「星」を持つ者の使命と特権
「ジョジョの奇妙な冒険」という漫画作品は知ってのとおり、ジョナサン・ジョースターから始まる「ジョースターの血統」が、世代交代しながら主人公を務めていく一大叙事詩である。彼らは歴史の裏側で幾度となく人類の危機に立ち向かい、知恵と勇気、「波紋法」や「スタンド」などの超常能力、そして神に愛されているかのような強運で勝利していく。
彼らに強運が味方する理由は、作品外の視点から身も蓋もなく言えば「彼らが主人公だから」である。だがジョジョではそれとは別に、作品世界内の法則として彼らに強運が味方する理由がある。
ジョジョ1部の終わりでディオが語ったように、ジョジョの世界には運命を操る「神」が存在する。それは物質世界とは異なる「霊的世界」の奥深くにあり、そこから物質世界に働きかけている。
「神がいる領域」と「物質世界」とは非常に遠く離れており、それゆえに神は物質世界全体を俯瞰し、大局的に導ける。しかしそれゆえに神は、物質世界に生きる人間の一人一人までは認識できない。それがジョジョの世界の神の性質である。
しかしこの例外となる人間が存在する。それは「星」のように並外れて強い「魂の輝き」を放つ人間である。夜空の中で一等星の輝きが人の目を引きつけるように、燦然と輝く魂は神の目を強く引きつけるのである。
そして神は世界を導くにあたって、この「輝く魂を持つ人間」を活用し、また守ろうともする。これは例えば人が行動するにあたって、自らの手足を強く意識し、活用し、また周囲の物に不用意にぶつけたりしないように気を配るのと同じ理屈である。
こうして「輝く魂」を持つ者は神の導きのもと、ジョジョの世界で起こる超常的な事件に深く関わる使命と、神に守護される特権を得ることになる。
ジョジョの初代主人公であるジョナサン・ジョースターは、子供の頃からまっすぐな性格と勇気と生命の爆発力を備え、そして成人する頃には身長195cmの鍛えられた肉体と考古学研究の知性を獲得し、さらには「波紋法」という肉体内の生命エネルギーを操る才能もずば抜けていた。ジョナサンはそれらによって「強い魂の輝き」を放ち、神に選ばれる。
さらにこの「魂の輝き」は、霊的な形質としてジョナサンの子孫にも受け継がれていく。
そして彼らの「星」のごとき魂の輝きを象徴するかのように、彼らの姓であるジョースターには「スター」という単語が含まれる。
ただこのジョースターという姓は、ジョジョ3部に入って主人公が日本人ハーフの空条承太郎に交代することで失われる。しかしそれとタイミングを同じくして、ジョースターの血族には新たな「星」にまつわる特徴が明かされる。それが背中の首の付け根にある「星形のアザ」である。
こうして「輝く魂」の所有を示す記号が、姓ではなく肉体的な印に移行したことで、3部以降の主人公の姓は「ジョースター」に縛られなくなる。これはジョナサン・ジョースターの肉体を奪った吸血鬼DIOなど、敵側のキャラクターでも同じである。
そしてジョジョの世界がいったん終わりを迎える6部では、ストーリー後半の刑務所脱獄後に、「星のアザ」を持つ者が敵味方に7名登場して戦う展開になる。彼ら7名は各々が、「神に強く認識され」「神に守護される者」である。その上で彼らは戦い、勝ち残り、選ばれながら強力に運命を導き、ジョジョの世界を神が求める「天国の時」へと押し上げることになる。