ポルナレフの髪型が持つ「騎士」の暗示
当ページの要点
- ジャン=ピエール・ポルナレフの奇抜な髪型には図像的な意味がある。
- それはジョジョ3部に登場する「22のタロット」と「エジプト9栄神」のカードが配置される図形である「生命の樹」に関係している。
- 生命の樹は縦方向が長いか短いか、横方向が太いか細いかの組み合わせで、「小姓」「騎士」「女王」「王」と呼ばれる4つの姿を持つ。
- 生命の樹が「細長い」状態を表す「騎士」は、「他者との協力が不十分」な状態を暗示する。
- ポルナレフはまさにそのような性格であり、ゆえに「細長い髪型」にキャラデザされている。
ジャン=ピエール・ポルナレフは、ジョジョの奇妙な冒険第3部「スターダストクルセイダース」に登場するスタンド使いである。
そして彼は、頭髪を真上に垂直に立てて円筒形にまとめた、奇抜な髪型をしていることで有名である(ちなみに3部31話「皇帝と吊られた男 その5」扉絵のプロフィールによると、彼の身長は「185cm(髪を入れると193cm)」だそうである)。
ポルナレフがなぜこのような髪型をしているのかは、作品世界内の視点から見た場合には、本人が理由を語ったことがないため不明である。
一方で作品世界外の視点から見た場合には、この髪型にはとある「図形的な意味」を見出すことができる。それは「生命の樹」という図形にまつわる概念の1つである、「騎士」との関連である。
ただその説明はかなり長くなる。
まずジョジョ3部には、「22のタロット」と「エジプト9栄神」のスタンドが登場するが、これらは「生命の樹」という図形の、22本の線と10個の円に対応している。
次にこの図形上の22本の線(タロット)は2種類に分けられる。「左右で対になっているタロット」と「そうでないタロット」である。前者のタロットは、「0:愚者」と「1:魔術師」や、「5:法皇」と「7:戦車」など、8組16本ある。
そして残りとなる後者の6本はさらに2種類に分けられる。生命の樹の中心を走る3本と、中心線を貫いて横方向に走る3本である。
生命の樹の中心を走る3つのタロットは、「2:女教皇」が「摂取」、「14:節制」が「吸収」、「21:世界」が「変容」を暗示する。これは芋虫が葉っぱを食べて蝶に変態するような、「外部の要素を内部に取り込んでの成長」である。
一方中心線を貫いて横方向に走る3つのタロットは、「3:女帝」が「着座」、「8:力」が「管理」、「16:塔」が「累積」を暗示する。これは人間が集団の中で他者と上手く協力するような、「外部の要素を外部に置いたままコントロールする形での成長」である。
ここでこの6本の線に一つのルールを与えてみる。それは、「これら6本の線はそれの暗示する変化が大きいほど長く描かれる」というルールである。すると生命の樹はこのルールによって、「縦方向が長いか短いか」と「横方向が太いか細いか」の組み合わせで、「4つの姿」を持つことになる。
その4つとはすなわち、「短く細い」「長く細い」「短く太い」「長く太い」である。そしてこの4つの姿は、その長さと太さを人間の「身長の高さ」と「恰幅の良さ」に置き換えて、「ペイジ(小姓)」「ナイト(騎士)」「クイーン(女王)」「キング(王)」と名付けられている(ここでは詳しく解説しないがこれら4つは「小アルカナ」の「コートカード」と呼ばれるものである)。
その1つであり、「長く細い」に対応する「騎士」は、「自分自身の成長は十分だが、他者との協力は不十分な状態」を表す。そしてポルナレフはまさにそのような人物である。これは例えば妹の仇を見つけたときにジョースター一行から離脱したり、DIOとの戦いのときに他の3人と意見が割れて独断専行した行動に表れている。
つまりポルナレフは、スタンドで「戦車」の暗示を持つと同時に、性格面では「騎士」の暗示を持っているのである。
そしてこれを踏まえると、彼の精神の宿る頭部が、「騎士の図形」に対応する「細長い」形状の髪型なのは、非常にふさわしいものといえる。ポルナレフの髪型は作品世界外の視点から見た場合、このような図像的意味を持つのである。
ところで、上述したとおり「騎士」は「他者との協力が不十分」な状態を表し、これは基本的には短所である。ただ一方で「騎士」の状態は、他者との協調に労力を割いたり煩わされたりしないぶん、自由に先へ先へと進んでいきやすいという長所もある。
そして、ポルナレフの行動でこの短所と長所の両面が発揮されたのが、ジョジョ5部130話「ほんの少し昔の物語」で語られたエピソードである。
このエピソードでは、正体不明の青年が1986年にエジプトの遺跡で「6本の矢」を発掘したこと、1990年代にこれを知ったスピードワゴン財団が、空条承太郎やポルナレフとともに矢の追跡を始めたことが語られている。
そしてこの追跡でポルナレフは、矢を発掘した正体不明の青年が、1986年にイタリアのサルディニア島で死んだことになっているディアボロという男であること、この男が現在はイタリアで矢の1本を使って、スタンド使いを多数擁するギャング組織「パッショーネ」のボスとなっていることを突き止める。
しかしこれらを突き止めるためにパッショーネの縄張りに入り込んだポルナレフは、ディアボロに感づかれて外部へのあらゆる連絡手段や移動手段を封じられ、縄張り内で潜伏生活に入らざるを得なくなる。
そしてポルナレフは財団との定期連絡を行っていなかったため、財団はポルナレフが突き止めた情報を知ることがないまま、ディアボロとパッショーネは野放しにされることになる(数年後にジョルノ・ジョバァーナがディアボロを倒すまで)。
この出来事は一見すると、ポルナレフが財団にこまめに連絡する性格であれば避けられた、ポルナレフの失態である。しかしその一方でポルナレフが、財団の情報収集力でも突き止められなかった「矢を発掘した青年」の正体と行方に辿り着けたのは、財団と足並みを揃えるよりもまずは独断専行で突っ走ることを選んだ彼の性格ゆえの成果でもある。
つまりこの出来事は「騎士」を暗示するポルナレフの性格の、不可分な長所と短所がもたらした成果と失態であり、どうにもならない運命だったといえる。