1999年7の月、大地に堆積した怨念が起爆する。

バイツァ・ダスト BITES THE DUST:負けて死ね

2023/02/09改訂

本体名:吉良吉影 <キラ・ヨシカゲ>

殺人鬼、川尻浩作という男を殺し彼に成りすましている、プロフィールJC44巻P87

能力:特殊な爆発で時間を1時間戻す

スタンド形成法射程距離パワー射程・パワー増加法
憑依時 能力作業体 杜王町内 全操作分離

当ページの要点

  • バイツァ・ダストは過去から未来へと積み重なる「時間の地層」を爆破する能力である。
  • その結果、杜王町内の「時間の地層」はクレーター状に消し飛び、時間が1時間戻る。
  • 杜王町という土地には、「知性」という力が大地に長年留まり続けて生じた意識体が存在する。
  • バイツァ・ダストの強大すぎる能力は、この意識体が持つエネルギーを借りることで実現されている。

知性の大地

ジョジョの世界には、世界をあまねく満たし、物質や生物に宿っている霊的な力である「知性」なるものが存在する。知性はそれが宿った物質・生物の構造などを情報として「記憶」し、またその情報を周囲に信号として「発信」する性質を持っている。

そして知性は、人々が集まり、住まい、社会を形成する土地の「大地」の中に、その土地固有の巨大な意識体を生じさせる。この「知性の大地」は、過去にその土地に生きた者たちの生活習慣・しきたり・精神性といった諸々を記憶しており、その情報を今現在その土地に生きる者たちに発信する。

この影響によりその土地の住人は無意識的に、その土地で受け継がれてきた精神性に従う傾向が強くなる。またその傾向は、大地に生える「木」のように先祖代々その土地に「深く根ざす者」ほど強くなる。

こうしてその土地は緩やかにしかし確実に、この「知性の大地」にして「大地に根ざす者たちの隠れた領主」である存在、「木と土の王」の力に治められていく。

スタンド解説

バイツァ・ダストは、ジョジョの奇妙な冒険第4部「ダイヤモンドは砕けない」に登場する殺人鬼にして、物体を爆弾化するスタンド「キラークイーン」の本体である吉良吉影が、スタンド能力を引き出す「矢」に再び射抜かれて発現させた「キラークイーン第3の爆弾」である。

キラークイーン
再び「矢」に刺された吉良吉影

「杜王町から決して逃げない」という吉良吉影の決意に呼応して引き出されたバイツァ・ダストは、「王」の名を冠する杜王町の大地と、「女王」の名を冠するキラークイーンとを強く結び付ける。これによりキラークイーンは、杜王町の大地に宿る意識体である「木と土の王」の力を借り受け、その膨大なエネルギーを利用した特殊な爆発を起こすことが可能となる。

吉良吉影が持つ「爆発を起こすスタンド能力」の源となっているのは、彼が生まれ持った「高い創造性の才能」と、「それを抑圧する家庭環境での成長」である。これらによって生じた「抑圧された創造性のエネルギー」は、未練を残した「怨霊のエネルギー」へと変化して、スタンドの両手に溜まっている。そしてスタンドの手で他の物体に触れると、このエネルギーがその物体に流れ込み、解放されることで爆発を起こすのである。

一方、杜王町の大地に宿る「木と土の王」も、吉良吉影のものとは異なる「怨霊のエネルギー」をその内に蓄えている。杜王町では近代に始まった西洋化そして1980年代に始まった大規模な宅地開発によって、大地の上に生きる者たちの精神性が劇的に変化した。そしてこの急激な変化についていけずに「古き在り方」に縛られ続ける「木と土の王」は、そのストレスを怨念のようなエネルギーとして大地に溜め続けることになる。一つの町を体として生まれるそのエネルギー量は、吉良吉影個人のそれとは比較にならないほど膨大である。

杜王町全景

そしてバイツァ・ダストは、杜王町の大地に溜め込まれた「怨霊のエネルギー」を、キラークイーンが引き出し爆発させることで発動する。

吉良吉影がバイツァ・ダストを発動するためには、ある状況が整っていなければならない。その状況とは、「吉良吉影(川尻浩作)の正体を知る爆殺すべき者」がいて、しかし「その者を爆殺すると大きな問題が起こってしまう」という板挟みの状況である。

そして「木と土の王」もまた、吉良吉影とは別の板挟みを抱えている。キラークイーンと結び付いた「木と土の王」は、自身が溜め込むストレスを爆発のエネルギーに変えて、大量に発散することが可能となっている。しかしそれをそのまま実行すると、その膨大すぎる破壊エネルギーは杜王町を焦土に変え、そこに住まう生物を全滅させてしまう。それは「木と土の王」総体の意思に反するため、実行できないという板挟みである。

以上を踏まえてバイツァ・ダストの発動には、まず上記の条件を満たす「爆殺すると問題がある者」を、「依り代」として爆弾化する(なお発動の難しさゆえか、依り代は「スタンド能力を持たない者」でなくてはならない)。その上で、吉良吉影と「木と土の王」双方に働く上記の板挟みが極限でシンクロした時にキラークイーンが起爆スイッチを入れると、膨大な爆発のエネルギーは特殊な方向への逃げ道を見出し、そこへと流れ込む。その方向とは「過去という確定された時間」であり、バイツァ・ダストはこれを爆破することで時間を戻す。

仮にこの物質世界を、前後左右だけに広がり高さの無い一枚の板と考え、その板が下方の過去から上方の未来へと、確定された現在を地層のように積み重ねていくのが時間の進行であるとする。このモデルにおいて、バイツァ・ダストの時間爆破の際に起こることは、杜王町全域に及ぶ過去1時間分の、「時間の地層の消滅」である。この結果杜王町は、クレーターのように穴の空いた地層の表面である「1時間前」から、時の流れをやり直すことになる(なおこの「1時間」という穴の深さは、おそらく杜王町外の時間に対してバイツァ・ダストで遡れる時間の限界であり、つまり連続発動しても2時間3時間と遡ることはできない)。

時間が戻った杜王町内では、当然のことだが全ての出来事は巻き戻り、町の住人は爆破された1時間分の記憶を失う。ただし吉良吉影と依り代の「精神」だけは時間爆破から免れ、1時間分の記憶を持ったまま過去の自分の肉体に落下して戻ることができる(これにはさらに細かいルールがあり、必ず両者の記憶が保持されるとは限らないが、詳しくは後述する)。

そしてこの1時間内に壊れた物は元に戻り、死んだ者さえ生き返る(なおこのことに関連して吉良吉影は、「爆殺すると問題がある者」をすでに殺してしまっていた場合でも、その死体が残っていればそれを依り代にバイツァ・ダストを発動し、生き返らせることができる)。

バイツァ・ダストには発動パターンが2つあり、そのどちらを発動するかは吉良吉影が選べる。1つ目の単純な発動パターンは、依り代が吉良吉影の正体を知ったのが「1時間以内」である場合に使える。この場合、吉良吉影はバイツァ・ダストで時を1時間戻し、吉良吉影は記憶を保ったまま過去に戻る。一方で依り代は記憶の保持を許可されず、吉良吉影の正体を忘れることになる。

一方依り代が、「1時間以上前」から吉良吉影の正体を知っていた場合には、吉良吉影は2つ目の複雑な発動パターンを用いる。この場合キラークイーンは、時間を戻した際に依り代の元へと移動し、その体に「憑依」する。そしてこの状態のキラークイーンは、依り代から第三者に「吉良吉影の正体」が漏れた時に第三者を爆殺する、「地雷」として活動を開始する。

作中ではこの発動パターンは、川尻浩作の息子、父親が「何者かが化けた別人」で「殺人鬼」であると知った、川尻早人に使用されている。なお、こちらのバイツァ・ダストが継続し、依り代(川尻早人)にキラークイーンが取り憑いている間は、吉良吉影はキラークイーンを使えない無防備状態になる。

川尻早人

依り代に取り憑いたキラークイーンは、厳密には依り代の肉体ではなく、依り代の精神に記憶されている「吉良吉影(川尻浩作)の情報」に取り憑いている。また憑依中のキラークイーンは、人型スタンドの姿はしているが、「スタンド体」というよりは「力場」のような状態であり、その体は身長20cmほどに小型化し、そして自発的に依り代の体外に現れることはできないという性質がある。

憑依状態のキラークイーンが外に現れるのは、依り代が吉良吉影の情報を外に漏らした時か、第三者が依り代から吉良吉影の情報を暴き出した時である。そうなった時キラークイーンは、その情報の伝達経路に乗って移動し、情報が伝達した相手を爆破する。

露伴の瞳に入ったキラークイーン

バイツァ・ダストによる生物の爆破手法は、普段のキラークイーンとはかなり異なる。キラークイーンは「吉良吉影の情報」が第三者の目から入れば目に、耳から入れば耳に入り込み、そこに触れて爆破指定の「マーキング」を行う。すると杜王町の大地からそこへと、「木と土の王」が宿す「怨霊のエネルギー」が流れ込み、爆発を起こす。その爆発の規模は、普段のキラークイーンが起こすものと変わらず、相手の肉体を衣服所持品もろとも粉々に破壊して消滅させる。

爆殺される露伴

マーキングは杜王町内であれば、例えば電話越しに遠く離れていても問題なく行われ、通話相手を爆殺する。また依り代が紙に吉良吉影の情報を紙に書いて誰かに見せた場合には、相手とともに紙も爆破で消し去られる。さらに上述したとおり、「力場」のような状態であるキラークイーンは、依り代から複数の対象へ同時に情報が伝わった時には、その体を分身させて各対象に入り込み、同時に爆殺できる。

そしてさらに、バイツァ・ダストの「地雷」としての消去活動は、依り代に接触した第三者の爆殺だけにとどまらず、それと同時に「時間爆破」を引き起こし、時を1時間戻す。この理由は、「依り代に出会った者が消え去った」何らかの痕跡が残れば、そこからの推測で依り代を避けて吉良吉影(川尻浩作)に迫ろうとする者が現われるかもしれないからである。

また別の理由としては、この時間爆破は「木と土の王」に払われる「対価」であると見ることもできる。バイツァ・ダストは「木と土の王」の協力の下に発動されている能力であるが、人を爆殺した程度ではそれが溜め込むストレスのエネルギーは毛ほども消費されない。このため「木と土の王」は第三者の爆殺が成功した際に、ストレスの大量発散という対価を求め、それが叶う時間爆破を引き起こすわけである。

そしてこの、第三者の爆殺に伴う時間爆破では、依り代は記憶の保持を許可されて1時間前に戻される。この理由は、そうしないと依り代が前回と全く同じに行動し、無限ループに陥ってしまうからである。一方、吉良吉影の預かり知らないところで起こるこの時間爆破では、吉良吉影は記憶の保持を行えず、町の住人と同じく1時間分の記憶を失う。

爆破された1時間を記憶していない吉良吉影

またこの時間爆破により、爆殺した相手はいったん生き返ってしまうが、以下に説明するバイツァ・ダストの能力効果により、同じ時間に戻ると再び爆殺される。

バイツァ・ダストが「時間の地層」の爆破を行う時、そこにある全ては完全に破壊し尽くされるわけではない。そこにはその時間内に起こった「出来事」のいくらかが弱々しい力場のようなものとして残っており、次の時間ではそれらの出来事はわずかであるが起こりやすくなっている。そしてキラークイーンは、依り代の周囲にあるこれらの力場の働きを大きく強化して「運命の力場」へと変え、強制的に引き起こす能力効果を備えている。

この効果により、前の時間で爆殺された者は次の時間では依り代と出会わなくても爆殺され、前の時間に依り代の周囲で壊れた物は次の時間でも必ず壊れる。ただしそれらが起こる「時間の厳密さ」は出来事によってかなりの差がある。例えば「人の爆殺」は、怨霊のエネルギーを流し込む大地が常に準備万端であるため、1秒の遅れもなく全く同じ時間に起こる。一方でそれ以外の、例えば「コップが割れる」といった出来事は、次の時間で依り代がその原因を潰すといったんは回避される。しかし「運命の力場」が維持される限り、いずれ別の原因で必ず起こることになる。

バイツァ・ダスト下での「運命」を語る吉良吉影

なおキラークイーンが憑依中の依り代は、「木と土の王」が持つ運命操作の力により強力に守護されており、例えば交通事故に遭うようなことは決してない。また依り代が自殺を試みた場合には、憑依中のキラークイーンがそれを阻止する。ちなみにこの時に現れるキラークイーンをスタンド使いが見れば、「吉良吉影の情報」を受け取ったとことになり爆殺されてしまう。

早人の自殺を防ぐキラークイーン

そしてもし依り代が「繰り返される爆殺」を止めたいのであれば、何らかの手段で吉良吉影に能力を解除させるか、彼を殺すしかない。そうすればその時点で爆殺などの「運命の力場」は本来の弱々しい力場に戻り、前回起こった爆殺も再演されることはなくなる。

バイツァ・ダストで時間が戻った杜王町では、依り代以外の人間は前回と全く同じ行動を取り、依り代の行動の変化によってのみ、彼らの行動は前回とずれていく。ただし前述したように、バイツァ・ダストによる時間爆破の範囲は杜王町内のみであり、その外の「時間の地層」は不動のまま存在している。このため繰り返される時間での杜王町内外の「人・物・情報の出入り」は固定されており、これらは依り代がどう行動しようと変わることはない。

またバイツァ・ダストの能力下では、同じ時間を壊して繰り返すことで時空間がわずかに脆くなってしまうらしく、杜王町はその全域において物理的な存在力がわずかに低下する。この影響により作中の杜王町では、気圧が低下して周囲の雲を引き込み天気予報にない雨が降ったり、電圧が低下した地表物に雷が落ちたりしている。

天気予報にない雨
ペプシの看板に落ちる雷

バイツァ・ダストは本来なら前述したように、「爆殺すると問題がある者」に正体を知られてしまった時に、その相手を依り代として発動できる能力である。しかし吉良吉影は場合によっては、適当に捕まえた一般人に自分から正体を明かすという自作自演の上で、無理やりバイツァ・ダストの発動を試みることもできる。

自作自演のバイツァ・ダスト

ただしこの自作自演では、バイツァ・ダストの発動条件である「板挟み」の心理要素が存在しないため、それを埋め合わせるだけの「自分の心を追い詰める」要素が必要となる。そして作中で吉良吉影はこの自作自演のバイツァ・ダストを、空条承太郎たちに囲まれ逃げ場のない状況で、迫り寄る彼らのプレッシャーを利用して発動しようとした。

プレッシャーでバイツァ・ダストを発動させようとする吉良吉影

さらにこの状況であれば吉良吉影は「木と土の王」の協力のもと、バイツァ・ダスト発動時に周囲20〜30m以内にいる全員を、マーキング爆破することも可能であるらしい。そして仮にこの時間爆破が成功して時が戻れば、吉良吉影と依り代は記憶を保持して過去に戻り、キラークイーンは依り代側でマーキングの「運命の力場」を維持し、マーキングされた者たちは1時間後に(杜王町のどこにいようと)全員爆殺されることになる。

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『キラークイーン』
第1の爆弾。スタンドの指先で触れた物体を爆弾に変え、爆発させる。
『シアーハートアタック』
第2の爆弾。キラークイーンの左手の甲から発車される爆弾戦車。
『マンダム』
ジョジョ7部に登場する「時間を6秒だけ戻せる」スタンド。ただしその原理はバイツァ・ダストとは全く異なる。
『ハイウェイ・スター』
バイツァ・ダストと同じく「木と土の王」と結び付いた能力。「杜王町の鼻の穴」ともいえる二ツ杜トンネルで発現したこのスタンドは、トンネル内の罠の部屋に入り込んだスタンド使いの匂いを覚え、追いかける。その射程圏は杜王町全域で、大地の上を時速60kmで走り、またテレポートも行える。