スタンドを引き出す「矢」の原理と個性
ジョジョの奇妙な冒険第4部から登場する「矢」は、生物からスタンド能力を引き出せる特殊な道具である。この道具は初期には「弓と矢」と呼ばれ、弓とセットで扱われていたが、実際には特別な力があるのは、特殊な素材で作られた「矢じり」の部分だけである。
そしてこの矢じりが生物に刺さると、その生物は「スタンド使いになる」か、さもなくば「死ぬ」。そうなる原理は以下に説明するとおり、極めて単純である。
スタンド能力とは、物質世界のものとは異なるエネルギーを何処かから引き出し、そのエネルギーを使って発揮される力である。そしてその「何処か」とは即ち、生物の中にある「霊的な領域」である。そして「矢」は、物質世界から霊的な領域へとつながる「穴」を開ける力を持つ。この結果その生物は強制的にスタンド能力を引き出されるわけである。
ただしこの乱暴な原理ゆえに、スタンドの才能を持たない者が矢に射抜かれれば、形を成せないエネルギーが「穴」からだだ漏れに流出し、そのまま死んでしまう。
「矢」の外観は一見「金属」的だが、実際には光沢のある「岩石」である(DIOは「石の矢」と呼んでいた)。そしてこの岩石の起源は、ジョジョ5部の終盤で明かされている。矢はグリーン・ランドのケープヨークという場所に数万年前に落ちた隕石から、古代人が作ったものである。そしてこの隕石の内部には、特殊な「ウイルス」が閉じ込められて眠っている。
このウイルスが単純に隕石と共に宇宙から飛来したものか、それとも隕石落下の影響で地球上のウイルスが変異したものかは不明である。ただいずれにせよ、このウイルスには普通のウイルスとは異なる「霊的な特性」がある。それはある種の生物が持つ「光に向かおうとする」性質にも似た、「霊的な領域に向かおうとする」特性である。
この特性によって「矢」は生物に刺さる時、その生物の霊的な領域へと軌道を曲げられ、霊的領域につながる穴を開けることができるわけである。
また「霊的領域へと軌道が曲がる」特性ゆえに、矢に射抜かれた者が物理的に受ける傷は、見た目よりもはるかに軽い(例えばジョジョ4部でアンジェロという男は、「矢」で口内を射抜かれて後頭部へ突き抜けていたが、死ぬことはなかった)。そしてその軽い傷も、スタンド能力が目覚めた場合には、一時的に激増した自己治癒力ですぐ治ることになる。
次に「矢」の製法についてだが、おそらく「矢」はただ単に隕石を「矢の形にしただけ」のものではない。未加工の隕石は例えるなら「磁石化されていない鉄」のようなものであり、隕石内部の無数のウイルスの足並みが揃わずにばらばらにしか活動できない状態にある。
この状態の隕石をただ物理的に尖らせて生物に刺しても、ウイルスの活動がばらばらなそれは霊的領域に対しては、無数の棘が付いた剣山を刺すようなことにしかならず、霊的領域への大きな穴を開けることはできない。
古代人は何らかの方法で、鉄を磁化して磁石にするように、隕石内のウイルスの活動方向を揃えた上で、「矢」の形に加工している。この結果「矢」は磁力のような力を得て、生物の霊的領域へと深く大きな穴を開けることができるわけである。
ちなみに未加工の隕石でスタンドの素質がない者を刺した場合、死なずに済むかというとそうでもなく、傷口から血液に入ったウイルスが身体各所で霊的領域への浅く微小な穴を無数に開けた結果、やはり死んでしまう。ジョジョ5部113話で語られた、全身がトマトソースのようになって死んだケープヨークの作業員がそれである。
古代人が作った矢は全部で6本あり、エジプトの遺跡に一纏めになって埋もれていたそれは、1986年にある男に掘り出される。その男、のちの2001年にジョジョ5部のラスボスとして登場するディアボロは、矢の1本だけを自分の手元に残し、残りの5本をエンヤという老婆に売り渡す。そしてこの5本はそこからさらに、いろいろな人物の手に渡っていくことになる。
これら矢の一揃いは、ディアボロが矢を見つけたシーンで描かれている。その外観は、4本が全く同じデザインで、1本は前述の4本には無いパーツが付いており、残る1本の外観は他の矢の影に隠れて不明である。
そしてこれら6本の矢には、1本1本「個性」があり、それぞれで特性が少しずつ異なる。ただその理由が、矢に閉じ込められているウイルスの量の差によるものか、あるいは矢の中のウイルスに複数の種類があってその配合によるものか、あるいはさらに別の理由なのかは不明である。
では以下で、作中で描かれたそれぞれの矢の特性を解説していく。
虹村形兆の矢
虹村形兆が所有し、ジョジョ4部の前半に登場するスタンド使いの多くを生み出した矢。作中で初めて登場した矢である。この矢は矢としての最低限の機能、つまり「刺した生物からスタンド能力を引き出す」機能しか持たない。
このため形兆はこの矢でスタンド使いを増やすにあたって、「異常な者ほどスタンドが目覚める可能性が高い」という情報をもとに、異常な者を手当たり次第に射抜き、能力が目覚めなかった者を何人も殺す結果になっていた。
作中ではこの矢は最終的に、スピードワゴン財団に回収されている。
ちなみに形兆の矢の外観は、後に登場する他の矢と比べると意匠が少なく貧相だが、この理由は2つ考えられる。1つは作品外の視点から、後に矢のデザインが豪華に変更されただけという可能性である。この場合、この矢が仮に作中で再登場していたなら、他の矢と同じ豪華なデザインで描かれていただろう。
もう1つの可能性は、この矢が前述したとおり最低限の機能しか持たず、6本の矢のうち最弱であるために、実際にこの1本だけが貧相なデザインという可能性である。そしてこの場合、前述した一揃いの矢が描かれたシーンでの形兆の矢は、他の矢の影になって外観が不明だった1本ということになる。
吉良吉廣の矢
吉良吉廣が所有し、吉良親子やジョジョ4部の後半に登場するスタンド使いの多くを生み出した矢。この矢は形兆の矢と違い、「スタンドの才能を持つ者を方位磁針のように指し示す」機能がある。そのためこの矢では相手が死ぬ心配はなく、効率的にスタンド使いを増やすことができる。
またこの矢は4部終盤で、キラークイーンのスタンド使い吉良吉影の肉体に強く引っ張られて勝手に刺し貫き、バイツァ・ダストという追加能力を引き出してもいる。
作中ではこの矢は最終的に、キラークイーンの爆弾の能力で吉良吉廣とともに爆破され、おそらくは消滅したと見られる。
ポルポの矢
ポルポが所有し、ジョジョ5部に登場するスタンド使いのほとんどを生み出した矢。かつてディアボロが1本だけ手元に残した矢であり、ポルポはディアボロが立ち上げたギャング組織の幹部としてこの矢を預けられている。
ただ正確には、この矢そのものでスタンド使いになったのはディアボロとポルポだけである。残る5部のスタンド使いたちに使われたのは、ポルポのスタンド「ブラック・サバス」の能力でコピーされた矢である。
そしてこの矢は4部に登場した2本とは異なり、生物の霊的領域のうち「邪悪な面」へと向かい、穴を開ける特性を持つ。この結果この矢で生まれたスタンド能力は、4部のものより邪悪で凶悪な能力が多い。
作中ではこの矢は最終的に、ポルポの死とともに破壊されている(その残骸がどうなったかは不明)。
レクイエムの矢
上記の3本とは外観が異なる矢。他の矢は中央部に目立つ穴が空いているが、この矢だけはそこを埋める形で独特なパーツ、昆虫か宇宙生物を思わせる形状のパーツが付いている。
この矢は2001年のジョジョ5部においてポルナレフが所有し、またジョジョ6部の過去回想の1987年では、DIOからプッチ神父へと手渡されている。
このタイプの矢はおそらく1本しか存在しないため、上記の2つは同じものである。ただ仮にこの2つが、同じパーツが付いた別の矢とするなら、前述した一揃いの矢が描かれたシーンでの外観不明の矢が、同じパーツ付きの矢ということになる
レクイエムの矢は6本のうちでおそらく最もパワーが強い。まずこの矢は吉良吉廣の矢のように、スタンドの才能が眠る者を方位磁針のように指し示せる。そして他の矢と同じように、生物を刺してスタンド使いにできる。
ちなみにこの矢が作中でプッチを刺してスタンド使いにした時には、この矢が持つ強力なパワーゆえか、彼の二卵性の双子であるウェス・ブルーマリン(ウェザー・リポート)にも、プッチと同じ場所に矢傷が表れ、スタンド使いに変えている。
そしてさらにこの矢には、この1本だけに可能な機能がある。その機能とは、すでにスタンド使いになっている者から出現している「スタンド」をこの矢で刺すことで、「レクイエム」と呼ばれるスタンドを超えた力を目覚めさせることである。
生物ではなくスタンドを刺して発現するレクイエムは、個々の生物の霊的領域よりさらに下層の領域、地球上の全生物の霊的な土台である、いわゆる「集合無意識」への穴を開けることで目覚める能力である。
そしてレクイエムの矢だけに付いている、昆虫か宇宙生物を思わせるパーツはおそらく、レクイエムによって物質世界に現出した集合無意識を、格納して留めおくための「器」である。集合無意識は人間とは全く異質の精神構造を持つため、レクイエム化したスタンド使い本体の「脳」に収めることはできない。そこで別の器が必要となり、その器を矢じりと一体化させて作られたのがレクイエムの矢というわけである。
これを踏まえて集合無意識の制御に成功した「ゴールド・E・レクイエム」では、集合無意識は本体であるジョルノ・ジョバァーナの脳に直接宿れない代わりに、集合無意識を収める矢じりが、レクイエム化したゴールド・Eの額に収まっている。そしてジョルノの意識が及ばない「キング・クリムゾン」の能力下では、ジョルノの代わりにこの矢に宿る意識が、レクイエム化したゴールド・Eの口を借りて喋っていた。
作中ではこの矢は最終的に、ジョルノの所有物として保管されることになる。
またジョジョ6部の序盤では、空条承太郎から娘の徐倫のもとに「砕けた矢の欠片」が送られ、徐倫他数名はこの欠片でスタンド使いになっている。
この欠片が上記の4本のいずれかの破片なのか、あるいは残る2本のそれなのかは不明である。ただこの矢の欠片の容器として用いられたロケットペンダントは、「レクイエムの矢」だけに付いている独特なパーツを模したデザインになっている。
このデザインに意味があるとするなら、この矢の欠片は「レクイエムの矢」のものということになるだろう。