スティッキィ・フィンガーズ STICKY FINGERS
本体名:ブローノ・ブチャラティ
<Buccellati:干しブドウなどが入った焼き菓子>
プロフィールJC63巻P146、エピソードJC55巻P169〜
能力:物体表面に「ジッパー」を作り出し、切開・接合する
スタンド形成法 | 射程距離 | パワー |
---|---|---|
身体同形体 | 2m | 高 |
当ページの要点
- ジョジョ5部に登場するスタンドのうち「ポルポの矢」で生まれたものは、3部のスタンドと同じく「タロット」に対応している。
- ただしそれらタロットは通常の解釈ではなく、より邪悪な解釈を与えられている。
- スティッキィ・フィンガーズが対応するタロットは「星」であり、その暗示は「悪浄化」である。
- スティッキィ・フィンガーズは本体ブチャラティの「良心を切り捨てきれない」心を反映し、物体の分割と接合を行えるジッパーの能力を持つ。
邪悪の樹(読み飛ばし可)
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宇宙・生命・人類・個人など、この世界の中で進化・成長する全てのものが、成長する際に辿る変化の共通性を図像化したものである『生命の樹』。ジョジョ3部のスタンドに深く関係するこの生命の樹には、「邪悪の樹」と呼ばれる上下逆さまに描かれた亜種が存在する。邪悪の樹とは、例えば社会の中で反社会的な組織が成長していくように、成長するものの一部が全体に反した成長を行うさまを表したものである。
「クリフォトの樹」とも呼ばれる邪悪の樹は、「邪な状態」を表す10個の円形「クリファ」と、それを結び「悪しき変化」を表す22本の小径「パス」から成る。そのパスに対応する22枚の「タロットカード」のうち、「邪に混乱せしもの」を暗示するクリファと、「邪に総括せしもの」を暗示するクリファを結ぶ「星」は、「構成要素の悪浄化」を暗示する。
反社会的組織が邪悪な成長として行う「悪浄化」は、組織のさらなる繁栄のため、不要なものを切り捨てることで行われる。例えば麻薬の販売という他人の人生を破滅させる行為は、人としての良心を捨てなくては実行に移せない。こういった良心を切り捨てるのが悪浄化であり、これによって反社会的組織は、より純粋化された邪悪として力強く栄えることになる。
ただし良心というものは人の心からそう簡単に切り捨てることはできない。このため組織がその構成員の隅々にまで良心なき行動を徹底させるには、彼らの心から少しずつ「良心を遠ざけさせていく」ことが重要となる。組織は彼らに良心なき行動を強制し、正当化させ、無心で行うように誘導していく。これが常態化することで彼らの心は良心という呪縛から少しずつ解き放たれ、いずれ完全に切り離されることになる。
そしてこのような組織のやり方は言うまでもなく間違っている。人には人として越えてはいけない領域があり、そこに踏み込むかどうかは、組織が邪悪な方向へと突き進むか引き返せるか、人の心が悪魔となるか否かの分水嶺である。
人はたとえ正義を貫くことが自分の不利益になろうと、目先の損得だけで自分の心が許せない邪悪に心を従わせてはならない。闇に呑まれて人が持つべき心の輝きを失ってはならない。そしてその心が世界の中で保たれるならば、世界は邪悪に道を踏み外すことなく、正しい道を成長していけるだろう。
スタンド解説
スティッキィ・フィンガーズは、ジョジョの奇妙な冒険第5部「黄金の風」の登場人物、ブローノ・ブチャラティのスタンドである。
そのスタンドは人型で、頭部の唇から上が球形の兜で覆われて両目は完全に隠されており、手の甲や肩など身体各部は薄いクッションのような装甲に覆われている。またその両頬と胴体の前面中心の体表にはジッパーのレールが走り、そして両手足の甲と喉の下・下腹部にはジッパーがぶら下がり飾り付けられている。
そしてこの人型スタンドは、殴った物体の表面に「ジッパー」を作り出し、その開閉で物体を「切り開く」または「くっつける」能力を持つ。
本体のブチャラティは、心優しい性格にも関わらずギャングの世界へ入らざるを得なくなり、心を痛めながら組織に尽くさねばならなくなった。そしてこのような「良心を切り捨てながらも切り捨てきれない」心理が、彼にジッパーのスタンド能力を目覚めさせる。この理由もあってそのジッパーは、単に切り開いただけでは物体のダメージにはならず、能力が解除されれば元どおりにくっつく。
S・フィンガーズのジッパーは「殴る破壊力」が変換して作り出されたものである。これによってジッパーは、殴った場所からレールが走り、殴ったパワーに応じて力強く開く。
このときレールが表れるのは物体表面だけだが、実際にはその能力は、物体深く切り開かれる「断面」全体に働いている(なおこのジッパーには「スライダー(引き手)」も付いているが、これについては後述する)。
またS・フィンガーズではジッパーが開く時、その面の間に「余分な空間」が作り出される。そしてその空間はこの能力において非常に重要な役割を持つ。まずその余分な空間には、「楔」のように面の間を押し開いて遠ざけ、面が勝手に閉じるのを防ぐ効果がある。
またこの余分な空間があるぶん、周囲の空間は「たわむ」ことになる。このため例えば鉄の壁であろうと、1本ジッパーを走らせれば布のように開いて人が通り抜けたりできる(ただしこれは空間そのものをたわませることでそう扱えているだけであり、壁の強度自体は鉄のままである)。
さらにこの余分な空間で引き離された断面同士は、空間を飛び越えて「つながった」ままである。つまり生物の肉体であれば、血管がジッパーで切断されて引き離されても、血流は空間を飛び越えて流れ続ける。
またジッパーで物体を開いて空間を作り出し、そこに何かを入れてからジッパーを閉じて消し、中の空間だけを維持することも可能である。
ジッパーで割られた「断面」は上記のように、基本的には「保護」された状態にある。そして能力が解除されれば勝手に閉じて、ダメージなく接合される。しかし一方で、ジッパーが物体を完全に分断して「2つ以上に分かれた」状態で能力が解除されれば、その時点で断面は物理的に「切断」されてしまう。
そしてS・フィンガーズでは、ジッパーによる断面が小さく断面同士の距離が近いほど、断面は「保護」状態に近くなり、逆に断面が大きく断面同士の距離が離れるほど、断面は「切断」状態に近くなっていく。これは断面の間にある「余分な空間」が大きくなるほど、能力の維持が難しくなるためである。ただこの性質は、ブチャラティの意志とスタンドパワーによって、ある程度ねじ曲げることが可能である。
この性質を踏まえて、例えばブチャラティは敵との戦いでは、ジッパーで割った断面をなるべく「切断」状態に近くしようとする。S・フィンガーズの攻撃はよほどクリーンヒットしない限りパンチ一発で敵の腕などを切り離すには至らず、分断されないその断面は「保護」状態にしかならない。しかしブチャラティはこれを「切断」状態へと近づけて、血が流れ出す程度の傷にできる。そしてそのあとにジッパーが解除されても、そこには多少の切り傷が残ることになる。
またS・フィンガーズが敵の肉体を殴りまくり切開しまくってそれら切開面が合わさって肉体のどこかを完全に分断すれば、それはすぐさま「切断」状態へと変えられる。
この逆にS・フィンガーズは、ジッパーで完全に切り離した物体でも、その断面の保護状態を保つことができる。そしてそれが生物の肉体である場合には、前述したとおり血流などは空間を飛び越えて維持される。ただしこの状態の維持にはそこそこのスタンドパワーが必要で、1〜2箇所程度であれば余裕でこなせる一方、肉体をジッパーでバラバラにするなどした場合には維持が追いつかなくなり、断面は保護できるものの血流などは止まってしまう。
S・フィンガーズのジッパーが物体上にどう走るかは、ブチャラティの意思でコントロールが可能である。ただジッパーは特に意識しなければ、その物体を最も短い直線で割れる方向に走り、これが最もパワーが強い。このためブチャラティは敵との戦闘では、ジッパーが自然に走るに任せ、腕や腹を殴ればジッパーはその部位を輪切りにする方向に走る。またS・フィンガーズの殴打が物体の表面をかすった場合には、かすった直線上にジッパーが走ることになる。
なおジッパーが解除されずに維持されるブチャラティからの射程距離は、建造物の壁などの物質にジッパーを走らせた際には10m弱はある。反面、スタンドへの抵抗力を持つスタンド使いの肉体を割った際には3m強といったところである。
ジッパーの能力は前述したとおり、ジッパーを閉じてレールを噛み合わせて、物体を「接合」することもできる。ただこれは正確には、ジッパーと一体となって存在する「余分な空間」の効果によるものである。ブチャラティの「良心を切り捨てきれない」心理が生み出すこの空間は、「プラス」の量を持って物体を力強く押し開くだけでなく、「マイナス」の量を持って物体を強力に引き寄せ接合することもできるのである。そしてそれゆえにこの接合は、ジッパーのレールの部分だけでなく「面全体」で行われている。
この接合能力は、基本的には両面テープで貼り付けたかのように2つの物体をくっつけるだけである。ただし切断された手などをくっつけた場合には、その生物自身が持つ霊的な自己治癒力で、血管や神経が元どおりにつながるよう誘導されるため、外科手術並の治療効果を発揮する(ただし傷そのものを治すわけではないので完治までには少し時間がかかる)。
さらに余分な空間が持つ「牽引のパワー」は、切り離された物体をつなぐロープとして、ジッパーのレールの形で表れたりもする。これによってブチャラティは作中で、切り離したS・フィンガーズの腕をレールでつなげ、遠くの物を殴ったりしている。つまりこの時のレールは切り離した腕を「つなげておく力」がビジョンとして表れたものである。
またレール上に現れるスライダー(引き手)は、普段はジッパーの開閉に応じて勝手に動くだけであり、付いている必要はあまりない。しかしブチャラティまたはS・フィンガーズがこのスライダーを直接つまんで引っ張れば、そのぶん開閉のパワーを増すことも可能である。
これ以外にもスライダーは、平らな壁面にジッパーとともに付けて、人間数人の体重を支える出っ張りとして掴んだりもできる。さらに、建造物に大きく開いたジッパーを閉じる際にスライダーをつまんでいれば、その人間を強力に引っ張り移動させることもできる。
ところでブチャラティは、「自分の本心を偽って組織に尽くす」心理から目覚めたS・フィンガーズの影響か、「他者のウソを見抜ける」という特技を獲得している。
ジョジョの世界では人がウソをつく、つまり自分の魂に対して肉体的な言動を偽ると、魂と肉体がわずかに乖離する。そしてこの時にその者が動揺などして体から「汗」を出すと、それには「魂の本心」が味付けされる。
そしてブチャラティは、相手の汗が当人の皮膚に与える影響を「見る」か、またはこの汗を自分の舌で舐めた「味」によって、相手の返答が本当かウソか分かるのである(この原理はジョジョ3部に登場した相手の心を読むスタンド「アトゥム神」の能力に少し似ている)。
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