儚き伴星ツェペリ一族

「ジョジョの奇妙な冒険」という漫画作品は知ってのとおり、ジョナサン・ジョースターから始まる「ジョースターの血統」が、世代交代しながら主人公を務めていく一大叙事詩である。そしてジョジョ1〜2部と7部には、彼らジョースターの師匠や相棒として、準主人公のように振る舞う一族が登場する。それが「ツェペリの血統」である。

ツェペリの血統として登場するのは、1部ではジョナサン・ジョースターの師匠ウィル・A・ツェペリ、2部ではジョセフ・ジョースターの相棒シーザー・アントニオ・ツェペリ、7部ではジョニィ・ジョースターの師匠兼相棒ジャイロ・ツェペリである。

ウィル・A・ツェペリ
シーザー・A・ツェペリ
ジャイロ・ツェペリ

そしてこの2つの家系、「ジョースター」と「ツェペリ」の、主人公と準主人公の立場を分けるものは、両者の「魂の輝き」の違いにある。

ジョジョの初代主人公であるジョナサン・ジョースターは、子供の頃からまっすぐな性格と勇気と生命の爆発力を備え、そして成人する頃には身長195cmの鍛えられた肉体と考古学研究の知性を獲得し、さらには「波紋法」という肉体内の生命エネルギーを操る才能もずば抜けていた。それゆえにジョナサンの「魂」は異常なまでに強い輝きを放ち、どんな困難も物語の主人公のように実力と強運で乗り越えていく。

ジョナサン・ジョースター

さらにこの「魂の輝き」は、霊的な形質としてジョナサンの子孫にも受け継がれ、彼らもまた物語の主人公のように活躍していく。

その強力な生命の輝きは、ジョジョのテーマである「人間賛歌」の「理想」といえる。しかしそれは逆に言えば「現実的ではない」ということでもある。ジョースターの魂は強力すぎるがゆえに人としてのバランスを欠いており、良くも悪くも「いびつ」なのである。

一方でウィル・A・ツェペリを始めとするツェペリの魂の輝きは、ジョースターのそれには遠く及ばない。しかしそこには人としての「正しく美しいバランス」がある。ツェペリの血統はジョースターに比べて良くも悪くも「常人の側」にいる。

そしてこのようなツェペリにとって、1〜2部の「波紋法」や7部の「黄金長方形の回転技術」はうってつけの技能である。これらはどちらも、常人でも死に物狂いで何年も修業すれば獲得できる技能であり、また人の肉体に本来備わるエネルギーを「正しく美しく」引き出す技能でもあるからである。

またこれは、ツェペリ一族が「スタンドの部」である3〜6部には登場せず、7部のジャイロ・ツェペリが鉄球の技術をメインに戦ったこととも関係している。スタンドとはその人間が持つ特徴的な部分だけをエスカレートさせて能力化したものであり、その性質上多分に「いびつ」である。このような力は、「正しく美しいバランス」を血統として受け継ぐツェペリが持つにはそぐわない。

これを踏まえて7部作中でジャイロが、「聖なる遺体」の所有で一時的に得たスタンド能力「スキャン」を、特に惜しげなく手放したのも、スタンドという「いびつな力」の所有にしっくりこない収まりの悪さを感じたからであろう。

スタンド能力「スキャン」

そしてツェペリの家系は常人であるがゆえに、ジョジョ作中で「人の肉体と精神の現実的限界」を色濃く示す。いびつな悪鬼羅刹の力が跋扈するジョジョの世界では、正しく美しいツェペリの生命はシャボン玉のように儚く、いつか怪力乱神の力に真正面から砕かれ、残酷な死を迎える運命にある。

しかしそれゆえに、弱き身でなお正義を貫くツェペリの生きざまは、ジョースター以上に鮮烈で美しい人間賛歌となる。ツェペリ男爵が語ったノミの例え話、「恐怖を克服する勇気の素晴らしさ」の話は、才能と強運に守られたジョースターよりも、ツェペリが語るにふさわしいものである。

そして死の運命に為すすべもなく呑まれる彼らが最期に願うこと、それは自分の最期の行動が誰かに何かをつなげるような、「未来を託す」死となることである。それはジャイロの父親グレゴリオ・ツェペリが語った「ネットの向こう側に落ちるボール」に通じるものであり、そして儚い彼らに望める最大限の「奇跡」である。