「動物」を本体とするスタンドの特徴
ジョジョの奇妙な冒険第3部から登場する「スタンド」は、生物が持つ「生命エネルギー」が形作るエネルギー体である。スタンドは個々の生物によって千差万別の姿を持ち、この姿を動かすことで特殊な能力を発揮する。
これらスタンドの本体になるのはほとんどが「人間」である。その一方で、人間以外の「動物」を本体とするスタンドも少ないが存在する。
それら動物本体のスタンドの姿と能力は、一見すると人間本体のスタンドと特に違いはないように見える。しかし実は動物のスタンドは、人間のものとはかなり異なる理屈のもとに作られている。以下でそれを解説していく。
まず重要な前提として、「スタンド」という生命能力を十分に扱える生物は「人間」だけである。この理由は、かつてジョジョ2部で人類が「究極生命体」なる存在を打ち破り、それが持っていた生命能力をスタンドに応用できる「資格」を得たからである。これがジョジョ3部の時代になって、スタンド使いが激増した要因の1つである。
そしてこの資格を持たない「人間以外の動物」は、本来であれば人間よりもはるかに拙いスタンドしか作れない。
しかしそこにある助力が働くことで、動物は人間に遜色のないスタンドを作ることが可能になる。その助力とは、「人間がその動物種に対して数千年かけて作り上げた集合的なイメージ」である。この巨大にして強固なる人間の思念が加わることで、資格を持たない動物も強力なスタンドを獲得できるのである。
ただしこれが理由で動物のスタンドは、「人間が持つイメージに歪められてしまう」こともある。例えば仮に、人間に「不潔」だと思われている動物種が、実は人間が思っているよりはるかに「清潔」だとする。そしてその動物に清潔不潔に関係したスタンド能力が発現すれば、清潔という「事実」よりも「誤解されたイメージ」が優先されてしまうのである
またこれに加えて動物が生み出すスタンドは、人間のスタンドほど「有機的」「生物的」な構造を持てない。人間のスタンドには「人型スタンド」、つまり本体の肉体構造をスタンドエネルギーで再現して作られたスタンドが非常に多い。一方で動物のスタンドがこれと同じことをしても、人間よりかなり拙い「無機的」「機械的」なスタンドしか作れない。これもまた動物が前述した「資格」を持っていないからである。
このように動物のスタンドにはさまざまな制約がある。しかし一方で動物のスタンドは、例えば「亀の甲羅」など人間にはない器官がスタンド能力に利用されることもある。これは人間のスタンドには不可能な、動物のスタンドにだけ与えられた特権である。
ではここからは、ジョジョ作中に実際に登場する「動物のスタンド」を1つ1つ見ていく。
「オランウータン」のスタンド「ストレングス」
ジョジョ3部に登場。本体はフォーエバーという名のオランウータン。そのスタンド「ストレングス」は、事前に用意した小型船をスタンドエネルギーで肥大させ、巨大貨物船に変える能力を持つ。
物質と融合しているためこの貨物船は実体化している。そしてその船体や船内の装置・機材は限りなく実物そっくりである。それゆえにこの貨物船に乗り込んだジョースター一行は、これをスタンドだと見抜くことができなかった。動物のスタンドは「無機的・機械的な構造しか作れない」が、それがこのスタンドでは逆に功を奏しているわけである。
「オランウータン」という動物はゴリラなどと同じく大型類人猿に分類される。その体格は人間に比べてずんぐりと太く逞しく、作中では「人間の5倍の力がある」と説明されている。また「霊長類」は一般に、人間に準ずる知能を持つと思われている。ストレングスはこれら人間を圧倒的に上回る生命エネルギーと、人間に準ずる知力のイメージが助力として与えられた結果、巨大な貨物船を正確な構造で作り出せる能力になっている。
ストレングスは人間や熊などには不可能な、大型類人猿だからこそ発現できた能力なのである。
「犬」のスタンド「ザ・フール」
ジョジョ3部に登場。本体はイギーという名の小型犬。そのスタンド「ザ・フール」は、周囲の砂やチリを集めて固め、さまざまな形を造形できる能力を持つ。
砂の塊であるザ・フールは通常は犬型スタンドの形をとっており、その姿は一見生物的である。しかしよく見ると体の各部は、眼球のないお面の顔、樽のような胴体、後ろ足代わりの車輪など、無機的な部品の組み合わせでできている。その中で唯一生物的と言えるのは前足だが、これも実際には、筋肉を模した風船状のパーツを膨らませたりしぼませたりして、筋肉と同じ働きをさせているに過ぎない。
「犬」という動物は、家畜化された生物の中では最も人間に身近な、家族といえる動物である。そして犬は俗説によると、「自分を人間だ」と思い込んでいるらしい。このイメージが助力として与えられ、人間が人型スタンドを作るように、固めた砂で犬型スタンドを模造したのがザ・フールなのである。
ただし本体のイギーはこのスタンド能力の影響で、人間並みの高い知能を持ち、「自分は犬」だと自覚できている。また彼はどちらかと言うと人間を嫌っている。しかしそれでも彼の思考形態は人間そのものであり、彼の人間嫌いは反抗期の子供のようなものである。
「ハヤブサ」のスタンド「ホルス神」
ジョジョ3部に登場。本体はペット・ショップと名付けられたハヤブサ。そのスタンド「ホルス神」は、つらら型の氷のミサイルを作り出して撃ち出す能力を持つ。
ホルス神はただつらら弾を撃ち出すだけでなく、人型スタンドならぬ鳥型スタンドを出現させることもできる。ただし「氷の彫像」のようなその体はかなり単純な作りで、プラモの関節のようにしか可動しない。
またその体側面には翼はなく、代わりにつらら弾を射出するための簡素な装置が付いている。もしホルス神が生物的なスタンドであれば、翼の羽ばたきでつらら弾を撃ち出す有機的な構造を作れたかもしれないが、動物のスタンドにはそれは不可能なため、翼が射出装置に置き換えられたのだろう。
「ハヤブサ」や鷹などの猛禽類は、古来より人間に使役されて狩りを行ってきた動物である。その鋭い目つきは感情を感じさせず、そして彼らは大空を高速で飛行し、風の寒さを意に介さず黙々と活動し、冷徹に獲物を襲う。
この「機械のように冷徹で忠実な兵隊」のイメージが助力となって、ペット・ショップは氷の能力を与えられたのだろう。
「ドブネズミ」のスタンド「ラット」
ジョジョ4部に登場。本体は杜王町に生息するドブネズミ。そのスタンド「ラット」は、ネズミサイズの小さな大砲のような姿をしており、これをネズミが操作して針を撃ち出し、針が当たったものをドロドロに溶かす。
そのスタンド像には生物的なところは全くなく、完全に機械にしか見えない。また作中でラットを持つドブネズミは「2匹」登場し、この2匹はスタンド像も能力も全く同一である。
「ネズミ」という動物は人間の歴史において、畑や貯蔵庫の食物を無差別に食い荒らし、疫病を運んだりもする完全な害獣として扱われてきた。ラットが撃つ針に備わる「何でも溶かすスタンド毒」の能力は、この「雑食性」と「不潔さ」のイメージの反映とみて間違いない。
また「ネズミ」という小動物は一般に、猿・犬・猛禽などの中型以上の動物に比べ、「知能が劣る」というイメージを持たれている。そして低知能な動物の本能を基にしたスタンドは、例えば昆虫の体が動物よりも機械的であるように、非常に機械的な姿になる。
その逆に、もしネズミが実際には上記の動物並に知能があるとしても、その事実よりも人間のイメージによる束縛のほうが強いため、やはりラットは機械的な姿になってしまう。
作中で東方仗助はラットを「ネズミにしてはメカっぽいスタンド」と評したが、むしろネズミのスタンドだからこそ機械的なのである。
「猫」のスタンド「ストレイ・キャット」
ジョジョ4部に登場。本体はタマと名付けられた猫。そのスタンド「ストレイ・キャット」は、周囲の空気を風船のように固めて操作する能力を持つ。またこの猫は、作中で仮死状態になったところをそのまま埋葬された結果、半猫半植物の「猫草」へと生まれ変わる。
「猫」は犬と同じく人間にとって非常に身近な動物であるが、にもかかわらず人間には理解できない神秘性を保っている。「何もないはずのところをずっと眺める仕草」などはその好例である。また猫が西洋の伝承で魔女の使い魔の定番であったり、日本で「猫又」の伝承が生まれたのも、この神秘性ゆえであろう。
また猫の体は、その見かけから想像するよりかなり異質であることがよく知られている。例えば猫をぶら下げたときの胴体が異常に長かったり、非常に狭い格子を難なくくぐり抜けたりすることなどがそれである。
これらの神秘性・意外性・柔軟性のイメージが助力となってこの猫は、「何もないところにある見えない空気を操る」能力を獲得し、さらには死にかけた肉体を植物に退化させて生き返るという離れ業も行えたのであろう。
「亀」のスタンド「ミスター・プレジデント」
ジョジョ5部に登場。本体はココ・ジャンボと名付けられた陸亀。そのスタンド「ミスター・プレジデント」は、本体の甲羅の中に一部屋ほどの広さの空間を作り出し、人や物を収納できる能力を持つ。
まず亀の甲羅は、言うまでもなく外敵から身を守るための装甲である。そしてこの最も特徴的な器官が、「亀のスタンド能力」の核となるのはまったく自然である。
次に亀の甲羅は、インドの神話で世界を乗せたり浦島太郎で人を乗せたりと、「物を乗せるのに適した」イメージがある。
さらに少し話がそれるが、ジョジョ5部の2001年から数年さかのぼった1990年代後半は、「エアマックス」という「空気を緩衝材に使ったランニングシューズ」が世界的に流行した時代である。
以上のイメージが複合された結果この亀は、甲羅の中に衝撃を緩和するための空間が作られ、さらに甲羅にはめ込む「鍵」によって、甲羅の上ではなく甲羅内の空間に物や人を乗せて運べるスタンド能力を得たのだろう。
「鳩」のスタンド「サヴェジ・ガーデン」
ジョジョ6部に登場。本体の名前もサヴェジ・ガーデン。SPW財団に飼われている伝書鳩である。作中ではスタンド能力を見せていないが、この鳩が作中で行ったことは普通の伝書鳩には不可能であるため、おそらくスタンド使いである。
鳩という動物はまず、サヴェジ・ガーデン自身がそうであるように、「伝書鳩」として何千年も使われてきた動物である。またサヴェジ・ガーデンは伝書鳩にしては珍しく「白い鳩」であるが、白い鳩には「平和の象徴」や「手品の小道具」といったイメージが与えられている。
これらのイメージが反映された結果サヴェジ・ガーデンは、手品のように種がわからない方法で自身に降りかかるあらゆるトラブルを回避し、伝書鳩として物品の輸送を確実に平和裏に遂行できる能力を獲得している。
「岩人間」「岩動物」たちのスタンド
ジョジョ8部に登場。「岩人間」とは、見た目は人間そっくりだが人間とは全く異なる生体構造を持つ生物である。地球上の普通の生物は人間を始め「炭素」を主成分とするが、岩人間は「ケイ素」が主成分であり、その肉体は岩のような特性を併せ持っている。
人間に酷似するが人間ではない彼らが、上述した「資格」を持つか持たないかは不明である。ただ作中での事実としては、彼らのスタンドは「有機的・生物的な人型スタンド」を持つことがある。しかしその姿は五体のバランスが明らかに「異形」であることが多い。
また8部には、岩人間と同じ進化系統に属する「岩動物」も登場する。岩人間が見た目は人間にそっくりであるのと異なり、岩動物は地球上のいかなる動物にも似ていない。岩動物は岩人間よりも岩に近い体を持ち、その岩の体は戦車のキャタピラのようになっていたり、髪留めに擬態していたりする。そして彼らはその姿に連動したスタンド能力を持っている。