七色の魂「虹村」一族

虹村形兆・億泰兄弟とその父親は、ジョジョの奇妙な冒険第4部「ダイヤモンドは砕けない」の序盤に登場する家族である。彼ら兄弟は少年時代を父親とともに東京で過ごし、4部の舞台である杜王町とは特にゆかりのない家系らしい。しかし形兆はとあるきっかけで杜王町という土地を見出し、住み始める(詳しくは後述する)。また彼らは全員が「弓と矢」で能力を発現させたスタンド使いである。

そして彼ら虹村の血族には、肉体的・霊的な遺伝によって共通する特徴がある。それは彼らが普通の人間より物事を「考えすぎる」気質を持つことである。

「虹」という気象現象は、無数の水滴がプリズムの役割を果たして七色の光を生み出すものである。それと同様に虹村の血族は、無数の思考によって幅広い物事に考え及ぶという精神性を持つ。彼らの姓に含まれる「虹」の文字と、彼らの名に含まれる「兆」「億」などの大きな数字は、この精神性を象徴している。

そして彼らのスタンド能力は、無数の思考によって形作られる思考空間を、そのまま現実世界に取り出すという共通点を持つ。

また虹村の精神性は、「社会に対するスタンス」にも大きな影響を与えている。社会とは多くの人間が集まり「助け合う」ことで成り立っている。社会の中で個人は自分の意識内の物事だけを「自分の領分」として行い、意識外の物事は他者に任せるという生き方を自然に行っている。

しかし虹村は考えすぎるがゆえに、あらゆる物事を自力で片付けようとする。その結果彼らは社会の中で良く言えば自立、悪く言えば孤立する。またこういった全てを自分の頭の中で決めようとする性格は、彼らを反社会的な行動に走らせる「危うさ」にもつながる。

ではここからは、「虹村」姓を持つ各人について詳しく説明していく。

虹村形兆(ニジムラ・ケイチョウ)

虹村家の兄。几帳面な性格をしており非常に賢い。父が不死身の肉塊と化してしまった事件をきっかけに、父が何に関わっていたのかを独力で調べ始め、「DIO」「空条承太郎」「スタンド」「エンヤ婆」などの存在を突き止め、エンヤ婆が持っていた「弓と矢」の1本を手に入れる。これは形兆の知力がいかに優れているかを物語っている。

そして形兆のスタンド「バッド・カンパニー」は、脳内に高度な思考力で構築・布陣した「軍隊」を、ミニチュア軍隊型のスタンドとしてそのまま現実世界に出現させることができる。

なおこれら軍隊が備える武器や戦車等は全て、「アメリカ軍」のものをそっくり真似て作られている。アメリカは知ってのとおりかつてイギリスの統治から「独立」した国であり、高い独立心を持つ形兆のスタンドがアメリカ軍の姿を選んだのは必然といえる。バッド・カンパニーは形兆の思考力によって外界に「軍事的」な戦いを挑むスタンドなのである。

そして過去のすべてを知り、肉塊となった父のことを独りで思い悩んだ末に形兆は、「父を殺せる」スタンド使いを見つけるため、杜王町内で「変わった人間」を見かけては矢で射抜くという凶行を開始し、そのまま死んでしまう犠牲者を何人も出しながらスタンド使いを増やしていく。そして最後には自分が生み出したスタンド使いの一人、音石明に殺される。

虹村億泰(ニジムラ・オクヤス)

虹村家の弟。兄の形兆と違ってかなり頭が悪い。ただ彼の頭の悪さは後に登場する「重ちー」のように「何も考えていない」わけではなく、思考自体は形兆と同じくらい行っているが、思考が破綻して答えを出せないだけである。

反面彼は思考がはまりさえすれば非常に雄弁である。そのさまは料理人トニオ・トラサルディーの店で食事した時の味の表現でいかんなく発揮されている。

億泰のスタンド「ザ・ハンド」は、このように破綻しがちな彼の思考力によって、人型スタンドの右手の掌中に「極度に混沌化した空間領域」を作り出せる。そしてこの右手を振り抜けば、その軌道にある物体と空間をブルドーザーのように破壊して削り取れる。

なお形兆と同じく億泰のスタンドもアメリカナイズされており、スタンドの左半身には「$」のマーク、右半身には「¥」のマークがいくつも付いている。ただし「手の甲」だけは配置が逆で、右手が「$」、左手が「¥」になっている。ザ・ハンドは億泰の思考力によって外界と「経済的」な交換を行うスタンドなのである。

虹村形兆と億泰の父親

虹村家の父。独立起業していたが経営に失敗し膨大な借金を抱え、その後DIOのもとでスタンド使いとなり大金持ちになる。しかし1989年にDIOの肉体がエジプトで朝日を浴びて消滅したのと時を同じくして、肉体に埋め込まれていた「DIOの肉の芽」が暴走し、知性を失った不死身の肉の塊と成り果てる。

彼は4部作中では父親としか紹介されず下の名前は不明だったが、実写映画版では「虹村万作(ニジムラ・マンサク)」という名前を与えられている(作者の荒木氏による命名かは不明)。

虹村父のスタンド能力がどのようなものだったかは不明である。ただそれは虹村兄弟と同じく「思考」と「空間」に関係するものだったのだろう。

ちなみに作中で虹村父が着ている服の背中には、コーラ瓶が3本と、星が4つ描かれている。そしておそらく、アメリカで発明されたコーラは「虹村の肉体」を象徴し、星はDIOの首から下の「ジョースターの肉体」を象徴している。つまりこの配分どおりに考えるなら虹村父は、4対3の割合で肉の芽の力に圧されていることになる。

そして杜王町という土地には、ここでは詳しく解説しないが「ジョースターの肉体」が持つ霊的な力を弱める性質がある。つまり虹村形兆が杜王町に住み始めたのは、この土地で父の症状が落ち着くことに気付いたためと推測できる。

虹村京(ニジムラ・ケイ)

ジョジョ4部とは異なる世界の杜王町を描いた8部「ジョジョリオン」に登場する女性。杜王町でフルーツ輸入業を営む地方豪族である東方家の屋敷で「家政婦」として働いている。

虹村京は吉良・ホリー・ジョースターの娘にして(8部の)吉良吉影の妹であり、正体を隠して東方家に潜入している。そして彼女の名乗る「虹村」が偽名なのか、何かの事情による戸籍上の本名なのかは不明である。ただいずれにせよ彼女は、4部の虹村家と非常に似た精神性を備えている。

まず家政婦として家事全般を十全に行うには、家庭内のあらゆる物事に細かく目が行き届く才能が必要である。また家事の作業の多くは、敷地内の物が散らかったり汚れたりホコリが溜まったりといった「エントロピーの増大」に逆らう作業である。

これを踏まえて虹村京のスタンド「ボーン・ディス・ウェイ」は、家事で世話をした相手に仕掛けることができ、相手が特定条件を満たすと出現し相手を攻撃する。そしてそのスタンド像は「エントロピーに逆らう」力を持ち、周囲の空間を冷やすと同時に奪った熱をバイク型スタンドの動力に変えて活動できる。