「善」と「力」の礎ジョナサン・ジョースター

ジョジョの奇妙な冒険第1部「ファントムブラッド」の主人公であるジョナサン・ジョースターは、イギリスの貴族の家系ジョースター家の一人息子である。ジョジョの物語は、彼が13歳の時、ジョースター邸にディオ・ブランドーという同い年の少年が養子として迎え入れられた時から始まる。

ジョナサン(13歳)
ディオ(13歳)

ジョナサンは赤ん坊の頃に母親を事故で亡くし、厳しくも愛情深い父親ジョージ・ジョースター卿に、「善の心」と「紳士的な精神」を叩き込まれて育てられる。そしてジョナサンはそれらを愚直に受け入れ、自分の血肉にしていく。

ジョージ・ジョースター卿

またジョジョ1部の序盤では、ジョナサンと近所の少年たちとの付き合いや、仲良くなった少女エリナ・ペンドルトンとの恋など、「日常」もつまびらかに描かれていく。その日々の中でジョナサンは、人付き合いで培われる「人の自然な感覚と常識」を学び、それを父からの教えと併せて、紳士的な思想をより強固なものにしていく。

ただその一方でジョナサンは、ジョースター家の遺産の乗っ取りを目論むディオから、あの手この手で汚い仕打ちを日常的に受け続ける。しかしジョナサンはそれに腐ることなく、逆に正義の意思をさらに強めていく。それはさながら、叩けば叩くほど強靭に鍛えられる鋼のようである。


そして7年後の1888年、20歳になったジョナサンは、人並み外れた肉体と精神力を備えた青年へと成長する。195cmの高身長を厚い筋肉で覆ったその肉体は、ラグビーの試合で敵チームの選手3人を引きずるほどの重機関車のようなパワーを宿す。そして正義を貫き続けた鋼の精神力は、守るべきもののためならどんな危険にも臆することはない。

ジョナサン(20歳)

そしてこの年、ジョナサンの成熟を待っていたかのように、ジョナサンの母親の形見としてジョースター邸に飾られていた「石仮面」という道具が惨劇を起こす。ここからジョジョの物語は「超常現象」を交えたものとなり、ディオは石仮面の力で「闇の吸血鬼」と化し、ジョナサンは吸血鬼とは逆の「光の波紋パワー」を身につけ、ディオを滅するべく戦う。

吸血鬼化したディオ

ジョナサンは戦いの果てにいったんはディオを倒して日常に戻り、エリナと結婚する。しかしその5日後、首だけになって生きていたディオとの最終決戦で相討ちとなり、若くして世を去る。

そしてジョジョの物語はエリナに宿っていた子種から、ジョナサンの子孫へと主人公を交代して続いていく。


ジョナサンの子孫であるジョセフ・ジョースターや空条承太郎たちは、ジョナサンが有していた「肉体と魂の力」を遺伝して受け継いでいる。彼らの高身長や並外れた生命力はその証左である。しかし一方で彼らの性格は、ジョナサンと見た目はそっくりだが性格が不真面目すぎるジョセフを始め、ジョナサンほどまっすぐでも素直でもない。それどころか部が進むにつれて、ジョジョの主人公の性格は「歪み」を増していく。

しかし彼らにジョナサンの「善性」が受け継がれていないかというと、それは逆である。ジョナサンの善性を受け継いでいるからこそ、彼らは「正義の主人公」であると同時に「歪み」を抱えることができている。

ここで少し話を変える。例えば現代の建築物の中には、1階より上階の方が面積が広い逆ピラミッドのようなものや、異常にねじれた外観を持つものなど、変則的な構造をしているものが少なくない。しかしそれらの建物は当然ながら、すぐ崩れてしまうような不安定な造りをしているわけではない。逆に変則的な構造だからこそ、その「土台」や「芯」の部分は、普通の建物以上に堅牢かつ基本に忠実に造られている。

これと同様に、ジョジョの初代主人公であるジョナサンは、ジョースターの血統の「土台」や「芯」に当たる存在であり、極めて基本的な善の心を持っている。例えば彼は、人間が変化したゾンビを殺すことに心を痛め、ゾンビ化した敵が人の心を取り戻せば攻撃の手を止め、恨みを晴らすために戦うことを恥ずべきことと感じる。それらは多少行き過ぎてはいるが、人として正しい情動である。

そしてこれらジョナサンの「鋼の善性」は、子孫たちの魂の「土台」や「芯」として受け継がれていく。

「強大な魂の力」を持つジョジョの主人公たちは、それゆえに「大きな運命の流れ」に巻き込まれる性質を持っている。そうして彼らは超常の力に満ちた、冒険と戦いの日々を送ることになる。それは人の普通の生き方、「日常と常識」の対極にあるものである。

さらにジョースターの魂は、世代を重ねるごとにより強力になり、より大きな運命に巻き込まれていく。つまり部が進むほどに、ジョジョの主人公が背負わされる運命は重くなり、彼らの心は「日常と常識」から遠ざかり、人として「歪んで」いくことになる。

しかし彼らの魂には「ジョナサンの善性」が、「鋼の芯材」のように埋め込まれている。そして彼らの心は生まれた時からそれと共に成長してきている。その「芯」がある限り、彼らの心が度を過ぎて歪むことは決してなく、人として許されない行動に及んでしまうことも決してない。かつてジョナサンが培い鍛え上げた「鋼のごとき善の心」は、子孫の魂の中で彼らを見守り、教え導いているのである。

そしてジョナサンの善と力によってジョナサンの子孫たちは、堅牢な土台の上に築かれる現代建築のように自由奔放に、あるいは清らかな源流から始まる大河のように雄大に、「基本」と「変則」、「清」と「濁」を併せ呑む、長い長い物語を紡ぎ出していくことになる。