ザ・フール THE FOOL:愚者
Tarot-No.0

2023/03/24改訂

本体名:イギー

犬(ボストン・テリア)、♂、高い知能を持つ、プロフィールJC24巻P89

能力:砂の集合から成る犬型スタンド

スタンド形成法射程距離パワー
無定形集合体 4〜5m

当ページの要点

  • ジョジョ3部に登場するスタンドは全て、「生命の樹」と呼ばれる図形に関係している。
  • タロットのスタンドは生命の樹の図上で「変化」を表すパスに対応する。
  • 「愚者」のパスは成長するものが、成長を始める分野に入り込む「進入」を行う。
  • ザ・フールは物質世界の「砂」と融合することで、物質世界に出現できているスタンドである。

タロット解説(読み飛ばし可)

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ジョジョ3部に登場する22枚の「タロットカード」は、占いの道具としてよく知られ、それぞれのカードにはさまざまな解釈が与えられている。そしてその解釈法の1つに、『生命の樹』と呼ばれる図像を絡めたものがある。生命の樹とは、宇宙・生命・人類・個人など、この世界の中で進化・成長する全てのものが、成長する際に辿る変化の共通性を図像化したものである。

「セフィロトの樹」とも呼ばれるその図は、「状態」を表す10個の円形「セフィラ」と、円形同士を結び「変化」を表す22本の小径「パス」から成り、タロットはパスの方に対応している(また3部後半に登場する「エジプト9栄神のカード」はセフィラに対応している)。

そして22枚のタロットのうち、「遊離せしもの」を暗示する「オシリス」のセフィラと、「進入せしもの」を暗示する「ホルス」のセフィラを結ぶ「愚者」は、「開始分野への進入」を暗示するカードである。

成長体は「愚者」のパスの起点である「オシリス」のセフィラに在る時点では、学校を卒業して就職先を決めていない者のように、どこにも属していない状態にある。そして周囲とのつながりが薄いその状態は、成長にはあまり適していない。ここから属すべき「分野」を決定し、そこへの「進入」を行うのが、生命の樹の最初に位置する「愚者」のパスである。

ただし成長体は進入した時点ではまだ、冷凍庫から出されたばかりの氷のように、周囲の分野に溶け込んでいない不安定な状態にある。そしてこれを安定化するための成長体の「開放」は、生命の樹の中心線を挟んで反対側に位置する「魔術師」のパスで行われることになる。

人が成長するにあたって進入する分野の選択は、当然非常に重要である。そして最も理想的な進入は、趣味を仕事にするように、自分の「願望」と「実利」を両立できる分野へ進入することである。しかしそのような選択肢は必ずしも用意されているとは限らず、その場合には何かを諦めなくてはならない。また人生においては自分の望まぬ環境への進入を強要されることもある。

そういった時に頼りになる選択の指針は、自分の「理想」や「目的」を自分の「仕えるべき主」と考え、その立場から判断することである。人は言うまでもなく常に正しい選択をできるとは限らない。しかし自分の中に確固たる哲学と信念を持ち、その基準から何に挑み、何を諦め、何から逃げ出すかを判断するなら、結果として誤りであった選択にも納得して力強く歩み続けられる。そしてその意志は自分ひいては世界を、さらなる成長に導くだろう。

スタンド解説

ザ・フールは、ジョジョの奇妙な冒険第3部「スターダストクルセイダース」に登場する小型犬、イギーのスタンドである。

イギー
ザ・フール

ザ・フールのスタンド体は、本体周囲の砂・チリ・ホコリ・微粒子を集め、固めて作られている。その姿は本体のイギーと同じく「犬」の姿だが、大きさは小型犬のイギーより二回りほど大きく、後ろ半身には後ろ足の代わりに大きなタイヤが付いている。またその顔は未開の部族が被る円形の仮面のようで、口部分は犬のように出っ張り尖った歯が並び、仮面の周りには羽飾りが放射状に付けられている。

そしてこのスタンド体は無定形の砂の集合であるがゆえに、さまざまな姿への変形・変身も可能としている(詳しくは後述する)。


本体のイギーは「犬」という「動物のスタンド使い」である。そしてここでは詳しく解説しないが、「動物のスタンド」には「人間がその動物に対して持っているイメージ」が強く反映されるという性質がある。

犬は人間の歴史において、人間に最も親しく近しい「家族」といえる動物であり、また犬は「自分を人間だ」と思い込んでいると俗説で信じられている。ザ・フールはこのイメージが反映された結果、人間が人型スタンドを出現させるのを真似て、犬型スタンドを出現させる能力となっている。

ただイギーはこの能力の影響で高い知能を獲得した結果、「自分は犬」だと自覚できている。また彼は「人間を家族」だとは思っておらず、どちらかといえば人間を嫌っている。しかしそれでもやはり彼の思考形態は人間そのものであり、彼の人間嫌いは反抗期の子供のようなものである。


ザ・フールは上述したとおり「人型スタンドを真似た犬型スタンド」である。ただしイギーには人間のそれを完全に真似ることはできず、その犬型スタンドは2つの点で人型スタンドより「拙い」作りになっている。

まず1つ目としてザ・フールは、スタンドエネルギーを単独で物質世界に力強く出現させ、維持することができない。そこでザ・フールのスタンドエネルギーは、砂粒以下の小さな粒状物質を「掴む」ことで、自身を物質世界に強く留め置ける性質を獲得している。そしてこの「粒状物質を掴んだスタンドエネルギー」が無数に集合することで、ザ・フールは形作られる。

なお粒状物質に水飴のように絡みついて融合したスタンドエネルギーは、その粒状物質本来のサイズより数回り大きくなる。このためザ・フールは周囲に砂・チリ・ホコリが少ない場所でも、犬型スタンド全身を問題なく出現させることができる(ちなみに粒状物質は当然地面や床面に最も多く溜まっているため、ザ・フールが出現する際には、地面から砂の山が盛り上がるようにして現れる)。

砂が盛り上がって現れるザ・フール

またこれら粒状のスタンドエネルギーは水飴のように互いにくっつくため、ザ・フールの体はただの砂の塊とは違ってかなりの強度を有している。


次にザ・フールの拙さの2つ目は、このスタンドが人型スタンドのような「本体身体との対応」で犬型スタンドを形成できないことである。ザ・フールは見た目こそ犬型をしているが、その実態は砂を固めた単純な構造のパーツを組み合わせて「犬の形を模造」しているに過ぎない。

またザ・フールは、イギーの意識が集中する前半身ほどパワーが強く構造が複雑で、逆に後半身ほどパワーが弱く構造が単純になっている。そしてその影響はザ・フールのスタンドデザインに大きく表れることになる。

ザ・フールのボディのうち最もパワフルで複雑な構造をしているのは「前足」であり、普通の動物のそれのように筋肉が複雑に入り組んで出来ている。ただこの筋肉は前述したとおり「本体身体との対応」で作られているわけではない。

ザ・フールは風船のような「袋状」のパーツを砂を固めて作り出し、これに「流砂状のスタンドエネルギー」を流し込んで膨らませたり、逆に抜き出してしぼませることで、筋肉の収縮・伸長と同じ働きを行わせている。ザ・フールの前足には数本のチューブが巻き付いているが、これはつまりはエネルギーの流し込み・抜き出しを行うためのものである。

またその前足の指先は、ザ・フールのボディで最も高密度にスタンドエネルギーを集中させることができる箇所であり、そこには猫のように出し入れできる「爪」がある。そして上述した筋肉で前足をパワフルに振り動かせば、その爪は敵の肉体を深く切り裂くことができる。

前足の爪とそれによるひっかき攻撃

ザ・フールの「頭部」は前足に次いで複雑な外観を備え、仮面のような顔の鼻・上あごから下あごは犬のように突き出し、口の中には尖った牙が並んでいる。この口にはおそらく前足と同じ構造の「筋肉」があり、(作中では行っていないが)噛み付き攻撃が可能と思われる。一方で「眼球」のような高度な感覚器官は砂のパーツでは作れないため、仮面の目の部分にはただ穴が空いているだけである。

次にザ・フールの「胴体」は、前足や頭部に比べるとかなり単純な球体に近い外観をしており、硬く形態を維持することを主眼としたような造りである(あるいはこの胴体部は、前足の筋肉へのスタンドエネルギーの送り込み・抜き出しをパワフルに行うためのタンク・ポンプとしての役割を持ち、そのための機構が内蔵されているのかもしれない)。

そして最後にザ・フールの後足は「タイヤ」に置き換えられている。この理由は前述したとおり、ザ・フールのパワーは後半身に向かうほど弱くなっているからである。そのパワーの低さでは、複雑な後足を形成しようとしてもかなり脆弱なものしか作れない。そんな貧弱な後ろ足を引きずるように使うよりは、単純な形状のタイヤにして転がらせたほうが便利というわけである。


ザ・フールは「砂」と融合しているため全身が実体化しており、非融合タイプのスタンドのように物質を「透過」することはない。またザ・フールは形成に本体身体を利用していないため、破壊されても本体にダメージを返さず、さらには破壊箇所を数秒足らずで再結合して修復できる。これらの性質によってザ・フールは、本体イギーを守る「防御壁」として非常に役立つ。

ザ・フールの基本形態である犬型スタンドの姿は、最もパワフルに活動でき、攻撃にも適した形態である。その一方でザ・フールは、イギーの意思で砂のスタンド体を「変形」させることもできる。

この変形は作中で2回行われている。1回は地中から襲いくる敵スタンド「ゲブ神」に対して、後半身のタイヤを翼に変形させて、前足でイギーを掴んで「グライダー」か「紙飛行機」のように宙を舞っていた。もう1回は敵スタンド「ホルス神」から逃れた川底で、イギーを包み込むドーム型にスタンド体を変形させて、空気を取り込む管を水面上に伸ばし、「潜水ポッド」になっていた。

グライダーモード
潜水ポッドモード

ちなみにこの変形に関連してザ・フールは、体内に取り込む砂・チリ・ホコリの量をかなりの幅で調節可能である。そして取り込む粒状物質の量を多くすれば、その体はより強固に固められる。逆に取り込む粒状物質の量を少なくすれば、そのぶん体が軽くなる。そして潜水ポッドモードは前者、グライダーモードは後者の状態を活用している。


さらにザ・フールの変幻自在の砂の体は、任意の生物の姿を真似て「変身」することもできる。ザ・フールは前述したとおり「動物のスタンド」であり、人間が犬に持っているイメージが強く反映された能力になっている。そしてザ・フールの変身能力は、俗に言う「犬は飼い主に似る」という主従関係のイメージを反映したものと考えられる。

作中でのザ・フールはまず、ペット・ショップとの戦いで本体のイギーに化けている。この変身は「本体のイギーとそのスタンド」という主従関係によって、ザ・フールをその主であるイギーに変身させている。

またザ・フールはヴァニラ・アイスとの戦いではDIOにも化けている。そしてイギーが面識のないDIOに変身できたのは、おそらくDIOがヴァニラ・アイスにとって絶対の主であることを利用している。つまりここでのザ・フールはヴァニラ・アイスの思念を使って、彼の主であるDIOの姿を造形したわけである。

砂で作った偽のDIO

なおこれら変身の造形がどこまで精巧かは不明だが、上記の2例ではどちらも暗い場所という条件付きで、相手を十分騙せている。


本体のイギーは犬であるため「嗅覚」が非常に鋭い。このため隠れて攻撃してくる敵や逃げた敵に対しても、匂いによる探知・追跡が可能である。またイギーの知能は前述したとおり非常に高く、人間の言葉も理解できる。そしてイギーはおそらくザ・フールを使えば人語の発声も可能であり、上記のDIOへの変身の際にはそれで喋っていた。ただ普段ジョースター一行などの人間と関わる際には何かこだわりがあるのか、喋って会話することはない。

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