運命に拾われた脇役ロバート・E・O・スピードワゴン

■ロバート・E・O・スピードワゴンは、ジョジョの奇妙な冒険第1部「ファントムブラッド」から、第2部「戦闘潮流」にかけて登場する男である。

スピードワゴン

■左頬の大きな傷跡と、ハの字型の眉が特徴的なこの男は、最初はただの端役、イギリス・ロンドンの暗黒街「食屍鬼街(オウガーストリート)」で、ジョナサン・ジョースターを襲う追い剥ぎとして登場する。しかし戦いの後にジョナサンの協力者となった彼は、そこからジョナサンの孫ジョセフの時代まで、半世紀以上に渡ってJOJOの冒険に関わり続けることになる。

ジョナサン・ジョースター

■スピードワゴンという人物は生来、無意識に「冒険」を求める人間であったらしい。彼は貧民街の生まれながら、人並み以上の知力と腕っぷしに恵まれ、冒険に憧れて外の世界に飛び出した。しかし彼の力量は、彼自身の旅路を物語の主人公のように「血湧き肉躍る冒険」にするには足りなかった。

■スピードワゴンは世界各国を放浪し、驚異的な自然現象や異国人の奇異な風習などを目にすることはできた。だがそれらは「冒険」というよりはただの「体験」であり、彼の心を満足させるものではなかった。そして彼は何年かの放浪の後に結局暗黒街に戻り、そこでありきたりな小悪党へと落ちぶれる。しかし彼はそこでジョナサンに巡り会う。

■ジョナサンと戦ったスピードワゴンは、ジョナサンのまるで物語の主人公のような、あふれるパワーと心の善良さに惚れ込む。こうして彼はジョナサンの味方となり、暗黒街でジョナサンを案内し、またディオ・ブランドーとの戦いに臨むジョナサンの助力になろうと、ジョースター家の屋敷にも同行する。

■そしてそこで彼は、ディオが「石仮面」という道具で「吸血鬼」と化す事件に遭遇し、その不死の魔物の力を体験する。それは彼のかつての世界放浪での、どんな体験も超えた出来事であった。

■そしてここからジョナサンの冒険の歯車は本格的に回り始め、「闇の吸血鬼」と「太陽の波紋法」の戦いが始まる。スピードワゴンはその戦いにも仁義の心から同行し、それによってスピードワゴンの冒険の歯車もまた回り始める。

■ところでスピードワゴンは作中で、「人の出会いは運命によって決められているのかもしれない」と語ったが、それは半分正しく、半分間違っている。ジョジョの世界の運命は、ジョナサンのように並外れた才能を持つ「主人公」的な人物に対しては、その出会いを強力に管理する。一方でスピードワゴンのように「人より少し秀でた」程度の人物は歯牙にもかけない。

■運命という力がスピードワゴン的な人物に働きかけるのは、ジョナサン的な人物の物語を紡ぐのに「有益」と判断された場合のみである。スピードワゴンのアウトローな性格や人の善悪を見抜く眼力、世界放浪で得た体験はいずれも、貴族の屋敷でまっすぐ育ってきたジョナサンには欠けた要素である。このためスピードワゴンは「ジョナサンの冒険を助ける者」として、運命を操る存在の手に拾われたのである。

■つまりスピードワゴンは、ジョナサンが進む道の途中にたまたま居たために選ばれたに過ぎない。もしこの運命の悪戯が働かなければ彼は、暗黒街でくすぶったまま一生を終えていただろう。

■ちなみにスピードワゴンと同じ運命の悪戯は、スピードワゴンと同じオウガーストリートの住人、ディオに毒薬を売った東洋人ワンチェンにも働いている。彼は(作中でスピードワゴンが出会いの運命について語った直後に)運命を操る存在の手に拾われ、吸血鬼ディオの下僕のゾンビとなる。そしてジョジョ1部の終わりまで、ディオの活動を助けることになる。

ワンチェン

■スピードワゴンに冒険の日々を与えたジョナサン・ジョースターの物語は、1889年にジョナサンの死とともに終わる。そして49年後の1938年に、ジョナサンの孫ジョセフ・ジョースターの物語が始まる。その間にスピードワゴンは、アメリカ・テキサスで死にかけながら油田を発見して世界有数の大富豪となり、その巨万の富で石仮面その他の超常現象を研究する「スピードワゴン財団」を立ち上げる。

スピードワゴン(ジョジョ2部)
SPW財団ワシントン本部

■ジョナサン亡き後の彼が、どのような動機で油田を探したのかはわからない。ただ確かなことは、財団の設立によって彼は、75歳の老人となった2部の世界でも、「ジョセフの冒険を助ける者」としてJOJOの冒険に関わり続ける資格を得たことである。

■こうしてスピードワゴンはジョナサン、ジョージ、ジョセフと50年以上に渡ってJOJOとともにあり続ける。しかしさらに50年後の3部の時代まで生きることはさすがに叶わず、2部の物語が終わってから10数年後の1952年、89歳のときに心臓発作で人生を終える。彼は生涯独身で、子を残すこともなかった。

■しかし彼が残した、彼の姓を冠するスピードワゴン財団は、ジョジョ3部以降の物語でも彼の遺志を受け継ぎ、財団の職員はまるで彼の子孫であるかのように、ジョースターの子孫が行う冒険を裏方として支え続けていくことになる。