ギザギザ頭の眷属

ジョジョ4部に登場する岸辺露伴というキャラクターは、頭にギザギザな形のヘアバンドを付けていることで有名である。そしてジョジョでは5部以降の各部にも、このギザギザを受け継いだかのようなキャラクターが登場する。5部のレオーネ・アバッキオ(ヘアバンド)、6部のF・F(髪型)、7部のスティーブン・スティール(髪型)である。そして彼らには共通する要素がある。

結論から言うとこのギザギザは、ジョジョの作者である荒木飛呂彦氏の「分身」であることを表すものである。例えばキリスト教の宗教画では、聖母マリアは「赤と青の衣」を着て描かれるというお約束がある。これによって聖母マリアは、どんな画家がどんな顔で描いても聖母マリアだと判別できる。それと同様にジョジョの世界では、作者の分身となるキャラは「ギザギザ頭」で描かれるのである。

ただし彼らはもちろん作者の完全な写し身というわけではなく、それぞれが容姿も性格も立場も全く異なる。彼らは象徴的には作者の分身であるが、それと同時にジョジョの世界の中で確かに生きている登場人物の一人でもある。

ではここからは、各部のギザギザ頭のキャラクターを一人ずつ詳しく見ていく。

岸辺露伴(4部:ダイヤモンドは砕けない)

週刊少年ジャンプに「ピンクダークの少年」という作品を連載する漫画家。他者の肉体を「本」に変えてその人生を書物として読めるスタンド能力「ヘブンズ・ドアー」を持つ。

最初の「作者の分身」である彼は、職業をはじめ作者の荒木氏によく似ている。そして荒木氏は岸辺露伴を「漫画家としての理想の姿」と述べている。ただ荒木氏が好きなキャラクターである東方仗助を岸辺露伴は嫌っていることから、性格はかなり異なるようである。

レオーネ・アバッキオ(5部:黄金の風)

元警官。汚職が原因で同僚を死なせ、転落人生を歩んでギャングの一員となる。選択した人物の過去の行動を録画映像のように再生するスタンド「ムーディー・ブルース」を持つ。そして彼は5部の主人公であるジョルノ・ジョバァーナに強い敵対心を抱いている。

DIOの息子であるジョルノを主人公とする5部は、4部までと比べて明らかに異質な方向に舵を切っている。ジョルノは旅行者から悪意なく盗みを行う本物の犯罪者であり、ジョルノとその仲間は戦いでは敵をためらいなく殺す。また5部の登場人物の姿は4部までと比べて、痩身で顔立ちが整った美男子が多いという変化も見られる。

ジョルノはこれら5部で起こった「変革」の象徴的なキャラクターである。そしてジョルノはこの大きく革新されたジョジョの世界を、「希望と未来」を信じて迷いなく歩んでいる。対してアバッキオは「過去の再生」というスタンド能力や、「巨大で絶対的な何かに従っている時だけ安心できる」という性格からわかるとおり、無闇な変革を嫌う「保守」的なキャラクターである。

つまり5部での「作者の分身」であるアバッキオは、大幅に作風を変えた作者自身の「不安」を代弁する者といえる。

F・F(6部:ストーンオーシャン)

小さなプランクトンが無数に集まり、人型を取り、人間並の知性を宿した人ならざる生物。自らを「フー・ファイターズ」と呼ぶ。ジョジョ6部の主舞台であるグリーン・ドルフィン島にある湿地帯の中から生まれ、後に人間の姿を手に入れる。

彼は科学者フレッド・ホイルが提唱した宇宙の成り立ちに関する理論、宇宙の万物には「知性」という力が宿っており、それが宇宙の進化や生命の誕生を導いてきたという理論を信じている。そしてジョジョの世界ではこの理論は正しい。

彼は「宇宙そのもの」に浸透した知性が作り出す超巨大知性体の一部が切り出された存在であり、つまりは「宇宙を導いてきた存在の分身」である。それは物語世界を導く作者と同一ではないが、かなり近い存在である。

そして小さな体で世界に降り立った彼は、「人の視点」から世界を体験することになる。

スティーブン・スティール(7部:スティール・ボール・ラン)

ロマンを胸に波乱万丈な人生を送ってきた長身・老齢の興行師。ジョジョ7部の物語の主軸となるアメリカ大陸横断レース「スティール・ボール・ラン」を主催する。

しかしこのレースの裏にはアメリカ政府の陰謀が隠されており、スティールは立場的には政府に逆らえない「お飾り」でしかない。また彼はスタンド能力も持たないため、大統領はじめ多数のスタンド使いを擁する政府相手に戦う術も持たない。

6部で実行された「天国」の計画が失敗して生まれた7部の世界は、6部までに比べてキャラクターに対する作者からの束縛が弱い。そしてこの世界ではキャラクター自身が自由に動き、自分の物語を作ろうとしている(アメリカ的に言うなら「キャラクターの、キャラクターによる、キャラクターのための物語」である)。

立場的にはレースの最高責任者でありながら、そこで起こる陰謀と戦いにほとんど手を出せないスティールの弱さは、「作者からのキャラクターへの束縛の弱さ」を反映したものである。その面で彼は「作者の分身」なのである。

ところで物語の演出手法の一つに「デウス・エクス・マキナ」と呼ばれるものがある。これはストーリー上の問題を「神」や「作者」などの絶対者が現れて問答無用で解決してしまうという禁じ手の類である。これになぞらえるならスティールはそれとは真逆の、ストーリー上の問題をキャラクターたちに解決させるため、あえて無力にされた絶対者といえる。

該当者なし(8部:ジョジョリオン)

ジョジョ8部作中には現在のところ、ギザギザ頭のキャラクターは出てきていない。8部の世界ではキャラクターが7部よりさらに自由に動いており、その物語世界にはもはや「作者の分身」はいないとも考えられる。

なお、作者の荒木氏はジョジョリオン連載のかたわら、たまに各誌に読み切り作品として「岸辺露伴は動かない」シリーズを掲載している。そしてこれら作品群での世界設定は、4部とも8部ともかなり異なっている。もしかするとここでの岸辺露伴は、ジョジョ本編の世界から遊離して並行世界をさすらっている「作者の分身」なのかもしれない。


なお作者の分身の象徴がギザギザ頭である理由については、最初の岸辺露伴をたまたまそうデザインしたのを以降の部でも踏襲しただけなのか、あるいはこの形状にそれ以上の意味が込められているのか不明である。