「サヴェジ・ガーデン」は鳩のスタンド
サヴェジ・ガーデンは、ジョジョの奇妙な冒険第6部「ストーンオーシャン」で、「空条承太郎のスタンドDISC」を運んだ伝書鳩の名前である。
ジョジョ6部の主人公である空条徐倫は、6部序盤に敵であるプッチ神父の陰謀でグリーン・ドルフィン・ストリート重警備刑務所に収監される。そして徐倫を脱獄させるために面会に来た父親の空条承太郎は、プッチ神父のスタンド「ホワイトスネイク」の能力で、「記憶」と「スタンド」を2枚のDISCにして奪われる。この影響で生命活動を停止した承太郎の肉体は、刑務所の外に運ばれ、スピードワゴン財団によってコールドスリープと思しき状態で保存される。
刑務所内に残った徐倫は、「承太郎のスタンドDISC」の方だけを何とか取り戻し、このDISCを父の肉体に戻して生命活動を再開させるため、SPW財団に電話をかけてDISCの持ち出し方法を相談する。それに応じて財団が提案したのが「サヴェジ・ガーデン作戦」である。
徐倫は財団の指示で刑務所の中庭に行き、そこに飛んできた伝書鳩「サヴェジ・ガーデン」にDISCを託し、鳩は然るべき場所へと飛び去る。そして財団は鳩からDISCを回収し、作戦は成功に終わる。
しかしこの作戦は本来なら、普通の伝書鳩には実行不可能である。伝書鳩は手紙などを持たせた鳩を適当な場所で放し、鳩が持つ「帰巣本能」で鳩舎に帰らせることで、物品の輸送を行う。つまり伝書鳩を、人間に地図を渡して使い走りさせるように、その鳩が知らない場所に行かせることはできないのである。
そもそも普通の伝書鳩を刑務所の中庭に送り込むことが可能なら、刑務所側も伝書鳩を利用した密輸を警戒・対策するはずであり、不可能だからこそ対策していないわけである。
にもかかわらずサヴェジ・ガーデン作戦が成立したのは、サヴェジ・ガーデンが普通の伝書鳩ではなく、超常能力を持った伝書鳩、つまり「鳩のスタンド使い」だからと考えられる。
ちなみにサヴェジ・ガーデンがスタンド使いであることは、作品外の視点からも推測できる。ジョジョ6部では、キャラクター名(エルメェスやグッチョなど)はファッションブランド名から取られ、スタンド名は4〜5部と同じくバンド名・ミュージシャン名・曲名から取られている。
この命名規則に倣えば、「サヴェジ・ガーデン」はバンド名なので、スタンド名となる。つまり正確にはサヴェジ・ガーデンは「鳩の名前」ではない。
おそらくSPW財団は、この鳩が持つスタンド能力をサヴェジ・ガーデンと名付け、そしてわざわざ鳩自身に別の名前を与える必要もなかったため、スタンド名兼鳩の名前として、サヴェジ・ガーデンと呼んでいるのだろう(ちなみに、サヴェジ・ガーデン作戦で徐倫に協力した、記憶喪失のスタンド使い「ウェザー・リポート」も、スタンド名が本体名を兼ねている)。
しかしスタンド「サヴェジ・ガーデン」が、具体的にどのような能力かは、実のところ不明である。スタンド能力は基本原則として、何らかの「非物理的な現象」を必ず起こす(その現象はジョジョ作中で「新手のスタンド使いの導入演出」としてよく使われる)。しかしサヴェジ・ガーデンは、読者に見える範囲でそういう現象を起こしていないからである。
とはいえサヴェジ・ガーデンのスタンド能力を推理するヒントはある。その1つはサヴェジ・ガーデンが鳩という「動物のスタンド使い」ということである。
ジョジョに登場するスタンド使いはほとんどが人間だが、人間以外の「動物」のスタンド使いもたびたび登場する。そしてそれら「動物のスタンド能力」には、ここでは詳しく解説しないが、「人間がその動物に持っているイメージ」が大きく反映されるという性質がある。
例えばジョジョ4部に登場するドブネズミのスタンド「ラット」は、あらゆる物を溶かす「毒の溶解液」を作り出すが、これは人間がドブネズミに持っている「雑食性」と「不潔さ」のイメージを反映したものである。またジョジョ5部の亀のスタンド「ミスター・プレジデント」は、甲羅内に部屋を作り出して人を住まわせることができるが、これは古代の絵画に描かれた「巨大な亀が甲羅に世界を乗せている」イメージを反映したものである。
これを踏まえて「鳩」という動物は、何千年も前から人間に伝書鳩として使われてきた動物である。そしてサヴェジ・ガーデンはそのイメージが反映された、伝書鳩としての性能を強化する能力を持つと推理できる。
伝書鳩が、具体的にどういう方法で鳩舎に正しく帰れるのかは、現在でも不明な点が多い。ただ、視覚・嗅覚などの五感に加えて、地球の「地磁気」を感じ取る「磁覚」を体内に備えていて、それを最大限に活用しているとされる。
そしてサヴェジ・ガーデンはおそらく五感と磁覚に加えて、もう1つの感覚能力を獲得している。それはジョジョの世界の万物に宿る「知性」という霊的粒子から発せられる「霊波」を感じ取る、「霊覚」とでも呼ぶべきものである。それがあると仮定すれば、SPW財団がこの鳩を刑務所の中庭に送り込むことが可能となる。
おそらくサヴェジ・ガーデンは、財団によって霊波を重視して移動するように訓練されていた。その上でサヴェジ・ガーデンに、コールドスリープ中の「承太郎の肉体」から発せられる霊波を記憶させ、そのあとに刑務所の近くで放せば、鳩は「承太郎のスタンドDISC」から発せられる霊波を探知して、中庭にたどり着けるわけである。また「徐倫の肉体」も承太郎の肉体にそこそこ近い霊波を発していると考えられ、これも鳩の探知に寄与したかもしれない。
そしてDISCを付けられた鳩は、今度は帰巣本能で財団の敷地内にあるであろう鳩舎へ帰ることになる。またあるいはこの鳩は帰り道も「霊覚」を使って、承太郎の肉体がある場所を目指したとも考えられる。
ただこのようにサヴェジ・ガーデンが「霊覚」を持つと仮定した場合でも、実はそれは、この鳩のスタンド能力の「一部分」でしかありえない。なぜなら、前述したとおりスタンド能力は、何らかの「非物理的な現象」を必ず起こす。しかし上述した霊覚だけでは、サヴェジ・ガーデンの能力は「鳩の脳内」だけで完結し、非物理的な現象を起こさないからである。
例えばジョジョ5部に登場したサルディニア島の占い師は、「人の本質や未来の運命を100%言い当てる」力を持つにもかかわらず、「スタンド使いではない」とされている。それは彼の能力が彼の脳内だけで完結し、非物理的な現象を起こさないからである。
つまりサヴェジ・ガーデンがスタンド使いであるなら、この鳩の「真の能力」は何らかの非物理的現象を起こすことであり、霊覚があるとしてもそれは真の能力の一部でしかないことになる。
ただ肝心の「真の能力」が何かは、前述したとおり作中に描写がないため不明である。しかしここでも推理するヒントはある。それはこの鳩が作中でさまざまな「危険を回避している」という点である。
これに関してはまず、鳩が刑務所の監視員に見つかっていないことが挙げられる。刑務所側は前述したとおり、鳩を使った密輸を警戒してはいない。しかし例えばラジコン飛行機などでの密輸は有り得るため、空の監視はしているはずである。ただその監視が、鳩を含む野鳥なら飛んできても無視するというだけである。
これを踏まえてサヴェジ・ガーデンは、DISCを確実にホールドするために割と目立つ器具を足からぶら下げている。これが刑務所の空の監視に見つかれば、ラジコン飛行機が飛んできたのと同等の対応を取られ、作戦が失敗してしまう可能性が高まる。それはSPW財団側にも十分予見できることである。
またSPW財団の代表は徐倫との電話中、通話が盗聴されている可能性が高いことも予見していた。それはつまり、中庭に飛んできた鳩が徐倫と敵スタンド使いとの戦いに巻き込まれたり、あるいは敵が鳩そのものを見つけて狙うなどして、鳩が死ぬか飛べなくなるかする可能性が十分にあることを意味している。
実際にサヴェジ・ガーデンは作中で、刑務所の中庭にスタンド能力で降らされた「ヤドクカエルの雨」に巻き込まれかけ、またホワイトスネイクに拳銃で撃ち落とされそうにもなっている。ただ結果としてサヴェジ・ガーデンは、それらの危険から運よく免れている。
しかしもしかすると、財団が事前に予見したであろうこれらの危険を回避したことこそが、サヴェジ・ガーデンの「真の能力」かもしれない。
つまり「刑務所の空の監視に見つからなかった」のも、「ヤドクカエルの雨を食らわなかった」のも、「拳銃が弾切れだった」のも、すべてこの鳩が「何らかの非物理的な現象」を起こした結果というわけである。
ところで「鳩」は人間にとって「伝書鳩」以外にも、「手品の小道具」や「平和の象徴」というイメージを強く持たれている。これらのイメージは主に「白い鳩」に対してのものであり、サヴェジ・ガーデンはまさに白い鳩である。
手品における鳩は何も無かったはずのところから突然現れる。また手品全体では、人体切断や脱出マジックなど一見危険なことが行われても、それらの危険は必ず回避されて平和な結果に終わる。
また伝書鳩に話を戻すと、伝書鳩は最長で1000km以上もの距離を飛行して、高確率で無事に鳩舎まで帰れる。その手段は前述したとおり、現在でも不明な点が多い。
これら手品と伝書鳩の旅路に共通するのは、観衆や伝書鳩の利用者の目が届かない、人の視界の外で「何か」をして、平和裏に目的を遂げていることである。
これを踏まえてサヴェジ・ガーデンの能力とは、人の視界の外で「スタンドによる非物理的な現象」を起こし、その結果として物品の輸送を危険なく、平和裏に、100%近い確率で成功させられる能力と推理できる。SPW財団はその能力を信頼したからこそ、さまざまな危険を伴うDISCの運び手として、この鳩を選んだのである。
そしてこれが、徐倫たち作中の人物はもとより、読者の視界内でも能力が描写されなかった、サヴェジ・ガーデンというスタンドが持つ奇妙な性質なのだろう。