神拒む治外法権「杜王町」

ジョジョの奇妙な冒険第4部「ダイヤモンドは砕けない」の舞台である杜王町は、日本の東北地方にある、山と海に挟まれた人口6万人弱の町である。そしてこの土地には、大地に宿る「巨大で霊的な意識体」が存在する。

杜王町全景

ジョジョ6部で明かされたとおり、ジョジョの世界の万物は「知性」という霊的な力を宿している。そして知性はその働きの一つとして、人々が集まり、住まい、社会を形成する土地の「大地」の中に、その土地固有の巨大な意識体を生じさせる。

ジョジョ6部で語られた「知性」という力

杜王町は少なくとも縄文時代の昔から連綿と人々が住み続けてきた土地である。それゆえにその大地に生じた意識体は非常に強い力を持っている。そしてこの意識体は、過去にこの土地に生きた者たちの生活習慣・しきたり・精神性といった諸々を記憶しており、その情報を今現在この土地に生きる者たちに強力に発信する。

この影響により杜王町の住人は無意識的に、この土地で受け継がれてきた精神性に従う傾向が強くなる。またこの傾向は、大地に生える「木」のように、先祖代々その土地に「深く根ざす者」ほど強くなる。

こうして杜王町は緩やかにしかし確実に、この「知性の大地」にして、「大地に根ざす者たちの隠れた領主」である存在、「木と土の王」の力に治められていくことになる。


またジョジョの世界には「大地に宿る意識体」とは別に、人の精神に作用する巨大な霊的存在がいる。それは世界全体を導く「神」である。しかし杜王町では、神からの作用より足元の大地に宿る「木と土の王」からの作用のほうがはるかに強く、神の力はほとんどかき消されてしまう。

つまり杜王町は、神による統治を無視して独自の王を戴く「治外法権の土地」といえる(これらの霊的特性は4部最終話で描かれた「杜王町の紋章」のデザインにも王冠などとして反映されているようである)。

杜王町の紋章

そしてジョジョ3部の時代から本格的に始まった「スタンドの歴史」は、この「独自の王を戴く土地」において、ガラパゴス諸島の生物のように独自の進化を遂げることになる。


ところでジョジョ4部の主人公である東方仗助は「ジョースターの血統」の一人だが、彼はその象徴である「首の付け根の星形のアザ」を作中で一度も見せていない。存在自体は間違いなくしているであろう彼のアザが一度も描かれなかった理由は、「星のアザ」に込められた意味にある。

ジョースターの「星形のアザ」(ジョジョ3部より)

ここでは詳しく解説しないが、ジョースターの血統が持つ「星のアザ」は、彼らが「星のように光り輝く魂」を持っていることを示している。そしてその輝く魂は、世界全体を導く神の目を強く引きつけ、彼らに神の加護を与える効果がある。

しかし杜王町という土地では前述したとおり、神の力はほとんどかき消され、ジョースターの血統に対する神の加護の効果も大きく減じる。それを象徴するかのように4部作中では、東方仗助の星のアザは一度も描かれなかったのである(これは4部に登場する仗助以外のジョースターの血統、空条承太郎やジョセフ・ジョースターでも同じである)。

そしてその一方で4部には、ジョースターとは別に「星の印」を持つ者が登場する。「ハイウェイ・スター」のスタンド使い噴上裕也である。彼はスタンド名はもとより、アゴの入れ墨や襟飾りにはっきりと「星の形」がある。

噴上裕也とハイウェイ・スター

おそらく噴上裕也の魂は、世界全体を導く神にとっては特に目を引くものではない。しかし一方で、杜王町の「木と土の王」の嗜好には深く合致して、光り輝いて見えるらしい(それは地方限定で人気のローカルアイドルや、あるいは東北民にとって芋煮会が特別なものであったりするのと似ている)。

そしてそれゆえに噴上裕也のスタンド能力は、杜王町の大地の深層から表層までの助力を得て、交通事故で意識不明の重体となった彼を、全力で救うための能力となっている。