神のささやきを聴く者ディオ・ブランドー
ディオ・ブランドーは、ジョジョの奇妙な冒険第1部「ファントムブラッド」で、主人公ジョナサン・ジョースターの宿敵となる人物である。畜生を絵に描いたようなダリオ・ブランドーを父に持ち、貧民街で育った彼は、心清らかな貴族ジョージ・ジョースターを父に持つジョナサンとは対照的な存在である。
ジョナサン・ジョースターは、まるで物語の主人公が作者に守護されるかのように、ジョジョの世界の「神」に守護される存在である。「生命力」にあふれる彼の肉体は、霊的視点では一等星のようにまばゆい輝きを放ち、その輝きは「神の目」を強く惹きつける。そして神は自らが持つ「運命を操る力」でもってジョナサンを導き、守護する。
一方でディオの肉体が持つ生命力は、ジョナサンのそれには遠く及ばない。しかしディオにはジョナサンの生命力とは異なる「霊的才能」があり、それによってジョナサンが立ち向かうべき宿敵たりえている。そして彼の霊的才能を知るヒントは、彼の左耳の「3つのホクロ」にある。
このホクロは、ジョジョの世界の人間の頭部内にごく稀に生じる、とある「霊的な器官」の影響が皮膚に表れたものである(カバンの中身がカバンの外観に膨らみを作るように)。その霊的器官とは、神が世界内に発する微弱な波動を感知・解読する器官、即ち「神のささやきを聴く耳」である。
この器官を生まれ持ったことでディオは、常に神のささやきを聴き続け、「神の叡智」を無意識に獲得する。その叡智は神が永遠に等しい時をかけて培った、「物事を効率的に有意義な結果へと導く術」である。そしてディオはこの叡智を自分の人生に活かすことで、貧民街の劣悪な環境をクレバーにスマートに生き抜いていく。
神の叡智は基本的に万能であり、応用次第でどのような物事に対しても効率的で優れた手法を得られる。例えばディオはジョナサンとのボクシングの試合で、20世紀に入ってから発達するとされるスウェーイングなどの技術を歴史に先駆けて見せているが、これも神の叡智をボクシングの身体操作にブレンドして編み出したものである。
しかし一方で、無機質に結果だけを求める「神の叡智」は、過程や感情も重視する「人の世の正義」とは大きく乖離している。このため神の叡智のみに従って生きるディオは、人の世界では手段を選ばない「生まれついての悪」であり、また理性の仮面が剥がれれば未発達な感情をさらけ出したりもする。
ちなみにディオの左耳のホクロを指摘した東洋人のワンチェンは、祖国で同じホクロを持つ者を見たことがあり、「その人物は波乱の人生を送ったが183歳まで生きた」と語っている。その人物もまた神の叡智によって、良くも悪くも常人には叶わぬ太く長い人生を謳歌したのだろう。
前述したとおりジョナサンは、「生命の輝き」によって神の目を惹きつける。一方でディオは、神と同じ「生命の波長」を持つことで神の目を惹きつける。そして神は、自身にとって「特別」でありながら「別々」であるこの2つが「1つになる」ことを望み、ジョナサンとディオ、そして「石仮面」という特殊な道具を、ジョースター家に集わせる。
石仮面の力で邪悪な吸血鬼となったディオは、ジョナサンとの戦いの果てに首から下の肉体を失い、頭部だけになってしまう。そしてディオは自分が取り戻すべき新たな肉体として、ジョナサンの肉体こそがふさわしいと結論づける。
ジョジョ1部の最終盤でディオはジョナサンに、「自分たちの関係は神によって計算されたもの」「自分たちは1つになるのが運命」と語り、ジョナサンの肉体を奪おうとする。そして、1部のラストでは失敗したかに思われたそれは実際には成功しており、彼は100年後のジョジョ3部の時代に復活する。
そして彼、「神の声を聴く頭部」と「神の目を惹きつける肉体」とが揃って誕生した「DIO」は、絢爛たる永遠を生きるため、神の叡智と神の守護のもと、世界の支配を目指すことになる。