幻想なき「技術」はただ地を転がる石ころのごとく。
ローリング・ストーンズ ROLLING STONES
本体名:スコリッピ <Scolpisce:刻む>
彫刻家
能力:苦しんで死ぬ運命の者を安楽死させる
スタンド形成法 | 射程距離 | パワー | 射程・パワー増加法 |
---|---|---|---|
運命擬物質 | 数km以上 | 低 | 全操作分離 |
当ページの要点
- 人がこの世に全く新たな何かを「創造」するには、新たなものを思い描く「幻想」と、それを現実化する「技術」が必要である。
- この論理は神秘学において「アイン・ソフ・オウル」と呼ばれる。
- ローリング・ストーンズはこれら「技術」「幻想」「創造」のうち、「技術」を暗示するスタンドである。
- ローリング・ストーンズは「苦しんで死ぬ運命の者」の苦しみを肩代わりする彫刻を作り出し、安らかに死なせる能力を持つ。
命の技術「アイン」(読み飛ばし可)
表示
宇宙・生命・人類・個人など、この世界の中で進化・成長する全てのものが、成長する際に辿る変化の共通性を図像化したものである『生命の樹』。ジョジョ3部のスタンドに深く関係するこの生命の樹には、それにまつわる概念の1つとして、「アイン・ソフ・オウル」と呼ばれるものがある。
アイン・ソフ・オウルは人が世界の中に、「全く新たな何かを創造する」術を示した論理である。その論理は極めて簡単で、「創造」は「技術」と「幻想」が噛み合わさって行われると説明される。この好例は「飛行機」の発明である。かつての人類は「空を飛ぶ」ことを幻想し、持てる技術のすべてを用いて試み続けた結果、それを創造したのである。そしてこの3つのうち、「技術」の力は「アイン」(Ain:無)と呼ばれる。
人の成長においてアインは、目の前にある困難をより便利に攻略する力として発揮される。例えば原始人は獣の肉を食べるとき、始めはそれを自分の歯で噛みちぎっていたが、やがて尖った石であらかじめ切ることを覚え、さらにこの石を研いで切れ味を良くしたり、持ち手を付けて扱い易くしたりと改良を重ねていく。これらの技術がアインである。
そしてこれは別の見方をすれば、「より適したものへの肩代わり」ともいえる。つまり固い肉を切るには歯よりも包丁のほうが適しており、そういった肩代わりの対象を作り出すのがアインの技術というわけである。
人はアインの技術を磨くことで、無駄な労力を減らし、より速く、簡単に、上等に成果を上げることができる。しかしこの技術を極限まで磨くのが、人の達しうる成長限界かというとそうではない。アインの技術は本質的に対症療法であり、これをどれだけ極めても「作業を行うこと」自体からは逃れられない。この観点から見たアインはさながら、奴隷が自分を縛る鎖を磨いて動きを滑らかにする行為でしかないのである。
例えば鳥が空を飛ぶことで地表の地形の束縛から解放されたように、人の成長でも奴隷の鎖そのものを破壊するかのような変化を起こすことは可能である。そしてそれが実現された時、鎖から解き放たれた人は、その先に広がる新たな世界へと進み出せるだろう。
スタンド解説
ローリング・ストーンズは、ジョジョの奇妙な冒険第5部「黄金の風」に登場する彫刻家、スコリッピのスタンドである。彼は幼少時から自然にスタンド能力に目覚めていた、生まれつきのスタンド使いである。
スコリッピはある種の霊的な超感覚力、身近な者に近く訪れる「死の運命」を感じ取れる霊能力を有している。この霊能力は、それ単体ではただの予知能力でしかないが、これにスタンド能力が加わることで非物理的な現象を引き起こす。その現象とは、死期が近い者の「死の姿」を象った「石」を生み出し、それを用いてその当人を「安楽死」させることである。
この「安楽死」の能力に巻き込まれる可能性があるのは、スコリッピと関わりのある者全員であり、たとえ面識がなくとも何らかの関わりを持った時点で能力の対象内となる。それらの者たちのうち、数日〜数ヶ月以内に死ぬ運命にあり、かつその死が「苦しみ」を伴う「無益な死」である場合、ローリング・ストーンズはその死を「安らかなもの」に変えるために発動する。その発動はスコリッピの意思とは無関係な自動的なもので、発動したが最後スコリッピにも止めることはできない。
ローリング・ストーンズは「未来に必ず起こる運命」を擬似的な物質に変えて作られる「実体化したスタンド」であり、外観は「石」そのものである。「今の世界」の中に現れ出たその姿は、最初は直径40cmほどの球体の形をしている。そしてその中に死すべき運命にある者の、「未来に死んだ時の姿」が彫刻として埋もれている。
なお隠された「死の姿」は等身大の人間の大きさであるが、石の大きさから分かるようにそれは全身像ではない(作中では胸を貫かれて死んだブチャラティの、胸から上の姿が彫刻になっていた)。
また出現時点の「石」の球体表面には、大きく「凶」の一文字が彫られている。スコリッピがこの漢字の意味を知っているかは不明だが、この文字は一説によると「落とし穴にはまってもがく者」を表す象形文字であるとされる。それは「不幸な死の運命から逃れられない者」を象るこのスタンドに相応しいものである。
出現した石は「象られた対象者」を自動的に追跡し始め、追跡途中に受ける物理的な衝突・衝撃などで少しずつ削れていく。そして中に隠された「死の姿」が露わになるほど、追跡能力は強くなる。
また追跡の際の動きは、「死の姿」が隠れている時と露わになった時とでかなり異なる。球体がほとんど削れていない時は、対象者の周囲数10m以内で現れたり消えたりしながら移動する。一方「死の姿」が露わになった後には、直接的に転がって対象者を執拗に追いかける。その動きはかなり緩慢だが、階段を転がって登ったり1mほどジャンプしたりする程度のパワーはある。
また「未来の運命」が物質化したこの石は、基本的には「今」に存在して「今」を移動するが、行く手を遮る障害物がある時には、ほんのわずかに自身を「未来」に持ち上げることもできるらしい。これによってこの石は障害物に対して、まるで天井が開いた迷路の壁を乗り越えるかのように移動できる。そしてその移動は物質世界上では、石が緩慢に障害物に沈み込んでいくように見える。
ローリング・ストーンズで彫刻された「死の姿」には、対象者に起こる「苦しみを肩代わりする」力が宿っている。そしてその効果は対象者が「石に触れる」ことで発揮される。
その時具体的に何が起こるのかは作中では描写されていないが、おそらくは生命エネルギーを全て吸い取られて、眠りに落ちるように安楽死するものと思われる。一方「石」の方はおそらく、「死の姿」と「当人の生命エネルギー」が揃って「運命の肩代わり」を終えた後で消滅する。なおこれらの効果が発揮されるのは、当然石に彫られた当人だけであり、他者が触れた場合は何も起こらない。
そしてさらにこの石は、死すべき者の苦しみを肩代わりするだけでなく、それ以上の「益」を周囲の者にもたらす。それもまたこの石が持つ運命改変効果の一端である。作中ではスコリッピの恋人が、この能力で安楽死させられたことにより、彼女の残した臓器が彼女の父親を救うという益をもたらしていた。
ローリング・ストーンズの運命改変は、無益にもたらされる「苦しみ」と「死」に対して、死を変えることはできない代わりに「より良い死」を与えるための能力である。しかしもしその当人や仲間がそれを望まない場合、「石」をバラバラに砕くことができればこの能力から逃れられる。しかしそれに成功したとしても、その者に本来起こる「死の運命」からは逃れられない。
ただし石の破壊によってローリング・ストーンズの能力から逃れた者は、「死を前倒し」にしようとしたこの能力の反動なのか、本来死ぬべき時(つまり石が彫った姿の時)を越えて、死人の体に魂が宿った状態で何日か活動を続けられる。しかし同時に「石」によって与えられるはずだった「安楽」と「益」も反動を生み、その死は本来より多くの「苦難」の後に与えられ、また周囲の者にも本来は生じなかった「犠牲」をもたらすことになる。
なお破壊され塵となった石はその最後に、もたらされる犠牲を塵で描き出す。その像にはスタンドとしての力はもはやなく、ただ未来の運命をいっとき示した後に、風に流され消えるだけである。
関連記事
- 『スパイス・ガール』
- アイン・ソフ・オウルの3つのうち「幻想」を暗示するスタンド。物質を「柔らかく」して壊れなくする能力を持つ。
- 『ゴールド・エクスペリエンス』
- アイン・ソフ・オウルの3つのうち「創造」を暗示するスタンド。物質に生命エネルギーを与えて「生物」を創造する能力を持つ。
- 『「波紋法」と「闇の眷属」そして「スタンド」の時代へ』
- ジョジョ3部以降の「スタンド使いの時代」の到来が、アイン・ソフ・オウルの論理に基づいたものであるという説明。
- 『ジョルノの前髪その他の象徴』
- 小ネタ置き場。
- 『「反転」していく冒険譚』
- ローリング・ストーンズが登場するエピソードのタイトルである「眠れる奴隷」という言葉についての簡単な説明。
- 『深きを見抜く「予言」と「占い」』
- ジョジョの世界での予言と占いの原理について。