幻想なき技術はただ地を転がる石ころのごとく、
技術なき幻想はただ空をたゆたう光のごとく、
技術と幻想から「創造」されるは光輝く黄金のごとく。

ゴールド・エクスペリエンス GOLD EXPERIENCE:黄金体験

2017/07/14改訂

本体名:ジョルノ・ジョバァーナ <Giorno:明けの白日>

DIOの息子、本名「汐華初流乃」<シオバナ・ハルノ>、
プロフィールJC63巻P186、エピソードJC47巻P154〜

能力:物質を「生物」に変えて生み出す

スタンド形成法射程距離パワー射程・パワー増加法
ゴールド・E 身体同形体 2m
擬似生物 物体基生成体 5km以上低〜中 全操作分離

当ページの要点

  • 人がこの世に全く新たな何かを「創造」するには、新たなものを思い描く「幻想」と、それを現実化する「技術」が必要である。
  • この論理は神秘学において「アイン・ソフ・オウル」と呼ばれる。
  • ゴールド・Eはこれら「技術」「幻想」「創造」のうち、「創造」を暗示するスタンドである。
  • ゴールド・Eは物質に自分の生命エネルギーを与えて「生物」を創造する能力を持つ。

命の創造「アイン・ソフ・オウル」

宇宙・生命・人類・個人など、この世界の中で進化・成長する全てのものが、成長する際に辿る変化の共通性を図像化したものである『生命の樹』。ジョジョ3部のスタンドに深く関係するこの生命の樹には、それにまつわる概念の1つとして、「アイン・ソフ・オウル」と呼ばれるものがある。

アイン・ソフ・オウルは人が世界の中に、「全く新たな何かを創造する」術を示した論理である。その論理は極めて簡単で、「創造」は「技術」と「幻想」が噛み合わさって行われると説明される。この好例は「飛行機」の発明である。かつての人類は「空を飛びたい」と強く願い、持てる技術のすべてを用いて試み続けた結果、それを創造したのである。そしてこの3つのうち、「創造」の力は「アイン・ソフ・オウル」(Ain Soph Aur:無限光)と呼ばれる。

世界の中に「新たなもの」が数多く創造されていくことは、世界が順調に進歩していくために非常に重要なことである。そしてそのような環境を作り出すために必要なことは、「弱きもの」の保護である。

世界の中では、すでに普及しきって万人に受け入れられているものは「強者」であり、一方生まれたばかりのもの、あるいはまだ可能性の領域にしか存在しないものは「弱者」といえる。そして既存の世界に君臨する強者が、「新たなもの」の誕生と成長を阻害する環境では、世界の進歩は妨げられてしまう。世界は強者が弱者の存在価値を認め、弱者が恥じることなく世界に貢献しようとすることで、共に進歩していけるのである。

ただしこのような世界の在り方には問題点もある。それは、無数に生まれ成長していく「新たなもの」の中に、この世の正義に根本から反する「邪悪」が紛れ込み、いつか世界を転覆させるかもしれないことである。

しかしもし、この世界に生きるものたちが全体として、「正しさ」や「真実」へ向かうように出来ているならば、世界の中にどれほど強大な邪悪が生まれようと、世界はそれを打ち破って力強く歩み続けられるだろう。

スタンド解説

ゴールド・エクスペリエンスは、ジョジョの奇妙な冒険第5部「黄金の風」の主人公、ジョルノ・ジョバァーナのスタンドである。このスタンドは拳で殴った物体を「生物」に変えて生み出す能力を持つ。

ゴールド・Eは、淡く黄金に光る細身の体を持つ人型スタンドである。その頭部はサイクリングヘルメットを被ったような形状をしており、両肩には翼を模した飾りが付いている。またその体表面には小さな長方形の穴が多数あり、身体各部には日本において「太陽の虫」を象徴するとされる「てんとう虫」が飾り付けられている。

本体のジョルノは、ジョナサン・ジョースターの肉体を奪った吸血鬼DIOと、日本人女性の間に産まれた、「ジョースターの血統」の一人である。そして彼も他のジョースターの血統の者と同じく、1980年代後半にDIOから発信される「邪悪な思念」を受けている。ただその頃のジョルノはまだ善悪の区別もつかない時期で、また母親からの愛情も薄かったため、DIOの思念に簡単に洗脳されてしまうが、そのおかげで空条ホリィや東方仗助のように高熱を発して死の淵をさまよう事態には陥らなかった(彼女らの心身の異常はDIOの思念に「善の心」で抵抗したがゆえに起こったものである)。

しかしその反面、ジョルノの心の底に植え付けられたDIOの弱肉強食の思想は、ジョルノの人生を初めから大きくつまづかせることになる。

幼い「弱者」であるジョルノにとって、周りの大人や同年代の悪ガキなどの「強者」は、自分を虐げる恐怖の対象であり、ジョルノは彼らの反感を買わないようにただ震えて生きていた。しかしジョルノはあるとき図らずも一人のギャングを助け、それをきっかけに価値観を一変させる。この事件で彼は、「弱者の側からでも強者をコントロールする術はある」「弱者でも強者に認められることはできる」「弱者と強者には共生の道もある」ことを学ぶ。

こうしてジョルノは自分が体験した「弱者の存在価値」を基に、父親DIOの思想、強者が弱者を支配して無駄なく世界を導くべきとする思想を再構築した、独自の哲学を胸に生き始める。

ジョルノの奇妙な哲学

ジョルノは基本的には他のジョースターの血統の者と同じく心に「正義」を宿している。しかしその一方で世間一般では「悪」とされる行動を取ることも多い。

ジョルノは作中で広瀬康一相手に盗みを働いたことからも分かるとおり、他者の「財産」を不当に奪うことに抵抗がない。そこにあるのは特異な「共有」の思想である。彼は自分を含めた集団や社会全体を一個の生物のように見ており、生物体内でエネルギーが充分なところから不足しているところへ分け隔てなくやり取りされるように、個々人の財産も扱われるべきだと考えている。そして貧しい弱者である自分が常に奪う側に回るのは彼にとって当然のことなのである。

ただこの反社会的な思想の一方でジョルノは、社会に貢献しようとする意識も強い。ジョルノは弱者の立場から体験したことや磨いたスキルを自分の武器と考え、いつか自分が強者の立場に立った暁にはそれを活かして、社会をより良い方向へ導いていけると信じている。

そしてジョルノにとってギャングの世界、社会の中で「必要悪」という正義と悪の狭間を担う世界は非常に親和性の高いものであり、その住人に幼い自分が救われ、ギャング・スターに憧れるようになったことは、ある種の運命なのである。

スタンド解説(2)

ゴールド・Eの体内に宿るスタンドエネルギーは、ジョルノの心に根付いた共存共栄の思想の影響により、自分以外のものにも分け与えられる汎用性を備えている。またそのスタンドエネルギーは、ジョルノの進歩主義的な思想も反映し、より高度で優れた状態を目指す性質も備えている。そしてゴールド・Eはこのスタンドエネルギーを「生命のエネルギー」として命なき物質に与えることで、物質を生物へと変えることができる。

ゴールド・Eの生命エネルギーは基本的には、スタンドの拳で「殴る破壊力」が変換されて物質に流し込まれる(つまり殴られた物質は割れたり凹んだりして破壊されることはない)。そしてその物質は、ジョルノがイメージしたとおりの生物の姿へと作り変えられる。

こうして生み出される「疑似生物」の大きさ・重さ・構成原子は元の物質のそれらには依存せず、大きな旅行鞄を小さなカエルに変えたり、1個のレンガを街路樹サイズの植物に変えたりできる。ただし生物の大きさに関しては、高等な生物ほど小さいものしか生み出せなくなり、植物では4〜5mの樹木も生み出せるが、哺乳類では20cmほどの小動物が限界である。そしてこれら擬似生物は能力が解除されれば元の物質へと戻る。

疑似生物は本物の生物と遜色ない複雑な内部構造を持つが、それはおそらくジョルノの「生物への知識」ではなく、「大地の記憶」から作り出されている。ジョジョの世界には「知性」と呼ばれる「物質に宿る霊的なエネルギー」がある。そして大地に宿る知性は地球上での「生命の歴史」を記憶している。ゴールド・Eはその情報を参照して生物を細部まで形作っており、ジョルノはあくまで能力を大まかにコントロールして、目的とする生物の姿へと誘導しているだけである。

擬似生物はゴールド・Eに与えられたエネルギーによって活動し、自分の体に備わった「感覚器官」や「機能」を活かして、「本能」と「習性」に従い行動する。そしてジョルノはその時々の状況に応じて、生み出す生物を選択し、その本能と習性を少しばかり調整することで、生物を自分の利になるように使役できる(作中でよく利用されているのは人間の所持品などを生物化して主の場所に帰らせる「帰巣本能」である)。その射程距離はかなり長く、作中での最長は5km以上である。

なお擬似生物は、ジョルノがまだゴールド・Eの能力を扱い切れていない初期にのみ、その身に受けた攻撃を相手に跳ね返すという特殊効果を見せている。この反射は攻撃が物理的なものであろうとスタンド的なものであろうと、そのエネルギーを空間転移させて相手に与える(例えば攻撃者が擬似生物の頭部を殴れば、攻撃者の頭部が同じエネルギーで殴られる)。

この特殊効果の原理は不明であるが、初期の擬似生物は後のものより力が弱く、またジョルノによる制御も拙かった。攻撃の反射はこの時期に疑似生物が自己防衛のために行うものであり、弱者である擬似生物への攻撃は強者である攻撃者に跳ね返される。そしてこの特殊効果は、ジョルノが生物創造に卓越してより力が強く、より思いどおりに操れる生物を生み出せるようになったことで失われる。

ゴールド・Eの生物創造能力は命を持たない物質にのみ働き、すでに命を持っている生物を殴っても別の生物に作り変えたりはできない。このためゴールド・Eが敵スタンド使いを攻撃する際には、殴る力をそのまま破壊エネルギーとして敵に与えようとする(ちなみに殴る際の掛け声は父親DIOが「ザ・ワールド」で戦うときと同じ「無駄無駄」である)。

細身のスタンド体から繰り出されるその拳の破壊力は、ジョジョ3部の「スタープラチナ」や4部の「クレイジー・ダイヤモンド」に比べれば数段劣り、仮に敵本体の頭部に全力の一撃を入れてもそれで決着をつけるには程遠い(もっともこれはスタンド使いがスタンド能力への高い抵抗力を持っているためであり、物質を破壊目的で殴る場合には自家用車を殴り壊すくらいは可能である)。

ただし、ゴールド・Eは敵を攻撃する際でもエネルギーを100%破壊力に変換し切ることはできず、一部は生物創造の時と同じ生命エネルギーとして敵の肉体に流し込まれる。そして敵の肉体に過剰に与えられた生命エネルギーは、敵の「意識と感覚を暴走させる」効果を発揮できる。

ゴールド・Eに殴られて意識が暴走した敵には、周囲の時間の流れが非常にゆっくりに感じられ、例えば自分に対してゴールド・Eが繰り出す追撃の動きが超スローモーションに見える。しかしそれを避けようとしても、肉体は速すぎる精神の動きについていけず、精神はのろすぎる肉体の動きに合わせることができず、つまりは肉体を動かすことができない。そうして結局避けられないまま攻撃を食らうと、敵はその「痛み」までも超スローモーションで、拷問のようにじっくり味わう羽目になる。

この能力効果は自由な精神を持つ人間、または人間が直接操作するスタンド体には絶大な効果を発揮する。反面、ロボットのように単純に動作する「遠隔自動操縦」型のスタンドなどには効果が薄い。またゴールド・Eが「植物」のような意識を持たない単純な生物に対して生命エネルギーを与えれば、その体ごと生命活動を加速させて、一気に寿命を終えさせ枯らしてしまうことも可能である。

なおゴールド・Eが敵の肉体に過剰に生命エネルギーを流し込む際には、そのエネルギーの一部がジョルノの肉体にも逆流を起こすことがあり、その場合はジョルノ自身も「ゆっくり流れる時間」を感じる。ただその効果は敵に起こっているほど強くはなく、ジョルノが慎重に肉体を動かす限りは意識が肉体から抜けてしまうことはない(ただしそのぶん動作は通常時より遅くなる)。

さらにゴールド・Eはこれらの能力に加えて、5部中盤の敵スタンド「ベイビィ・フェイス」との戦いで、物質を人間の「手」や「眼球」などへと生物化して、これで「肉体の欠損部位を補い負傷を治療する」という能力の応用法を生み出す。この場合、肉体に埋め込まれた「生物化された部品」は、肉体の主に霊的に馴染んで完全に一体化するため、能力を解除しても元の物質に戻ってしまうことはない。

ゴールド・Eの生物創造は前述したように「拳」で殴って行われる。これは物質に生命エネルギーを力強く与えるためであり、そして「スタンドの手」という最も器用な身体部位でもって、複雑高等な生物を創造できるからである。ただし「植物」や「昆虫」のような、動物に比べて単純な生物を生み出す場合はその限りではなく、それらはスタンドの手で触れるだけ、あるいは足で蹴ることでも生み出せる。

またジョルノは、ゴールド・Eで触れた物体に生命エネルギーを弱く流し込み浸透させることで、その物体内にある「生命エネルギーの塊」を感知することもできる。これを使えば、例えば乗り物に触れればその中にいる生物をゴキブリの1匹まで感知でき、また生物に触れればその中に「魂」がいくつあるかも判別できる。

最後に、作中でゴールド・Eが生み出した生物を、種類別に全て羅列しておく(カッコ内はジャンプコミックス版の巻数)。

◆植物木(47)、花(48)、アサガオ(48)、バナナ(49)、植物の根(54・55・57)、ツタ→短い草(55)、ツタ→樹木(60)、木の枝(60)、つる草(62)
◆昆虫蝿(48・49)、てんとう虫(59)、クワガタ(60)、蟻の群れ(62〜63)
◆魚類大型魚(49)、ピラニア(54)、トビウオ(56)
◆両生類カエル(47・54)
◆爬虫類ヘビ(48・52)、毒ヘビ(54)
◆鳥類なし
◆哺乳類モグラ(62)
◆その他クラゲ(49)、ココ・ジャンボの細胞を与えてスタンド「ミスター・プレジデント」の能力を持たせた小ガメ(56)、サソリ(63)

関連記事

『ゴールド・エクスペリエンス・レクイエム』
ゴールド・Eが「レクイエム」と呼ばれるスタンドを超えた存在に進化した能力。人類の「希望」と「未来」を体現するその能力は無敵に等しく、また世界に存在する「邪悪なもの」を因果の外へ駆逐することを可能とする。
『ザ・ワールド』
ジョジョ3部のボスにしてジョルノの父親DIOのスタンド。黄金の光放つそのスタンドは、「止まった時の中で動ける」という無敵の能力を持つ。
『ローリング・ストーンズ』
アイン・ソフ・オウルの3つのうち「技術」を暗示するスタンド。「苦しんで死ぬ運命の者」の苦しみを肩代わりする彫刻を作り出し、安らかに死なせる能力を持つ。
『スパイス・ガール』
アイン・ソフ・オウルの3つのうち「幻想」を暗示するスタンド。物質を「柔らかく」して壊れなくする能力を持つ。
『「波紋法」と「闇の眷属」そして「スタンド」の時代へ』
ジョジョ3部以降の「スタンド使いの時代」の到来が、アイン・ソフ・オウルの論理に基づいたものであるという説明。
『ジョルノの前髪その他の象徴』
小ネタ置き場。
『「アバッキオの茶」とジョルノの覚悟』
アバッキオが嫌がらせで出した茶への対応からジョルノの性格を解説。
『「星」を持つ者の使命と特権』
「星形のアザ」が持つ意味について。
『「黄金の風」でのアルファベットの象徴』
5部でのジョジョが「GIOGIO」と表記される理由などについて。
『クレイジー・ダイヤモンド』
ジョジョ4部の主人公東方仗助のスタンド。仗助はジョルノと同じく幼少期にDIOから発信される「邪悪な思念」を受けるが、それを自分が暮らす杜王町の大地から引き出す「八百万の思念」で中和して乗り切る。そして仗助はそれをきっかけに、「破壊された物体を修復する」能力を獲得する。