その場しのぎの達人ジョセフ・ジョースター

ジョジョの奇妙な冒険第2部「戦闘潮流」の主人公であるジョセフ・ジョースターは、1部の主人公ジョナサン・ジョースターの孫である。彼は見た目こそジョナサンにそっくりだが、性格は紳士的で真面目だったジョナサンとは真逆で、かなり不真面目でふざけた性格をしている。

ジョセフ・ジョースター

そして彼は、ジョナサンが戦った吸血鬼やゾンビの上位種である闇の生物、2000年の眠りから目覚めた「柱の男」と呼ばれる4人の敵と、人類の存亡をかけて戦うことになる。

2部作中でジョセフが見せる戦いぶりは、ジョナサンに比べて実にトリッキーかつ知略的である。彼は闇の生物を蒸発させる「波紋法」のエネルギーはもちろん、機関銃や手榴弾、アメリカンクラッカーや手品・奇術のトリックから、口車まで何でも使って戦う。さらに彼は持ち前の鋭い観察眼で、時にシャーロック・ホームズばりの推理力を見せたりもする。

トンプソン機関銃をブッぱなすジョセフ
アメリカンクラッカーを操るジョセフ

これらジョセフの戦い方の根幹にあるのは、あらゆる手段を駆使して「場の流れを支配する」ことである。ジョセフは事前に用意しておいた道具や、その場にあるものを最大限活用して、「策を講じる」ことを戦いの主眼に置いている。これらによって場の支配が完了すれば、ジョセフが柱の男の1人エシディシに語った兵法書「孫子」の言葉どおり、「勝敗は戦う前にすでに決する」のである。

またジョセフは戦いの最後の手段として「逃げる」こともある。これはつまりは、ジョセフが今いる場所の流れを最大限支配しても「勝ちの目」が無いときに、場所を変えて仕切り直すための戦法である。

さらにジョセフは作中でちょくちょく、「敵の次のセリフ」を前もって言い当てるという芸当を見せている。これは現実的に考えれば、単純な推理力だけでは不可能な、もはや未来予知ともいえる芸当である。実はこれにはジョジョの世界に存在する「運命の力」が関係している。

「次のセリフ」を言い当てるジョセフ

ジョジョの世界には「運命」を支配する霊的な力が存在している。その力は例えば、ジョジョ1部で老師トンペティが、ツェペリ男爵の死にざまを「予言」した力などとして示されている。トンペティの予言は世界全体に及ぶ「大きな運命の流れ」を読み取ることで行われており、そしてその巨大な流れは基本的には変えることはできない。

老師トンペティの予言

これに対してジョセフは、自分の周囲にある「小さな運命の流れ」を、前述した権謀術数で操り、変える力を持っている。これによってジョセフがその場の運命の流れを完全に支配すると、ジョセフと戦っている敵は運命の流れに自分の言葉すら支配され、ジョセフはその言葉を100%の精度で予測できる。その結果敵はジョセフが予言したとおりの言葉を喋ってしまうのである(なおジョセフのこの超常的な力は、母親であるリサリサからの霊的な遺伝が突然変異して獲得されたものであるのだが、ここでは詳しくは触れない)。


ここで少し話を変える。中国の大河は大局的に見れば西から東へ流れているが、小さく見れば曲がりくねって東から西へ流れている場所もある。それはこの世界の「運命」においても同じである。世界は大局的には「大きな流れ」に支配され、その方向へと流れているが、局所的には運命に反した出来事も起こりうる。

人類の敵である「柱の男」は、肉体能力から知能に至るまで人類を大きく上回る存在であり、大局的に見れば人間よりも地球の支配者にふさわしい存在といえる。そしてこの仮定が正しいとするなら、「大きな運命の流れ」は彼らが勝利する方向に流れていたはずである。

しかしジョセフは彼らにはない「小賢しさ」を駆使して「戦いの場の流れ」を支配し、局所的に運命の潮流をねじ曲げて、サンタナ、エシディシ、ワムウを次々打ち破り、彼らの命脈を断ち切っていく。ジョジョ2部の副題が「戦闘潮流」と名付けられているのは、ジョセフの戦い方がまさに戦闘の潮流を操るものだからであろう。

しかしながら、ジョセフが柱の男との戦いで見せる戦法は、あまり真っ当とはいえず、むしろかなり「邪道」である。スポーツの試合でルールに定められていない方面に注力して勝とうとする戦法が歓迎されないように、ジョセフの戦い方も正々堂々には程遠い。

しかしそれでもジョセフは、自分を圧倒的に上回る生物種を相手に、人として(そして少年漫画の主人公として)許される範囲を保ちながら、「弱さゆえの工夫」にこそ人類の強みがあるかのように戦っていく。またジョセフは、ローマの地下でワムウから逃げた時のように、邪道によってヒーローの資格を示したりもする。


かつて地球は恐竜という大型生物に支配されており、人間の祖先となる哺乳類はネズミくらいのサイズで逃げ回りながら生きていた。しかしある日地球に巨大隕石が落ちて、恐竜は滅び、哺乳類は生き残った。人類の誕生につながるこの出来事は紛うことなきイレギュラーな棚ぼたの勝利であり、そして消化不良な決着ともいえる。

この恐竜と哺乳類の力関係は、柱の男と人類のそれに似ている。その上でジョセフは、「柱の男」がさらに進化した究極生命体カーズとの最終決戦で、内なる「生命の大車輪」の本能と直感に導かれて勝ちを拾う。それはおそらく人類が「正道を征くもの」として運命に選ばれ、地球の生命進化の担い手として肯定されたことを示すものである。

そして邪道ギリギリであり続けたジョセフの活躍によってジョジョの世界は、次なる「スタンドの時代」へと歩を進めることになる。