と読み、「初流乃・汐華(ショルノ・シオバナ)」からジョルノ・ジョバァーナを経てジョジョと読める設定にしたわけである。

「初流乃・汐華(ショルノ・シオバナ)」からジョジョ

なお上記の話に関連して、3〜5部の主人公は後の部になるほど「ジョジョ」と呼ばれる頻度が減っている。具体的には、3部の承太郎は序盤にはジョジョと呼ばれることも多かったが、26話を最後にジョジョと呼ばれることはなくなった。4部の仗助がジョジョと呼ばれたのは1話目の一度だけだった。そして5部のジョルノは一度もジョジョと呼ばれることはなかった。

承太郎がジョジョと呼ばれた最後のシーン

これもまた、3部以降のジョジョが「初代ジョジョの在りよう」から遠ざかっていくことの表れといえる。