深きを見抜く「予言」と「占い」
ジョジョの奇妙な冒険は、「霊的な力」が存在する世界を舞台に、ジョースターの血を引く主人公が世代交代しながら戦っていく物語である。「波紋編」とも呼ばれるジョジョ1〜2部は、外法によって生まれた「闇の生物」に対して、光の力である「波紋法」を身につけた主人公たちが立ち向かう。「スタンド編」とも呼ばれるジョジョ3部以降では、敵側も主人公側も「スタンド」という超能力で戦う。
そしてジョジョの世界とはそれらとは別に、「予言」や「占い」の能力を持った者も登場する。それはスタンドとはまた異なる超能力であり、確かな的中率でもって「未来」や「人の本質」を言い当てる。
そしてこの能力の原理は、ジョジョにおいて物質世界に接して存在する「霊的世界」、その領域から情報を引き出すことにある。
仮に「物質世界」を、前後左右だけに広がり高さのない一枚の「板」とする。それに対して「霊的世界」は、その板を浮かべる「海」のような世界である。この海の奥深くには、世界を霊的に導く「神」と呼ばれるものが存在し、それは深層から海流のようなエネルギーを起こし、物質世界にさまざまな影響を与えている。
また人間の肉体に宿る「魂」は、物質世界から霊的世界の浅い層へとまたがって存在している。それゆえに魂は霊的世界からの影響を強く受けつつ、肉体を行動させている。
霊的世界で起こるエネルギーの流れは、普通の人間には知覚することはできない。しかし一部の者は、霊的世界を観測することができ、また観測された霊的なエネルギーがいかなる意味を持つのかを解読できる。それらの者こそが、予言や占いの能力者なのである。
では以下に、作中で描かれた「予言」及び「占い」の能力と、その個別の手法について幾つか解説する。
老師トンペティの予言
ジョジョ1部に登場する波紋法の老師トンペティは「予言」の能力を持つ。それは相手の手を握り、「生命の波長」なるものを読むことで行われる。
その手法でトンペティは、初対面のウィル・A・ツェペリと握手した際に、彼が「波紋法の修業」に入ることで「死の宿命を背負うことになる」と予言している。そしてその3年後、さらに深くツェペリの「生命の波長」を読むことで、「どのような状況で死ぬか」まで詳細に予言している。
これにはジョジョ1部のストーリーが深く関係している。1部のラストでディオが語ったように、首だけとなったディオがジョナサンの体を手に入れることが「神が用意した運命」の結果だとすれば、その結果から逆算される因果の筋書きもまた運命づけられている。そしてその筋書きには、「ジョナサンに波紋法を教え導き」「全ての力を授けて死んでいく」役割の者も必要であった。
そしてトンペティは、ツェペリの生命波長が波紋法の道に入ることでいずれ、上述した役割にぴったり当てはまってしまうことを感じ取った。それゆえにトンペティはツェペリに警告を与え、しかし彼の覚悟と求めに応じてさらに深く生命波長を読み、神の筋書きに書かれた「その役割の者が辿る末路」をも読み取り伝えたのである(仮にツェペリが波紋法の道に入らなかった場合には、別の波紋使いがジョナサンを導き、力を授ける役割を担うことになっていたのだろう)。
そしてこの原理上トンペティは、神の筋書きに無関係な者に対しては、未来を詳細に予言することはできないと考えられる(それはさながら人の作る物語においてモブキャラの未来がどうでもいいようなものである)。
また作中でトンペティはジョナサンに初めて会った時、彼が握手に差し出した手を見て握手を避けていた。これはおそらくジョナサンの手から感じる「生命の波長」に、今はまだ読むべきではない運命を感じ取ったからだと考えられる。
モハメド・アヴドゥルのタロット
ジョジョ3部に登場するモハメド・アヴドゥルは、スタンド使いであると同時に「タロット占い師」でもある。そして彼が商売道具として持ち歩くタロットカードは、「人の本質」を知る力を備えている。
アヴドゥルは作中で、空条承太郎にタロットカードを1枚無造作に引かせるという手法で、彼の能力が「星」の暗示を持つスタンドであることを見抜き、「スタープラチナ」の名を与えている。またジョセフ・ジョースターのスタンド名「ハーミットパープル」も、同じ手法でアヴドゥルが与えた可能性が高い。
アヴドゥルのスタンド「マジシャンズレッド」は「魔術師」の暗示を持つ。そのタロット解釈は、雛鳥が卵の殻を破って外界に身を晒すように、新たな分野へ入ったものが自らを「開放」することである。その暗示により彼のスタンドは、体外へと吐き出したスタンドエネルギーを「炎」に変える能力を持つ。
そして「霊的な炎」ともいえるアヴドゥルのスタンドエネルギーは、熱気あふれる彼の性格もあって、彼がスタンドを出していない時もごく微弱なエネルギーとして常に彼の体から放出されていると考えられる。そして彼が持ち歩くタロットはそのエネルギーを受け続けた結果、霊的世界から物質世界へ持ち込まれた道具であるかのような効果を持つようになる(それは聖職者が神器を聖水で清め、「神の世界からの授かり物」として用いるようなものである)。
本来であれば複数のカードから1枚を引く行為は、物理的な確率論とランダム性に従うだけの行為でしかない。しかしアヴドゥルのタロットは上述した理由により、物質世界の物体でありながら霊的世界の法則に強く従う性質を得ている。このため彼のタロットカードはまるで霊的な引力があるかのように、承太郎に「星」のカードを引かせたのである。
ただ彼のタロット占いは作中では、「未来」を占う用途では特に使用されていない。つまり彼のタロットには未来を占う力はない。この理由は単にアヴドゥルの技量不足によるものかもしれないし、あるいはスタンド能力が複雑に絡むジョースター一行の未来を占うのが、実質不可能に近いからかもしれない。
サルディニア島の占い師
ジョジョ5部に登場した、サルディニア島の道端で露店占いをしていた男は、「人の本質」と「未来の運命」を看破する能力を持つ。その能力は超一級であり、彼の猫のような瞳は、物質に表れている霊的世界の影響を鋭く読み取ることで、占いと予言を行う。
彼はまず、「人相」や「手相」からその人間の「本質」を見抜ける。これは人間の「魂」がその肉体に与える影響を見ている。作中での彼はこの能力によって、二重人格を利用して少年ドッピオの姿を取っていたディアボロの、「魂の性質」と「これまでの人生」を言い当てている。
また彼は、相手に体に一時的に生じた「偶然の形」から、相手のその時の「行動目的」なども見抜ける。彼がジプシー占いを引き合いに出して語ったとおり、「偶然にできた形」は物理的な意図が無いゆえに、霊的世界の影響が素直に表れた「運命の印」となる。これによって彼はドッピオのズボンに付いた「泥はねの形」から、ドッピオ(ディアボロ)のその時の行動目的が「15年前に別れた娘を探しに来た」ことを言い当てている。
なお彼は占い用のテーブルに「水晶玉」と「タロットカード」を用意している。これらは作中では使われなかったが、これらも「光の反射」や「無作為に引く」偶然によって、「運命の印」を見るためのものなのだろう。
さらに彼の能力は、「写真」に写った者に対しても予言と占いを行える。ただしこの手法では本人自身を見る場合に比べるとわかることはかなり少ない。しかしそれでも彼は、作中でリゾットの写真から、この男がサルディニア島に来て、近く出会うであろうことを予言している。
なお予言や占いの能力は時として、「トト神」や「ローリング・ストーンズ」のようにスタンド能力に組み込まれる場合もある。ただしこのようなスタンドの割合はかなり少ない。
この理由は「スタンド」と「予言・占い」の能力の相性の悪さにある。スタンドとは、自分の精神的な個性で世界を変えようとする力であり、対して予言や占いは世界をあるがままに観測しようとする力である。このような逆に近い性質がために、両者が両立された能力は生じにくくなるのである。
また個性が予言を阻害する性質上、予言や占いが組み込まれたスタンド能力の本体は、「消極的」「傍観者的」な性格であることが多い。
以上、とりあえず分かっていることをひととおり。他の予言や占い(例えばポコロコが出会ったエンヤ婆に似た占い師など)についても、解き明かせたら加筆する予定。